最終更新: May 6, 2009 (WED) 13:20
これは凄い本だ。保全生態学のモデルを,数式を出さずにグラフを多用して説明しているのだが,考察に関して未発表の私信データやコメントが多数引用されている。環境生態学,保全生態学における松田さんのポジションでなくては結びつけることのできない情報が多角的に呈示されるのが刺激的だ。さまざまな問いが投げかけられ,オープンクエスチョンのままになっているので,読者はいろいろ考えさせられる。ここを出発点にしてディベートしてみたら(例えば大学の講義とかゼミとかで)面白いんじゃないだろうか。
以下,読み進めながらコメントしてみる。
かつて共立出版から出た『環境生態学序説』の初版に比べたら誤植はきわめて少ないと思うが,4章の生命表のところで誤植を発見した。一番右のカラムのタイトル行はxも掛けないとおかしい(今のところ,サポートページには未掲載)。ちなみにサポートページには本に載っている図表を作るExcelファイルが掲載されているのだが,これをRに置き換えてみたら面白かろう(ちょっとやってみたコード例。右はこのコードの後半で表示されるグラフの例……乱数によって,結果は実行するたびに変わるはず)。
さらに3ヶ所の誤植をみつけた。(1)p.190の「をおこなう場所が必要性である」は,たぶん「をおこなう場所が必要である」だろう。(2)p.197の「酸素供給をはじとする公益的機能がある」は,たぶん「酸素供給をはじめとする公益的機能がある」だろう。(3)同じくp.197のリオ宣言第15原則で,「……残されていることが,……として用いてはならない」は,「……残されていることを,……として用いてはならない」か,「……残されていることが,……として用いられてはならない」のどちらかであろう。
読了後の感想としては,ともかく最後までinformativeかつ刺激的だったといえる。とくに,p.181「科学者は,管理者と行政権者と深く交わり,計画を作るときだけ発言して後は関与しないというのではなく,常に問題点を明らかにしながら管理計画にかかわり続けるべきである」には痺れた。松田さんが凄いのは,言うだけじゃなくて,それをちゃんと実践しているところだ。見倣いたい。
なお,本書はNTT出版の「やりなおしサイエンス講座」の第7巻なのだが,このシリーズ編集委員が,村上陽一郎,池内了,鬼頭秀一,立川敬二,長谷川眞理子,松井孝典と揃っているので,他の巻も読んでみたい。
【以上,2009年5月6日記】