最終更新:2014年10月20日
あの夏が帰ってきた。ひとことで言えば,そんな感じの本だ。2年前の夏の高校野球,準々決勝での横浜対PL学園の,延長17回にわたる死闘を再現したドキュメンタリーである。著者たちも認めているように,たった1つの試合のドキュメンタリーというのはきわめて稀だが,あの試合にはそうさせるだけの何かがあったという点には納得させられた。試合後の取材を通して掘り下げられた一つ一つのプレーの背景や,他の試合についてのコラムなどあわせて示されると,確かに高校野球のすべてが表れているといってよいように思った。
著者の一人,神田憲行さん(「ハノイの純情,サイゴンの夢(書評)」の著者でもある)は,あとがきで「できるなら甲子園にきていただきたい」と書いているが,甲子園は無理にしても,近所の球場で行われている県予選くらいは見に行きたくなったのは確かである。それくらいの熱さと引き込まれるものを感じた。
文庫化されて読みやすくなっただけではなく,文庫版あとがきに両チーム選手のその後の進路が載っているし,荒木大輔さんの「解説」(本書の解説というよりは,高校野球の解説)も付いていて,お買い得と思う。残念なのは,文章を読むことは著者のフィルターを通して見ることだから,こちらが知りたくても触れられていない場面があることだ。例えば,11回表,センター大西のバックホームをしたときの表情とか,そのとき他の野手はどういう動きをしていたのだろうか,とか。あの試合のビデオあるいはDVDがついた特別版とかいう企画は無理だろうか?
【2014年10月20日,旧書評掲示板ファイルから採録】