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書評:川端裕人「へんてこな動物」,ジャストシステム

最終更新: August 18, 2005 (THU) 18:32 (書評掲示板より採録)

書誌情報

書評

オーストラリア(の離島),ニュージーランド,マダガスカル,カリマンタンといった隔離された生態系が生み出した動物たちにセンス・オブ・ワンダーを感じて,野生状態で生きている姿を追った,という写真集。

動物園でなくて,野外で撮ったという点にこだわりを感じる。裏テーマは島の動物だと書かれていたが,川端が島に惹かれるのは,池澤夏樹がハワイイに惹かれた理由と通底するものがある。著者後書きには,「彼らをへんてこだと感じる人間の視線の方がへんてこかもしれないという自己相対化も含めて楽しんでしまうのが正しい読み方だ」と書かれているが,ハニーポッサムとかカカポほどのへんてこさを,これほど鮮やかな写真と一緒に見せつけられてしまうと,とても自己相対化なんかしている余裕はなくて,生物多様性を生み出した歴史的偶然(必然?)の重みに圧倒されるばかりであった。

ただ,6歳の息子に見せたときは,それほどインパクトを受けなかったみたいだから,ぼくが感じている衝撃は写真だけじゃなくて,川端一流のコメントが果たしている役割も大きい。例えば,「世界昆虫記」と写真だけの力を比べると,迫力は見劣りする(注意深くみれば,ハニーポッサムの体重をばねばかりで量っている写真などにみられる繊細さは写真家の写真には滅多に見られない文脈を醸し出しているのだが,わかりにくい)。写真で読者を圧倒するためには,本の大きさも小さすぎると思う。もちろん,その辺りは著者川端もそうだし,企画編集の深澤真紀@タクト・プランニング(って,久美沙織の「孕む」の編集もしている人だよなあ)は十分わかった上で狙っている出版なのだろうけれど。高度だ。

余談だが,川端の自分語りが,たとえば「南の島に暮らす日本人たち」における井形慶子のそれと違うのは,自己相対化によって自分の発言を世界の中で位置づけてみせる点にある。フィールドワークに基づく研究論文と共通するこの書き方は,読者が著者と主観を戦わせる余地を残さないから,嫌いな人は嫌いかもしれないが,教養書には古来必須であったはずだ。自己相対化がないノンフィクションを創作とすると,川端のノンフィクションは評論的だ。読者は,この手法を含めて批判的に読むことによって,作品に描かれた事実だけではなく(もちろんそれも大事だが),その事実を巡る言説に関しても見識を高めることができる。ぼくはこの手法も好きだけどなあ。

【2000年9月4日記】


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