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書評:蒲原聖可「ヒトはなぜ肥満になるのか」(岩波書店)

最終更新: August 24, 2005 (WED) 13:31 (書評掲示板より採録)

書誌情報

書評

ブルーバックスの「肥満遺伝子」で感じた疑問点に,かなりの点で解答が与えられている。自分で研究している蒲原さんならではの,臨場感溢れる語り口も魅力的である。栄養とか肥満とかいったことに関心のあるすべての人に勧めたい本である。文献リストもちゃんとついているので,レプチン研究の入門書としても役に立つであろう。願わくば,p.66の図7をp.51の図6やp.48の図5と合わせてフローチャートみたいな模式図にできたら,全体像をつかみやすいと思うのだが,それにはまだ不明な部分が多いのかもしれない。今後の研究の発展に期待したい。

目次は,以下の通り。

はじめに
1.消費エネルギーを倹約する遺伝子が肥満を引き起こす
ピマインディアンに起こった異変/コークとビッグマック/エネルギー倹約遺伝子説/肥満は摂取カロリーと消費エネルギーの収支差/脳は体重を気にしている/体重のセットポイント説/ダイエットはなぜ効かないか
2.肥満遺伝子の発見
遺伝性肥満マウスの発見/肥満遺伝子のクローニング/肥満遺伝子の働き/レプチンは食欲を抑制しエネルギー消費を増大する/レプチンは性腺成熟にも必要/脂肪組織以外で作られるレプチン/レプチンと免疫機能/肥満者と血中レプチン濃度の関係/「レプチン抵抗性」がヒトの肥満の原因/レプチン抵抗性の原因/レプチンのターゲットは視床下部/ヒトにおけるレプチンやレプチンレセプターの遺伝子変異/レプチンはやせ薬となりうるか
3.食欲は視床下部がコントロールする
食欲中枢の発見/食欲調節と体脂肪量の関係/レプチンは視床下部に作用する/最初のレプチンのターゲット−視床下部性ニューロペプチドY/アグーチ,POMC,メラノコルチンの関係/レプチンのシグナルは視床下部の内側から外側へ向かう/視床下部外側野で注目される新たな分子/弓状核で働くCART/視床下部のペプチドはどれが重要か)
4.エネルギーを燃焼する分子
ヒトにおけるエネルギー消費/エネルギー倹約遺伝子の候補/熱を産生する膜タンパク質−脱共役タンパク質/熱産生はエネルギーを消費する/冬眠動物が体温を維持するメカニズム/脱共役タンパク質は筋肉や白色脂肪細胞にも存在する/脱共役タンパク質ファミリーの遺伝子変異/脱共役タンパク質とレプチン/やせ薬のターゲットとしてのUCP/アドレナリンがエネルギー消費を促す/ベータ3アドレナリンレセプターが脂肪細胞でエネルギーを消費する/肥満者における変異/ベータ3アドレナリンレセプターの異常が肥満を引き起こすメカニズム/肥満の治療薬としてのベータ3アドレナリン作動薬
おわりに
参考文献
索引

UCPの話はおそらく未発表のデータも含んでいるし,「おわりに」で触れられているDNAチップの話も新しい。最新の生命科学の片鱗に触れるのにも好適の本と思う。

【1999年5月1日記】


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