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介護福祉

最新の更新: June 15, 2009 (MON) .

介護と福祉の制度と,そのequalityやequityを考える。

参考文献

高齢者の介護福祉

基本的枠組みとその歴史的経緯

高齢社会対策大綱

目的:
今後わが国が本格的な高齢社会に移行する中で,国民の一人一人が長生きして良かったと誇りをもって実感できる,心の通い合う,連帯の精神に満ちた豊かで活力のある社会の確立
手段:
経済社会システムが,これからの高齢社会にふさわしいものとなるよう不断に見直す。個人の自立や家庭の役割を支援することにより国民の活力を維持・増進
自助,共助及び公助の適切な組み合わせにより安心できる暮らしを確保
基本姿勢:
高齢社会対策基本法の理念に基き,すべてのstakeholderが相互に協力しあうことにより社会全体が支えあう体制の下,以下の基本姿勢に立って対策推進。
  1. 旧来の画一的な高齢者像の見直し
  2. 予防・準備の重視
  3. 地域社会の機能の活性化
  4. 男女共同参画の視点
  5. 医療・福祉,情報通信等に係る科学技術の活用
団塊の世代の高齢化対策:
1. 多様なライフスタイルを可能にする高齢期の自立支援
2. 年齢だけで高齢者を別扱いする制度,慣行等の見直し(そのために,高齢者の人権侵害問題に積極的に対応し,ユニバーサルデザインの強化を図る)
3. 世代間の連帯強化(ここに,「社会保障制度等については,給付と負担の均衡を図るとともに,年齢にかかわらず,能力に応じ公平に負担を求める」とあり,後期高齢者医療制度の発想の萌芽がある)
4. 地域社会への参画推進

介護保険法

老人福祉制度の柱の1つとして,2000年4月1日に施行された。保険者は市町村。被保険者は40歳以上の者で,そのうち65歳以上は第1号被保険者,40歳以上65歳未満は第2号被保険者。第1号被保険者の保険料は市町村ごとに設定され,第2号被保険者の保険料は全国一律。

65歳以上では要介護・要支援状態と判断された場合は原因によらないが,40歳以上65歳未満の場合は,初老期認知症,脳血管疾患,回復の見込みがないと診断されたがんなど,16疾患について要介護。要支援認定されたときのみ,介護保険によるサービスの給付を受けられる。サービスを利用するには,介護認定審査会で要介護認定を受けてから,その判定に応じて利用するサービスを利用者自身が決定することになっている。

2005年改正により,予防重視型システムへの転換が図られた。具体的には要支援1,要支援2と認定された場合は新予防給付が行われ,介護保険非該当の者も地域支援事業(特定高齢者対策と一般高齢者対策)が行われることで同法の恩恵に与れるようになった。そのため,全国に「地域包括支援センター」が設置された。

各種の介護サービス(pp.293,表11-5)

上述の通り,負担の公平性を狙った介護保険法施行後は,介護認定審査会で要介護認定を受け,それに基いて適切なサービスを受けることとなった。ただし,受けられるサービスの自由度が低下したという批判があるし,施設側でも提供するサービスの内容への規制が強まったりして運営しにくくなったという批判もある。

在宅福祉サービス
訪問介護(ホームヘルパー)
短期入所生活介護(ショートステイ)
日帰り介護(デイサービス)
認知症対応型老人共同生活援助事業(グループホーム)
老人福祉施設
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:65歳以上の者であって,身体または精神上の著しい障害のために常時の介護を必要とする者で,居宅において適切な介護を受けることが困難な者を入所させる施設)は1965年には27施設,1912人定員だったのが,2006年には5716施設,399352人定員へと大きく増加した。
老人日帰り介護施設(デイサービスセンター)
老人短期入所施設
養護老人ホーム(65歳以上で,身体・精神・環境・経済の理由で居宅での生活が困難な者)
軽費老人ホーム(家庭環境や住宅事情等の理由で居宅での生活が困難な者を低額な料金で入居させる施設)
在宅介護支援センター
老人福祉センター

障害者の介護福祉

障害者自立支援法がもたらした変化は大きい。本質的な価値観の転換[caregivingからencouraging autonomyへ]があった。

2001年の省庁再編に伴い内閣府に設置され,歴代首相が議長を務めてきた「経済財政諮問会議」が例年初夏に打ち出す「骨太の方針」は国の構造改革路線の根幹になっている。(…略…)二〇〇六年度のそれは,過去五年間にわたる改革を踏まえ,今後とも同様の努力を継続すると強調。生活保護など社会保障分野の抑制を明記していた。

障害者自立支援法もまた,自己責任原則を掲げる構造改革の一環である。障害者福祉の発想を従来の“施し”“措置”から,就労をはじめとする“自立支援”の考え方に変更すると謳った同法は,福祉サービスを受ける障害者に原則一割の定額負担を求めた。このために施設の利用さえ困難になった障害者が続出する結果も招かれているのだが,詳しくは後述する。

(…略…)障害者福祉の考え方を応能負担から応益負担へと大転換した(…略…)

そもそも障害を持つ人が利用する各種施設のサービスは,“益”に当たるのだろうか。障害者自立支援法は,重度の障害者にとって不可欠な食事や移動,排泄,コミュニケーションなどに関わる人的な支援を“益”と見なしている。国会審議の過程でも,厚生労働省の社会・援護局長が,障害者のこうした生命維持に要する費用と一般の電気やガス料金とを同等に捉えた発言があった(後に陳謝)。

(出典)斎藤,2009,pp.185, 191

障害は当事者個人にとって不可避性,不可知性,不可逆性(多くの場合),普遍性をもつものなので,個人の責任ではなく,社会全体で保障していくという考え方が根幹にあるべきと言われている。

精神保健福祉活動

対象
対象は精神障害者を含む国民全員である。
目的
一次予防(狭義の予防),二次予防(早期発見と治療),三次予防(社会復帰)を図ることを目的とする点は,精神保健福祉活動も他の保健福祉活動と同様。
活動
活動を担うのは保健所(精神保健業務としては[1]管内の精神保健の実態把握,[2]精神保健福祉相談,[3]訪問指導,[4]患者家族会等の活動に対する援助・指導,[5]教育・広報活動,協力組織の育成,[6]関係機関との連携,[7]医療・保護に関すること,とされる)と精神保健福祉センター(保健所を指導・技術援助する目的で整備された専門機関で,各都道府県1つ以上。http://www.pref.nagano.jp/xeisei/withyou/list/list-mhwc_jp.htmにリンク集がある。群馬県では「こころの健康センター」)。
群馬県の特徴として,アウトリーチ活動(精神科で通報になりそうな救急事例に対して,医師,保健師,事務員のチームが出向いて対応する)に力を入れていることが挙げられる。早期発見が大事なので有意義。従来の医療・司法のあり方では適切な対処ができていなかったので,画期的な取り組みといえる。「こころの健康センター」の精神科救急情報センターが対処している。
精神保健二次予防に特異的な入院制度
病識の欠如により二次予防が困難な場合があり,都道府県知事は,2名以上の精神保健指定医の判定により入院しなければ自傷他害の恐れがある場合は強制的に入院させること(措置入院)が可能。
都道府県知事は,緊急の場合(自傷他害のおそれが著しく急速な対応を要する時)には,精神保健指定医1人の判断で,72時間以内なら強制的に入院させること(緊急措置入院)が可能。
精神病院管理者は,急速な対応を要するにもかかわらず保護者の同意が得られない場合,精神保健指定医1人の判断で,72時間以内なら強制的に入院させること(応急入院)が可能。
精神保健指定医1人の診察により入院が必要と判定された場合,精神病院管理者は,保護者または扶養義務者の同意があれば,本人が同意しなくても医療保護入院という形で入院させられる。その場合,精神病院管理者は,10日以内に同意書を添えて保健所長を経て都道府県知事に届け出る義務がある(精神保健福祉法第33条)。
このように,本人の意思に反して入院させる場合が多々あるのが精神科の特徴。
ただし,患者自身の同意に基づき,書面による意志の確認をしてから入院する「任意入院」が1999年度の場合,全体の約7割。
法制
現行の法律としては,1950年に制定され,その後何度も改正を経て,1995年から「精神保健および精神障害者福祉に関する法律」(通称「精神保健福祉法」)[全文:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO123.html]となった法律に基づいて行われている(国立療養所賀茂病院のサイト内,http://www.hosp.go.jp/~kamo/seido/seihohou.htmに詳しい。1995年改正までの法律はhttp://www.hosp.go.jp/~kamo/seido/seihoh11.htm,1999年改正により,2000年施行分がhttp://www.hosp.go.jp/~kamo/seido/seihoh12.htm,2002年施行分がhttp://www.hosp.go.jp/~kamo/seido/seihoh14.htm,2005年改正分がhttp://www.hosp.go.jp/~kamo/seido/seihoh17.htm)。
最初の法律は1900年制定の「精神病者監護法」で,私宅監置を公認したもの。
1950年「精神衛生法」でやっと私宅監置が禁止された。精神衛生相談所と精神衛生センターが設置された。1965年の精神衛生法改正で通院医療の充実が図られるようになった(通院医療費の公費負担)。
1984 年に宇都宮病院事件が発生し,1988年に患者の人権に配慮した「精神保健法」となった。
1995年に「精神保健福祉法」となって福祉の視点が強くなり,「自立と社会参加の促進のための援助」が目的として謳われるようになった。精神障害者保健福祉手帳が作られ,市町村の事業への参加も謳われた。1999年改正で市町村中心の事業整備(在宅精神障害者への福祉事業としてのホームヘルプ,ショートステイ事業)。また,社会復帰対策として,社会復帰施設の整備(生活訓練施設,福祉ホーム,グループホーム,作業訓練施設)が謳われた。
障害者自立支援法(2005年制定,全文:http://law.e-gov.go.jp/announce/H17HO123.html,厚生労働省内参考ページ:http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0214-1a.html)施行に伴い,社会復帰施設の事業体系が大きく変わった。

精神保健福祉活動における今後の対策課題

早期発見と受診経路の確立(p.317,図12-12)
受療率が有病割合を大きく下回っているので,患者が相談できる窓口として,かかりつけ医師のほか,保健師や精神保健福祉センター「心の電話」などがまず重要。
次に保健医療従事者が必要に応じ精神科医を紹介するが,そこで専門医受診を躊躇する偏見を取り除くことが必要。
患者の重症度に応じて必要なだけの精神科医療を受けられるような体制の整備ももちろん必要
医療費負担の問題
精神保健福祉法32条による医療費負担の問題。大枠としての医療費削減という視点から見れば,厚生科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業)総括研究の「精神保健福祉法第32条による通院医療費公費負担の増加要因に関する研究」(主任研究者:竹島正)などで指摘されているように,「公費通院制度の適用対象,適用範囲が不明確なことが,公費通院医療費の過剰な増加要因となっている懸念は否定できない」のだが,この適用対象や適用範囲を狭めることが,2002年10月1日から運用の変更ということで「通知」されたのは,なし崩し的に弱者切り捨てを生む危険を孕んでおり,精神保健福祉法第3条の考え方に反しているのではないかという批判もある。
患者の人権と公共の福祉
公衆衛生的によく問題になるのは,精神障害者の自己実現や人権と,公共の福祉との相克である。もちろん両立が理想なのだが対立しがちなので,2003年7月16日に成立した「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(医療観察法)[http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji22.html]の審議でも論点となった。この法律の第4章は「地域社会における処遇」にあてられており,入院による治療を行わない場合の地域での精神保健観察(保護観察所の長による処遇実施計画に基づく)などが定められている。ただ,これは実施計画に基づいて行われねばならないという点が「地域での」活動に馴染まない側面もあり,人の目が行き届いた伝統的地域社会ではうまく機能したであろう精神障害者に対する緩やかな監視や保護が,現在の地域社会においてうまく機能するかという点については未だ評価が定まっていない。
もっとも,医療観察法では,心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為があった場合に,検察官による申し立てに基づいて鑑定入院を行い,裁判所における審判を経て入院又は通院で治療を行うことが規定され,加害者となってしまった患者の人権保護と社会復帰への道筋がつけられたという点は評価されるべきである。[参考:http://www.moj.go.jp/HOGO/hogo11-01.html]
うつと自殺の予防
1998年に全国自殺者は初めて3万人を超え,その後も高水準を持続。2006年にはわずかに3万人を下回ったが,2007年には再び増加し,全国で30777人(群馬県だけでも527人)。
2006年10月に制定された「自殺対策基本法」[全文:http://law.e-gov.go.jp/announce/H18HO085.html]で,(1)自殺対策の基本は,全ての国民にかかわる問題との認識をもって社会全体で取り組むことにある,(2)社会的要因への取り組みの必要性,(3)未遂者や遺族への支援の充実の必要性,(4)青少年や高齢者への世代別対策のあり方,が示された。
2007年6月には,「自殺総合対策大綱」[全文:http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/sougou/taisaku/pdf/t.pdf]が閣議決定された。「社会的な取組により自殺は防ぐことができるということを明確に打ち出すとともに,うつ病対策と併せ,働き方を見直したり,何度でも再チャレンジできる社会を創り上げて行くなど,社会的要因も踏まえ,総合的に取り組むこと」が謳われている。
7年連続自殺死亡率が1位となってしまった秋田県では重点的な取り組みが行われている(参考:http://www.phcd.jp/manual/kokoro/akita-jisatuyobo.html,健康秋田21重点分野5:http://www.pref.akita.jp/eisei/21healthguide/05.html)。群馬県でも取り組み中(平成17年「群馬県自殺防止対策会議」設置。平成20年3月自殺対策連絡協議会と庁内連絡会議の設置。群馬大学公衆衛生学教室を中心として「こころのチェックシート」を開発し,うつ症状や自殺のサインの早期発見を目指している)。
最近では「硫化水素による自殺の防止について」[http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/h2s/index.html]とか,自殺サイト対策[総務省「インターネット上の自殺予告事案について適切かつ迅速な対応を促進する取組」http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/051005_4.html]など,メディアの情報が影響していると言われている自殺の増加に対して,インターネット上で対策情報を発信するサイトやwebページも設置されている。
今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会
厚生労働省の検討会として2008年4月から開催されている。
設置の背景:平成16年9月に策定された精神保健福祉の改革ビジョン(=「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的方策,及び国民意識の変革【目標】「精神疾患は生活習慣病と同じく誰もがかかりうる病気であることについての認知度を90%以上とする」,精神保健医療福祉体系の再編【目標】各都道府県の平均残存率(1年未満群)を24%以下とすることと各都道府県の退院率(1年以上群)を29%以上とすること),精神科疾患の疾病構造の変化,医療制度全体の改革等)をさらに推進し平成21年(2009年)9月からの後期5ヵ年の重点施策群を策定する必要性
2008年9月時点での論点整理が公開されている。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0903-5a.pdf

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