最終更新:2012年11月20日(リンク先更新)
多くの著者によるオムニバスなので章によって濃淡があるのと,ぼくもオセアニア研究者の端くれなので知っていることも多いのだが,全体的に言って読みやすく面白い。値段も高くないし,一般の方がパプアニューギニア,ソロモン諸島,ヴァヌアツ,フィジー,ニューカレドニアからなるメラネシアについて知ろうと思ったら,これ以上の入門書はないのではなかろうか。ポリネシアについても古典的名著は数あるものの,サモアやトンガに現在生きている人々がどういう状況にあってどういう暮らしをしているのかということを知るために,格好の本だと思う。
非常に多岐にわたる内容を要領よくまとめた編者の努力は大変なものだったと思う。個人的にとくに印象に残ったのは以下2つである。サモアの住民参加型保健医療制度(32章)に書かれていた内容は,公衆衛生学の講義に使えるかもしれない。56章に書かれていたツバルの事情からすると,『マグネシウム文明論』に書かれていた海水淡水化システムや太陽光励起レーザ+マグネシウム還元システムは,ツバルなどポリネシアの島国に最適なデバイスかもしれない。
ソロモン諸島で一緒に調査をしていたときに,北大の大学院生に語っているのを聞いて感心したのだが,石森さんは実に語りがうまい。文章も読みやすく,さすが文化人類学者だと思った。本書は,日本オセアニア学会の情報化担当理事としてもお薦めしたい。
【以上,2011年5月5日,メモから収録し加筆修正】