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死亡 (Death)

Last updated on September 6, 2005 (TUE) 12:25 (リンク先更新)

はじめに

死亡がさまざまな死因の集積による多面的現象であることは出生よりも広く認識されているが,同時に,年齢別死亡に何らかの規則性が存在することも古くから指摘されており,集団レベルでのそれを明らかにしようとする試みが多数なされてきている。なかでも生命表による死亡の分析は形式人口学のバックボーンとも言われる。人口転換にともなう死亡の集中という現象を個人差の減少とみなせば,個人レベルの現象と集団レベルの現象がはっきりとつながっていることがわかるが,発生までの期間が長いために,個人レベルの現象としての死亡は,なかなか捉えにくいという問題がある。

以下,死亡の人口学を概観する予定であるが,2000年10月現在,もちろん未完である。

1. 死亡のプロセス

1-1. 事故死と病死

相対的に若齢では事故死が,高齢では病死が多い社会がふつうであろう。

1-2. 乳児死亡

乳児死亡に関しては,公衆衛生上の観点及び出生への影響から,特別な意味があるので,さまざまな指標が提案されている。

2. 死亡調査の方法論

2-1. 断面研究の場合

1) 計数データからの推計法とその指標

高齢者の方が若齢者より死にやすいのが普通なので,年齢構造の異なる集団間では,単純に死亡数だけで比較することには問題があり,年齢構造で補整する方法がいくつか提案されている。

2) 遡及聞き取りデータからの推計法とその指標

計数データで推計できる指標は,遡及聞き取りデータからも推計できる場合が多い。集団サイズが小さい場合には,1年間では十分な代表性をもつ死亡データが得られない場合が多いので,遡及聞き取りによって何年分かまとめて分析することも可能である。その他に,死亡年齢がわかる場合は,もっと精密な死力の分析が可能になる。

ハザード解析
死亡までの間隔データ,つまり死亡年齢を用いる。半数死亡年齢を算出することができる。集団の死亡パタンは個人個人のfrailty(生まれつきの脆弱さ),あるいは病気や死亡の特定原因への感受性の分布を反映して変わってくるので,これらの変数と死亡年齢の関連を分析する必要がある。
古典的な統計手法としては,ロジスティック回帰分析やダミー変数を使った回帰分析があるが,死亡の場合は事象発生までの期間が長いために,これらの手法では観察期間中にエンドポイントが得られないとか,観察開始時が特定できないといった問題があった。これら打ち切りデータを分析から除外してしまうと,相対的に事象発生までの期間が長めのデータに偏って除外が生じるため,推定される半数死亡年齢を過小評価してしまう危険がある。この問題を解決したのがハザード解析である。詳細は稿を改めて書くが,比例ハザード性を仮定したカプラン・マイヤ法はきわめてロバストな解析法であり,右側打ち切りデータや区間打ち切りデータに適用することができるのが利点である。
若齢での危険因子と高齢での危険因子は異なっているため,経時的に変化する説明変数を扱える必要があることと,死亡の生物学的メカニズムを考えるべきであることから,加速モデルなど,病因論的なハザードモデル(詳細は後述)も開発されてきている。

2-2. フォローアップ研究または歴史人口研究からの推計法とその指標

コホート分析
死亡に限った話ではないが,コホート単位で変化を追うことで,世代間差を評価することができる。例えば,コホート生命表(世代生命表)というものも作られている。

3. 死亡の数学モデル

年齢別死亡秩序については,Grauntが1662年にロンドンの年齢別人口構造を推計しようとして特定の死亡秩序を仮定して以来,さまざまなモデルが立てられてきた。代表的なものとして,老化に伴う死亡増加と年齢とは無関係な偶発的死亡を定式化したGompertz-Makehamモデル,年齢を3区分してそれぞれの死因の違いを考慮したThieleモデル,それを改良した5パラメータのSiler モデルや8パラメータの Mode-Busbyモデル,さらに乳児期の死亡の説明力を高めたHelligman and Pollard モデル,ワイブル分布によって小児期の死亡逓減を表したMode-Jacobsonモデル(Gage and Mode, 1993),探索的に発見した3つのパラメータからなる簡単な関数でどんな死亡パタンも表現できることを示したDennyのモデルなどがある。これらは,精緻化に伴って適合精度は向上したが,すべてアプリオリに集団レベルでの年齢別死亡パタンを与えるものであった。

これに代わるアプローチとしては,実際の生命表に基づいたCoale and Demenyの生命表,Brass のロジットモデルなどが知られている。これらの死亡モデルは,パラメータを増やすほど実際の年齢別死亡曲線へのあてはまりは良くなるので,老年期における死亡率のばらつきの補正や短期間の死亡データの補正には使えるが,個人の死亡のメカニズムを表現したものではないため,(1)年齢別死亡率の偶然によるばらつきを評価することが難しい,(2) 社会変化にともなう疾病構造の変化など,死亡構造へのダイナミックに変動する影響を取り込むことが難しい,(3)死にやすさの個人差を無視している,という欠点があった。

そこで,最近注目されているのが,雪崩モデルである。これは,個人の死亡過程を定式化した死亡モデルである(Gavrilov and Gavrilova, 1991)。 (1) s0, s1, s2, …, sn, …が0,1,2,…,n,…個の故障をもつ個人の人数とし,故障数と独立に速度λ0で増加し,故障とは無関係に速度μ0で死亡が起こって総人数から除かれる,(2)故障数に応じて故障の増加速度がλ増し,死亡率がμ増す,と仮定する。これは,染色体損傷による死亡モデル(Le Bras, 1976)にバックグラウンド死力μ0を加味した形である。この仮定の下で各状態の変化速度についての微分方程式を解いて合計すると生存関数が得られ,そこから死力を導出すると,μ(x)=μ0+μλ0(1-exp(-(λ+μ)x))/(μ+λexp(-(λ+μ)x))となり,λ>>μならば年齢xが小さいところでは年齢によらない死亡の成分と,加齢に伴う死亡増加成分の和というGompertz-Makeham型で近似できる。しかし,この形では乳幼児期の高死亡率とその逓減を表せないという大きな欠点があり,実際の死亡秩序への適合は高くなかった。

雪崩モデルの改善には,出生時から故障を抱えている個人が集団内に存在するというfrailtyの不均質性を導入するとか,故障蓄積が死亡へと突き進む閾値を設定するといった方法があるが,現在筆者(中澤)が研究中である。

Dr. Gavrilovが教えてくれたURL: http://longevity-science.org/

4. 死亡調査の実際

(未完)


Correspondence to: nminato@med.gunma-u.ac.jp.

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