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書評:山中千尋『ジャズのある風景』晶文社

最終更新:2013年12月16日

書誌情報

書評

独特のセンスが素晴らしい。新作CD『Molto Cantabile』を聴きながら読むと至福。こういう文章の切れ味とか物の見方って,努力もしているとは思うけれども,最後は天性のものなんだろう。

表紙写真が誰かに似ているなあ,とつらつら考えて思い出したのは,「あさイチ」オープニングでの「あまちゃん」の受けが話題になっている,NHK有働由美子アナウンサーだった。どうでもいいことだが。

ともあれ,本書は山下洋輔さんのエッセイ『ピアノ弾きよじれ旅』などが面白いのと同じ意味で面白い,珠玉のエッセイ集なのだが,中でも唸ったのは,「海は広いな、大きいな――How Deep Is The Ocean」におけるイマジネーションの奔放さ,「一本の糸から」における繊細かつ鮮やかな比喩,「所変われば音変わる」が教えてくれる音への感性の可塑性,「九年後の後にも」の深み(これの感想を書き出すと止まらなそうだが時間が無い),「幻聴妄想かるた」「縄跳びとカモメ」「非モテ女の器用と不器用」「食品売り場のヘレン・ケラー」「地球脱出」「手作り残酷物語」の着眼点と言語感覚であった。

とくに,「地球脱出」は,あまりにも内容も表現も素晴らしすぎて抱腹絶倒ものであり,とても実話とは信じられない。まあ脚色はあるのだろうけれど。

別の意味で,ひどく興味をかき立てられたのは,山中千尋さんが紹介してくれる音楽であった。聴きたいミュージシャンがたくさんできてしまった。GEORGE RUSSELL "African Game",Wayne Shorter "Atlantis",Elvin Jones "Together"とか,Brad Mehldau Trio "Ode"とか,「今なら絶対ブルックリンバンド」に書かれている無名のブルックリンバンド……は見つけられないけれども,そこで「すでに大メジャーとなった」と書かれているBattlesとかDirty Projectorsというのを聴いてみたくなり,CDを探してみようと思った。

山下洋輔さんのエッセイや筒井康隆さんの小説が好きな人なら必読!!

【2013年12月16日】


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