最終更新:2013年10月5日
数多のR本を訳したり書いたりされていて,仕事の早さには常々敬服している石田基広先生からご恵贈いただいた本(ありがとうございます)。意欲的な試みだし,値段も安いので,是非売れて欲しいと思う。
共立出版らしからぬ装丁は星海社のラノベ風というと言い過ぎか。丁寧体の文章はちょっと結城浩『数学ガール』シリーズを思わせるが,登場人物の造形は山田真哉『女子大生会計士』シリーズに近い感じ。いや,もちろん女子大生会計士シリーズは夏海公司『なれる!SE』シリーズ同様,女性の方が指導者なので,本書とは男女の役割は逆なのだが,文太&乱子の性格設定はカッキー&萌実に近い気がした。
ただし,データサイエンティストである文太が,統計学には素人な乱子にデータ分析の方法を教えながら価値をわかってもらう,という展開が,三人称の丁寧文で描かれる中に時折文太の心の声が挿入されるというスタイルなので,ラノベに付きものの「萌え」要素は控えめになっている。強いて言えば「夕日の公園」の辺りをもう少し追求したら,もっとラノベっぽくなるかもしれないが,たぶん,少なくともこうした試みの第1冊目としては,そこまでやるつもりは無かったのだろう。これって,もし売れたら続編は出るのだろうか? もし出るとしたら,扱っている対象がビッグデータでは無いのだから(もちろん,POSで取れるデータは,ある意味ではビッグデータなのだけれども,こういう弁当屋の客層にはある種の母集団を仮定することが可能だと思うので),新しい弁当メニューを追加するかどうかを決定するための介入研究の話にして,デザインの重要性を強調して,何を指標として使ったら良いかの検討,サンプルサイズの設計,コントロールの取り方といった辺りの話を書き込んでいただけると嬉しいかも。
弁当屋の売り上げという身近な題材を使って,グラフを使った記述統計の丁寧な説明から始まり,統計解析の基本中の基本といえる重要なところをしっかり押さえていくので(タイトルの「統計技師」の脇に「データサイエンティスト」とルビ? が付されていることから想像されるとおり,後半ではマーケティングや回帰モデルによる予測の話,果ては決定木にまで展開するが),狙いはむしろ向後千春さんの『ハンバーガーショップで学ぶ楽しい統計学』に近いのかもしれない。ロジスティック回帰分析の説明をラノベ風にするのは大変だったと思う。対数とかネイピア数の説明がごく簡単にされているが,ここをどの程度説明すればいいかのさじ加減は難しかっただろう。一般読者はどう感じただろうか。
文太が解析や作図をRでやっているという設定で,Rのコードも一部は文中に出てくるし,パッケージとしてwebでも提供されるそうなので,R使いの道への橋渡しもしてくれている。素晴らしい試みだと思う。
【2013年10月5日;10月7日加筆】