最終更新:2011年1月17日
著者の主張はくどいほど何度も繰り返されるので読み誤りようがないほどクリアだ。専門家である放射線科医による画像診断付きのAiをすべての死亡時に適用し,その費用を医療費の外からきちんと拠出すべしということだ。
この提言が実現すれば,死因不明社会の解消,医療事故問題がこじれるのを防ぐなど,数多の利点がある。著者は,Aiの提唱者でありながら,現在はAi学会の第一線からは敢えて離れ,アカデミズムとは別にAiセンター唱道活動をしているのだが,既存の権威からの抵抗が根強く,いろいろと苦労してきたそうだ。とくに厚生労働省の一部と法医学会と病理学会上層部の一部から反発や無視をくらい,病理学会重鎮からは名誉棄損で提訴までされてしまったということが,時間経過とともに赤裸々に語られているのが本書である。
少々同じ主張の反復が多すぎてくどいのだけれども,語り口自体は面白いし,本書でしか得られない情報もあったので,一読する価値はあったと思う。
会費は必要最小限(理想はゼロ)でオープンで会員なら誰でも発言できるMLで情報共有するというAi学会の運営手法も大変参考になった。北大の山内さんらと人類生態学会を作りたいという話をしたことが何度もあるのだが(ソロモン諸島の村でフィールドワーク中とか),Ai学会のやり方は使えるかもしれない。プラスするとすれば,査読つき英文誌だけれどもオンライン投稿でオンライン出版のみという学会誌を作ることだな。
なお,本書では,「アカデミズムの指導的立場にある方が名誉棄損訴訟に及ぶ前例のないものだ。科学研究の世界では,自由に相互批判することが尊ばれ,その努力が科学や医学の信頼性を高めてきた。」(p.376)とあるけれども,実はほぼ同様にみえる前例はある。海堂さんは,環境ホルモン濫訴事件:中西応援団の記録をご存じないのだろうか。
【以上,2011年5月5日,メモから収録し加筆修正】