HUMAN ECOLOGY, UNIV. TOKYO
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健康科学や看護学において必要な実験検査法を考えるとき,分子生物学,生化学,生理学,あるいは遺伝学的な実験が必要なことは当然であるが,それと同じくらい環境衛生試験・検査法の習得も重要である。なぜなら,ヒト(に限らず生物)は,環境に依存することなく生存することができないからである。
環境衛生試験のバイブルともいえる,「衛生試験法・注解」(日本薬学会, 1990)によれば,日本では,明治8年(1875年)に内務省衛生局が設置され,医薬品の試験機関として司薬場が設けられた時,鉱泉分析,上水の水質試験等もおこなうことになったのが公式の環境衛生試験の始まりである。現在の環境試験には,水質試験法,鉱泉試験法,底質試験法,空気試験法が含まれるが,この文書は,そのうち水質試験法について解説したものである。
衛生試験法では,
「水質試験法は,地下水,河川,湖沼水,海水など自然環境にある水,公共浴用水(プール水,公衆浴場水,水泳場水)のように人為的な処理を加えた水,あるいは下水,汚水,産業排水,し尿処理排水など人為的に汚染された水やその処理後の排水その他の水について,水の清浄さや水質汚濁の程度,汚濁物質の種類や量などを調べてその水質を把握し,その結果に基づいて飲用,水泳その他各種の用水としての安全性や利用目的に対する適否を判断し,あるいは必要な処理方法の決定,水質汚濁防止対策などを行うための資料とすることを目的とする。ただし鉱泉水については別に試験法を定める」(前掲書,pp.921)
とされている。このことを踏まえた上で水質試験を大別すると,飲料水試験法,公共浴用水試験法,下水・汚水及び産業排水試験法に分類される。この文書のテーマは,このうちの飲料水試験法である。
飲料水試験法には数十の検査項目が記されているが,学生実習ではすべてをカバーすることは不可能である。本実習の目的に鑑みて,測定項目は,まず,健康への関連性が強いことに比重をおく。健康といえば,「たんに病気でないばかりでなく精神的にも肉体的にも完全に良好」でなければならないのは本学科では常識である。したがって,水のおいしさ,快適さも評価すべきである。ただし,大掛かりな装置を要するものは実習向きでない。また,2日間という短い時間で結果を出せるものでなければならない。また,実際の飲料水からほとんど検出されない項目は効果的でない。最後に,温度や溶存酸素のような,採水直後に測定しなければならないものは実施不可能である。
健康影響という点からまず考えられるのは,厚生省令で定める水道水の水質基準である。これは1992年12月に三十数年ぶりに改定され,消毒副生成物,塩素化エチレン・エタン類,数種の農薬類が追加され,その後も何度か項目が追加されている。
水質基準のうち基準項目46項目は,安全に飲める水であるための必要条件であり,法律に基づき達成義務がある。それに加えて,1992年の改定では,監視項目26項目(注)と,快適水質項目13項目が追加された。前者は将来にわたる安全確保の指針であり,後者はより質の高い水道水の目標値である。
殺菌物質としては,現在の日本を含む先進諸国では,ほぼ共通して塩素が唯一のものである(注:虫歯予防のためにフッ素を添加している国もあるし,日本でもかつて添加されたことがある)。そのため,残留塩素だけは,ある濃度以上であることが基準になっているが,それ以外の項目の基準は「○○以下」という形で定義されている。
(注)東京都水道局の情報によれば,1998年6月1日付けで監視項目について一部改正があり,ウラン(0.002 mg/L以下)と亜硝酸性窒素(0.05 mg/L)が追加され,ほう素の基準値が1 mg/L以下に改訂されたとのことである。最近では1999年12月27日と2000年9月11日に一部改正され,2000年9月末現在では35項目となっている。(本文へ戻る)
項目名 | 1992年以前の基準※1 | 新基準 | 備考 | |
1 | 一般細菌 | 1 mLの検水で形成される集落数が100以下であること | 1 mLの検水で形成される集落数が100以下であること | 病原生物 |
2 | 大腸菌群 | 検出されないこと | 検出されないこと | 〃 |
3 | カドミウム | 0.01 mg/L以下 | 0.01 mg/L以下 | 重金属 |
4 | 水銀 | 検出されないこと(定量限界0.005 mg/L) | 0.0005 mg/L以下 | 〃 |
5 | セレン | (0.01 mg/L以下) | 0.01 mg/L以下 | 〃 |
6 | 鉛 | 0.1 mg/L以下 | 0.05 mg/L以下 | 〃 |
7 | ヒ素 | 0.05 mg/L以下 | 0.01 mg/L以下 | 〃 |
8 | 六価クロム | 0.05 mg/L以下 | 0.05 mg/L以下 | 〃 |
9 | シアン | 検出されないこと(定量限界0.01 mg /L以下) | 0.01 mg /L以下 | 無機物質 |
10 | 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素 | 10 mg/L以下 | 10 mg/L以下 | 〃 |
11 | フッ素 | 0.8 mg/L以下 | 0.8 mg/L以下 | 〃 |
12 | 四塩化炭素 | -- | 0.002 mg/L以下 | 一般有機化学物質 |
13 | 1,2-ジクロロエタン | -- | 0.004 mg/L以下 | 〃 |
14 | 1,1-ジクロロエチレン | -- | 0.02 mg/L以下 | 〃 |
15 | ジクロロメタン | -- | 0.02 mg/L以下 | 〃 |
16 | シス-1,2-ジクロロエチレン | -- | 0.04 mg/L以下 | 〃 |
17 | テトラクロロエチレン | (0.01 mg/L以下) | 0.01 mg/L以下 | 〃 |
18 | 1,1,2-トリクロロエタン | -- | 0.006 mg/L以下 | 〃 |
19 | トリクロロエチレン | (0.03 mg/L以下) | 0.03 mg/L以下 | 〃 |
20 | ベンゼン | -- | 0.01 mg/L以下 | 〃 |
21 | クロロホルム | -- | 0.06 mg/L以下 | 消毒副生成物 |
22 | ジブロモクロロメタン | -- | 0.1 mg/L以下 | 〃 |
23 | ブロモジクロロメタン | -- | 0.03 mg/L以下 | 〃 |
24 | ブロモホルム | -- | 0.09 mg/L以下 | 〃 |
25 | 総トリハロメタン | (0.1 mg/L以下) | 0.1 mg/L以下 | 〃 |
26 | 1,3-ジクロロプロペン | -- | 0.002 mg/L以下 | 農薬 |
27 | シマジン | (0.003 mg/L以下) | 0.003 mg/L以下 | 〃 |
28 | チウラム | (0.006 mg/L以下) | 0.006 mg/L以下 | 〃 |
29 | チオベンカルブ | -- | 0.02 mg/L以下 | 〃 |
※11992年以前の基準の括弧内は暫定基準 |
項目名 | 現行基準 | 新基準 | 備考 | |
30 | 亜鉛 | 1.0 mg/L以下 | 1.0 mg/L以下 | 金属 |
31 | 鉄 | 0.3 mg/L以下 | 0.3 mg/L以下 | 〃 |
32 | 銅 | 1.0 mg/L以下 | 1.0 mg/L以下 | 〃 |
33 | ナトリウム | -- | 200 mg/L以下 | 〃 |
34 | マンガン | 0.3 mg/L以下 | 0.05 mg/L以下 | 〃 |
35 | 塩素イオン | 200 mg/L以下 | 200 mg/L以下 | 無機物質 |
36 | カルシウム,マグネシウム等(硬度) | 300 mg/L以下 | 300 mg/L以下 | 〃 |
37 | 蒸発残留物 | 500 mg/L以下 | 500 mg/L以下 | 〃 |
38 | 陰イオン界面活性剤 | 0.5 mg/L以下 | 0.2 mg/L以下 | 有機物質 |
39 | 1,1,1-トリクロロエタン | (0.3 mg/L以下) | 0.3 mg/L以下 | 〃 |
40 | フェノール類 | 0.005 mg/L以下 | 0.005 mg/L以下 | 〃 |
41 | 有機物等(過マンガン酸カリウム消費量) | 10 mg/L以下 | 10 mg/L以下 | 〃 |
42 | pH値 | 5.8以上8.6以下 | 5.8以上8.6以下 | 基礎的性状 |
43 | 味 | 異常でないこと | 異常でないこと | 〃 |
44 | 臭気 | 異常でないこと | 異常でないこと | 〃 |
45 | 色度 | 5度以下 | 5度以下 | 〃 |
46 | 濁度 | 2度以下 | 2度以下 | 〃 |
項目名 | 目標値 | 性状 | |
---|---|---|---|
1 | マンガン | 0.01 mg/L以下 | 色 |
2 | アルミニウム | 0.2 mg/L以下 | 〃 |
3 | 残留塩素 | 1 mg/L程度 | におい |
4※1 | 2-MIB 粉末活性炭処理 2-MIB 粒状活性炭処理 | 0.02 mg/L以下 0.01 mg/L以下 | 〃 |
5 | ジオスミン 粉末活性炭処理 ジオスミン 粒状活性炭処理 | 0.02 mg/L以下 0.01 mg/L以下 | 〃 |
6 | 臭気強度(TON) | 3以下 | 〃 |
7 | 遊離炭酸 | 20 mg/L以下 | 味覚 |
8 | 有機物等(KmnO4消費量) | 3 mg/L以下 | 〃 |
9 | カルシウム,マグネシウム等(硬度) | 10〜100 mg/L | 〃 |
10 | 蒸発残留物 | 30〜200 mg/L | 〃 |
11 | 濁度 | 給水栓1度以下,浄水場0.1度以下 | 濁り |
12 | ランゲリア指数(腐食性) | −1程度以上 | 腐食 |
13 | pH値 | 7.5程度 | 〃 |
※1 2-MIBは2-メチルイソボルオネールの略 |
項目名 | 目標値 | 性状 | |
---|---|---|---|
1 | トランス-1,2-ジクロロエチレン | 0.04 mg/L以下 | 一般有機化学物質 |
2 | トルエン | 0.6 mg/L以下 | 〃 |
3 | キシレン | 0.4 mg/L以下 | 〃 |
4 | p-ジクロロベンゼン | 0.3 mg/L以下 | 〃 |
5 | 1,2-ジクロロプロパン | 0.06 mg/L以下(暫定) | 〃 |
6 | フタル酸ジエチルヘキシル | 0.06 mg/L以下 | 〃 |
7 | ニッケル | 0.01 mg/L以下(暫定) | 無機物,重金属 |
8 | アンチモン | 0.002 mg/L以下(暫定) | 〃 |
9 | ほう素 | 1 mg/L以下※1 | 〃 |
10 | モリブデン | 0.07 mg/L以下 | 〃 |
11 | ウラン | 0.002 mg/L以下(暫定) | 〃 |
12 | 亜硝酸性窒素 | 0.05 mg/L以下(暫定) | 〃 |
13 | 二酸化塩素 | 0.6 mg/L以下 | 消毒副生成物 |
14 | 亜塩素酸イオン | 0.6 mg/L以下 | 〃 |
15 | ホルムアルデヒド | 0.08 mg/L以下(暫定) | 〃 |
16 | ジクロロ酢酸 | 0.02 mg/L以下(暫定) | 〃 |
17 | トリクロロ酢酸 | 0.3 mg/L以下(暫定) | 〃 |
18 | ジクロロアセトニトリル | 0.08 mg/L以下(暫定) | 〃 |
19 | 抱水クロラール | 0.03 mg/L以下(暫定) | 〃 |
20 | イソキサチオン | 0.008 mg/L以下 | 農薬 |
21 | ダイアジノン | 0.005 mg/L以下 | 〃 |
22 | フェニトロチオン(MEP) | 0.003 mg/L以下 | 〃 |
23 | イソプロチオラン | 0.04 mg/L以下 | 〃 |
24 | クロロタロニル(TPN) | 0.05 mg/L以下 | 〃 |
25 | プロピザミド | 0.05 mg/L以下 | 〃 |
26 | ジクロルボス(DDVP) | 0.008 mg/L以下 | 〃 |
27 | フェノブカルブ(BPMC) | 0.03 mg/L以下 | 〃 |
28 | クロルニトロフェン(CNP) | 0.0001 mg/L以下 ※2 | 〃 |
29 | イプロベンホス(IBP) | 0.008 mg/L以下 | 〃 |
30 | EPN | 0.006 mg/L以下 | 〃 |
31 | ベンタゾン | 0.2 mg/L以下 | 〃 |
32 | カルボフラン | 0.005 mg/L以下 | 〃 |
33 | 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D) | 0.03 mg/L以下 | 〃 |
34 | トリクロピル | 0.006 mg/L以下 | 〃 |
35 | ダイオキシン類 | 1 pg-TEQ/L以下 | 非意図的生成物質 |
※1 海水淡水化施設においては基準項目に準じて適用 | |||
※2 平成6年3月8日付衛水第56号による「暫定水質管理指針値」 |
水質基準の基準項目の一覧を表1に示した。これらの中から,前述の条件にしたがって実習向きの項目を選ぶと,pH,味,硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素,マンガン,鉄,陰イオン界面活性剤,一般細菌,大腸菌群となる。
一方,おいしさについては,近年,厚生省に「おいしい水の研究会」が設置され,基準が定められている。蒸発残留物が30〜200 mg/L,硬度が10〜100 mg/L,遊離炭酸が3〜30 mg/L,過マンガン酸カリウム消費量が3 mg/L以下,臭気の臭気度が3以下,残留塩素が0.4 mg/L以下,水温が最高20℃以下というものであり,たんに純水に近ければよいというのではなく,蒸発残留物,硬度,遊離炭酸に関しては下限も定められているところに特徴がある。これらの項目は測定時間もそれほどかからず,大掛かりな設備も要しないので,実習に適している。そこで,これらについても解説する。ただし,先にも述べたように,水温は採水直後に測定する必要があるので,家庭の水道水を集めて行う形式の実習には不適当なので解説しない。
実習上のねらいとしては,以上にあげたような飲料水の科学的性状が,何に由来するものかを,多人数のデータを統計的に解析することを通して分析することも重要である。そのため,水源水質の違いを大きく反映するとされている電気伝導度についても解説する。
リン酸イオンなども水の性状を評価する上で意味のある指標だが,水質基準にも入っていないし,他の項目と意味がオーバーラップするので,実習では扱わない。
採水方法は対象によって異なる。飲料水についても,水道水であるか,井戸水であるか,河川水であるか,雨水であるか,ミネラルウォーターなど購入したものであるかによって異なる。東京では大半のサンプルが水道水と思われるが,水道水,井戸水,河川水の各場合について採水方法を以下にまとめる。ミネラルウォーターの場合は封を切らずにそのまま持参すればよいが,結果の考察がしにくいので,できるだけ居住地で一般に飲まれている水をサンプルする。
トリハロメタンの存在あるいは給水管からの鉛や鉄の溶出を知るには,蛇口を開けた直後の水をとるべきであるという見解が一般的であるが,他の項目は一般に蛇口を開けて数分間放水し,安定したところで採水する。本実習では,給水管からの溶出を評価すること(つまり最大曝露危険レベルをしること)が目的ではないので,放水後採水をする。水流をあまり強くすると空気が混入してしまうので,50 mL/sec.くらいの速さで注水する。つまり,配布する1 Lの採水瓶が,約20秒で一杯になるくらいの強さに調節して採水する。
水道水は朝と夜の違い,あるいは外気温や地域の水の使用状況などに依存して成分が変化するので,採水条件はできる限り同じにしないと比較ができない。そこで,朝起きて一番の水をとることとする。当然のことだが,採水条件と採水地の特徴を記録する必要がある。記録項目は,以下の通りである。
(例)貯水槽(詳細不明)ありマンション4階建て,築20年以上。
水道管工事は本管の交換と貯水タンクの清掃が1996年7月に行われたばかり。
(例)1996年10月8日,6:20,天候は,6日は晴,0 mm,7日は曇,0 mm,8日は雨のち曇,6:00までで10 mm。
※詳細は気象庁の各地区担当に問い合わせればわかる。
(例)東京都文京区本郷6丁目:利根川・江戸川と多摩川の混合系(本郷給水所:利根川・江戸川水系の金町浄水所からの水と,多摩川水系の東村山・利根川・江戸川水系の三郷・利根川・江戸川水系の朝霞浄水所の混合系)
※「水質年報」(東京都水道局水質センター編)を参照。東京大学内では,総合図書館と工学部都市工学科図書室におかれている。本郷給水所傍の東京都水道局水質センター4階企画調査課で1,600円で購入できる。詳細は,同課03-5802-9022に問い合わせ。
(例)通常はオルガノ製のカートリッジ式純水器を使用。サンプルしたのは原水。1日平均使用量は300 L(100 L/一人一日; 水道料金記録による)。
実際の採水手順
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井戸水の場合は一定流速で採水することが不可能なので,十分量をバケツ等に汲み,一度共洗いしてから採水容器に注げばよい。ただし,採水条件について,水道水の場合に加えて,地下水脈の深さや地層なども記録することが望ましい。井戸から直接採水する場合は,汲み上げ装置,蓋,通気孔,井戸周囲の舗装,排水,井戸内壁の構造,材料,材質,井筒口と地表面との距離と水密性,井戸底部の構造と清潔状況についても記録する。もしあれば汚染源の状況も記録することとされているが,実習では行わなくてよい。
実習ではほとんどありえないが(おそらく三島市柿田川近辺とか,秩父の中津川渓谷に住んでいる人はいないと思う),いわゆる途上国では河川水をそのまま飲料水にしている場合が多い。河川水を含む地表水に関しては,一般に上水源として次の調査が必要である。
採水そのものに関しては,井戸水と同様,一定流速で採水することが不可能なので,十分量をバケツ等に汲み,それを採水容器に注げばよい(ただし一度共洗いすること)。
(課題)
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pHは水溶液中の水素イオン濃度[H+]の逆数の常用対数である。純粋な水は一部H+とOH-に解離しており,Kw=[H+][OH-]で表わされる水のイオン積は25℃で1.04×10-14である。したがって,中性では[H+]=[OH-]であることから,pH=7.00である。
飲料水のpHは一般に溶存する遊離炭酸と炭酸塩との濃度の割合によって定まるが,また下水や工場排水に原因する種々の塩類や酸類によっても影響される。
地表水は二酸化炭素が少ないので中性に近く,pHは普通7.0〜7.2を示す。地下水では土壌中の生物作用によって発生した二酸化炭素のためにpH6.0〜6.8となる。藻類の繁殖が著しい湖沼や貯水池などでは表層のpHは高くなり,pH9.0以上になることもあるが,逆に低層のpHは低下する。「ある意味では人間の体温の測定と似ており,熱があることで身体に異常があることを知るのと同じである」とされる(日本環境管理学会, 1994)。
健康影響としては,強酸,強アルカリの場合,飲用により粘膜への影響が出る他,弱酸,弱アルカリでも味が悪化することがあげられる。基準値設定の根拠は,水道施設の腐食等を防止する観点から,弱酸性から弱アルカリ性の範囲にあるのが望ましいという点にあった。
なお,殺菌剤として塩素を用いる場合,次亜塩素酸イオンになった状態での殺菌効果が大きいため,pHがアルカリ性に傾くと,塩素の殺菌効果が薄れる危険があることに注意すべきである。
pHは,BTBなどの呈色試薬,試験紙を用いて測定することもできるが,ガラス電極pH計も安価になり,メンテナンスも容易になってきたので,とくに試験紙などを用いる理由はない。実習でもガラス電極pH計を用いる。
(課題)
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遊離炭酸とは,水中にとけているCO2をいう。遊離炭酸には,従属性遊離炭酸(炭酸水素塩の溶解状態を保つのに必要な部分)と侵食性遊離炭酸(それ以外の遊離炭酸で,鉄材への腐食性が大きいことからこう呼ばれる)とがある。自然水中の遊離炭酸は,有機性物質の分解,地中で発生するCO2または空気中のCO2の溶解がその発生要因となる。
二酸化炭素が溶けている水は,爽やか味があっておいしくなるが,,必要以上に高濃度となれば,刺激が強くなってまろやかさを失う。このため,「おいしい水」としては上限と下限の両方が定められている。
遊離炭酸の測定法には2つある。酸度から求める方法とアルカリ度から求める方法であるが,本実習では酸度から求める方法を用いる。この方法の原理は,pH4.8以上の水の酸度が遊離炭酸だけによるということである。CO2は水と反応して炭酸イオンとなりpH4.8〜8.3ではほとんどがCO2と炭酸イオンの形で存在する。これをアルカリでpH8.3まで滴定すると,炭酸水素イオンには関係なくCO2すなわち遊離炭酸のみが滴定されるのである。逆に,pHが8.3より大きい水は遊離炭酸を含まないことから,メチルレッドを指示薬に用いて,pH4.8を終点として硫酸水溶液で滴定すると,アルカリ分の炭酸水素塩をすべて炭酸とすることができる。遊離炭酸の濃度は,CO2の溶解量に換算して,mg/Lで表す。
(課題)
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蒸発残留物とは,水中に含まれる溶解性物質及び懸濁物質(ただし,低沸点化合物や蒸発乾固に際して分解,揮散する物質を除く)の総量である。一般に飲料水は澄明なので,溶解物質の総量ということになる。水道水の蒸発残留物の主成分は,いわゆるミネラルでCa,Mg,Si,Na,Kなどを含んでいる。これらは地質起源と考えられ,一般に地下水の方が河川水よりも高い値を示す。健康影響ははっきりしないが,多量に含むと水の味が悪くなるという点から,500 mg/L以下という基準値が定められた。
なお,蒸発残留物を600±25℃で強熱灰化して残った物質の量を強熱残留物といい,無機物の量を示す。また,蒸発残留物と強熱残留物の差を強熱減量といい,主として有機物の量を示す。
※ 前の人が使った蒸発ざらは洗ったりせずにそのまま使用すること(何のためにデシケータにいれているのかについて考えれば,洗ってはいけない理由は自明のはず)。
(課題)
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(課題)
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本法の原理は次の通りである。EBTはpH10付近で青色を呈するが,Ca2+やMg2+などの金属イオンが存在する場合には,キレート生成定数の大きさにしたがって,まずMg2+,ついでCa2+と反応してキレート化合物を生成してブドウ赤色を呈する。このキレート化合物を含む水溶液にEDTA・2Na溶液を滴下するとEDTAの方がEBTよりもこれらの金属へのキレート生成定数が大きいためCa,Mgの順にEDTAが反応し,無色のキレート化合物が生成する。反応終了(滴定終末点)とともに液の色は遊離したEBTによって青色に変化する。反応終末点はMg-EBTとEDTAの反応の方がCa-EBTとEDTAとの反応よりも識別しやすいことと,Ca-EBTとMg-EBTが共存した場合に反応終末点近くではMg-EBTのみになっていることから,本法では予めMgを添加して滴定終末点の識別を鋭敏にしている。
(課題)
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過マンガン酸カリウム消費量とは,水中の被酸化性物質によって消費されるKMnO4の量をいい,主として有機物の存在量を知ることを目的としている。有機物の種類によって反応速度が異なり,また還元性無機物によってもKMnO4が消費されるため,この値は有機物の絶対量をあらわすものではないが,し尿,下水,工場排水などによる汚濁の指標として重要である。過マンガン酸カリウム消費量が,アンモニア性窒素,アルブミノイド窒素,あるいは塩素イオンなどとともに多量に検出されたときは,し尿による汚染が疑われる。過マンガン酸カリウム消費量が色度に比例する場合は,フミン質(腐植質)によるものであり,特定の汚染には関係なく,地質の影響であると判断される。
物質を特定できないため,健康影響は不明であり,基準値算定の根拠も,「水質汚染に関連する総括的な指標としていろいろな水を試験した結果,だいたいこの線で抑えた方がよいということから決められた」と曖昧である。
実際の検査では,全自動測定器(たとえば,KM-10型,セントラル科学,¥633,000)が用いられることが多いが,本実習ではパックテストによる簡易法と酸性高温過マンガン酸法の両方で過マンガン酸カリウムを測定する。市民運動などで河川水の検査には一般に簡易法が用いられているが,霞ケ浦の水質維持運動の一つである「あゆみさきプロジェクト」の報告によれば,パックテストの値は公定法に比べ河川水で1/2,湖沼水で1/3程度であり,過小評価の危険がある。水道水の場合についてはどうか,本実習で検討することは興味深いと思われる。
パックテストでも基本的に過マンガン酸カリウムの消費を測定するのだが,常温アルカリ性で行う。アルカリ性過マンガン酸カリウム酸化法では塩素イオンの妨害を受けない特徴がある。ただし,パックテストのCOD(chemical oxygen demand: 化学的酸素要求量)キットを用いるため,KMnO4とO2の1グラム等量(前者が31.6 g,後者が8 g)の比を用いて,検査結果を0.253で割り,過マンガン酸カリウム消費量(mg/L)に換算する必要がある。
CODの測定にはその他に重クロム酸法があり,その方が低分子有機化合物までほぼ100%酸化されるために下水測定の場合のJIS標準法になっているが,上水検査では過マンガン酸カリウム消費量を評価する規定になっているため,その方法では過大評価になる。
(課題)
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本法は,酸性にした検水に一定量の過マンガン酸カリウムを加えて,一定時間高温酸性状態でMnO4-+ 8H+ + 5e Mn2+ + 4H2Oという反応をさせて被酸化性物質を酸化し,未反応のMnO4-を一定過剰量のシュウ酸ナトリウム(Na2C2O4)を加えて分解し,さらに残存するC2O42-をKMnO4で逆滴定するという原理に基づくものである。
この測定原理は,加熱条件を除けば,下水・汚水検査におけるCODの場合とまったく同じである。ただし,下水検査の場合は塩素イオンと当量以上の硫酸銀(粉末)または硝酸銀溶液,あるいは硫酸水銀(HgSO4)の添加をして塩素イオンの妨害効果を防ぐ必要がある。
購入した過マンガン酸カリウム溶液の試薬瓶にも力価は記載されているが,出荷後の日数によって微妙に変化するので測定当日または前日に力価を測定する必要がある。力価を測定するには,次のようにする。
(課題)
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臭気は汚水の混入,プランクトンの繁殖,地質,塩素処理などに起因する。特定の臭気物質はガスクロマトグラフィーなどで定量可能だが,実際の臭気はごく微量の物質が多種類複合作用をしておこるので,官能検査はかかすことができない。臭気がしたからといって直ちに毒性があるわけではないが,快適水質を考える上では重要な検査項目である。1996年の夏は関東地方で渇水が続いたために相模湖でアナベナ(らん藻の一種)が大発生し,悪臭を生じたために,通常の浄水処理後も悪臭が消えず,活性炭の投入が必要になった。
異臭を起こす原因物質にはいろいろあり,原因物質毎に毒性が違うため,健康影響については一概にいえない。しかし,水道水に異臭があれば何らかの事故が起きている可能性が示唆される。また,たとえ衛生的には安全だとしても,使用者に不安を与えるので,異臭は避けるべきである。以上の理由により,「異常でないこと」を基準としている。
臭気のような多元的な軸についての官能検査の場合,結果のための標準的な表現が必要である。まず,漠然とした表現は避けるべきである。例えば,ただ「異臭」と書いてあっても刺激性の塩素臭に近いのか,魚の腐ったような臭いなのかがわからない。また,具体的であっても知っている人が希であるような表現は避けるべきである。例えば,「ゴライアスオオコガネの糞のような臭い」と書かれていても,その臭いをイメージできる人はほとんどいない。もしそうした表現が許されるなら,極端なことをいえば「本郷6丁目の○○さんの家の水道水の臭い」ということも可能になり,これでは説明にならないのは自明である。標準的な表現として,衛生検査法では,下表に準じて表現することとされている。
表.臭気の分類と種類例 | |
臭気の大分類 | 臭気の種類例 |
芳香性臭 | メロン臭,スミレ臭,きゅうり臭,その他 |
植物性臭 | 青草臭,木材臭,川藻臭,その他 |
土臭,かび臭 | 土臭,沼沢臭,かび臭,その他 |
魚貝臭 | 魚臭,肝油臭,はまぐり臭,その他 |
薬品性臭 | フェノール臭,タール臭,油様臭,硫化水素臭,塩素臭,アンモニア臭,その他 |
金属性臭 | 金気臭,金属臭 |
腐敗性臭 | 厨芥臭,腐敗臭,その他 |
不快臭 | 魚臭,腐敗臭などが強烈になった不快な臭い,し尿臭 |
(課題)
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残留塩素とは,水中に溶存する遊離残留塩素(遊離形有効塩素)およびクロラミンのような結合残留塩素(結合形有効塩素)をいう。つまり,残留塩素は消毒のために添加された塩素に由来し,水中に溶存している状態では分子状塩素(Cl2),次亜塩素酸(HOCl),次亜塩素酸イオン(OCl-)の3種類の形態(これらは遊離残留塩素と呼ばれる)をとる。水中にアンモニア,アミン類,アミノ酸などの水素化窒素化合物があると塩素と反応してクロラミン類を生成し,これらが結合残留塩素と呼ばれる。水に含まれるアンモニアなどがすべてクロラミン類となる以上に過剰に塩素を注入すると,クロラミンは次亜塩素酸との反応で分解され,N2やN2Oとなる。この過程は「脱窒」と呼ばれ,こうなると塩素を注入しても残留塩素濃度は逆に下がってゆくが,さらに塩素を注入して不連続点を超えると,再び残留塩素濃度は上昇を開始することが知られている。
残留塩素濃度は,水道法施行規則(昭和32年厚生省令第45号)の第16条第3号に「給水せんにおける水が遊離残留塩素を0.1 mg/L(結合残留塩素の場合は0.4 mg/L)以上保持するように塩素消毒すること。ただし,供給する水が病原生物に著しく汚染されるおそれがある場合,または病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物もしくは物質を多量に含むおそれがある場合の給水せんにおける水の残留塩素濃度は0.2 mg/L(結合残留塩素の場合は1.5 mg/L)以上とする」と規定されている,一方,あまり多量にあるとカルキ臭くなり不味いので,「おいしい水の研究会」の指針では0.4 mg/L以下という基準が出されている。また,平成6年改定の水質基準に付帯する快適水質項目では,1 mg/L以下とされている。
健康影響としては,次亜塩素酸ナトリウムを0〜5000 mg/Lに調整した飲料水をラットに与えた実験結果において,100 mg/Lまでは体重変化に影響はなく,1000 mg/Lでもわずかな減少に留まるが,5000 mg/Lでは顕著な体重減少が見られたという結果が得られている。これをそのまま人間に敷衍することはできないが,塩素消毒のメリットとの比較において受容可能と判断されているわけである。目標値は1 mg/Lであり,その設定の根拠は,消毒が確実に行われるとともに,味覚への影響も少ないレベルということである。
残留塩素の測定法はいくつかあるが,実習では簡易測定としてテストキットによる遊離残留塩素の測定を行い,精密な測定法としてDPD酸化比色法により遊離残留塩素と全残留塩素を定量する。なお,最近,和光純薬から発売された,ABTSを利用した活性塩素測定キットも,比較的測定が簡便かつ安価である。
簡易測定法の中でも,比較的精度が高い,DPD目視法を採用していることから,セントラル科学のテストキットを用いる。なお,同様のテストキットCN-66Tで全残留塩素も測れるので,それらの差によって結合残留塩素も推定できるが,本実習では,時間と費用の都合から,テストキットでは遊離残留塩素のみ測定することとした。
(課題)
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(課題)
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水の異味は地質や海水による場合もあるが,プランクトンの繁殖,下水,工場排水などの混入によることもある。味の種類は甘味,酸味,苦味,塩味,渋味,およびそれらの組み合わせで表現し,またその程度を極微,微,やや著しい,著しいなどと記載する。
甘味を呈する物質としては糖類,多価アルコールなどがある。酸味は水素イオン濃度に関係するが,必ずしも比例関係ではない。苦味の物質には種々のアルカロイドや硫酸塩などがある。塩味を呈するものは無機塩類の陽イオン,陰イオンなどである
普通,飲料水の味は無機物によるものであり,これは臭気には関係しない。遊離炭酸は水の味に大きく影響し,さわやかな味をあたえる。適度な量の蒸発残留物はまろやかな味を与えるが,量が多くなると,苦味,渋味,塩味などが生じる。
異常な味を起こす原因物質には上記のようにいろいろあり,原因物質毎に毒性が違うため,健康影響については一概にいえない。しかし,味が異常であれば何らかの事故が起きている可能性が示唆されることと,使用者に不安を与えることから,「異常でないこと」が基準とされる。
(課題)
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水中の窒素は,アンモニア性窒素,亜硝酸性窒素および硝酸性窒素がその大部分をしめる。動物性の含窒素有機化合物が分解すると,まずアンモニア性窒素を生じ,それは比較的早く酸化して亜硝酸性窒素になる(植物性の含窒素有機化合物は分解が遅く,アンモニア性窒素の生成量も少なく,普通は検出されない)。亜硝酸性窒素は水中で不安定であり,酸化されて硝酸性窒素になる。硝酸性窒素が種々の窒素化合物の最終産物であるが,湖沼,貯水池などの底層や深井戸などの溶存酸素の少ないところでは,硝酸性窒素が還元されて亜硝酸性窒素になることがある。
アンモニア性窒素は,生物の死骸やし尿の分解過程で最初に生じることから,近い時点での汚染の指標となるが,それ自体は衛生上無害であること,飲料水の病原生物による汚染を疑わせる指標としては一般細菌および大腸菌群で十分なことから,水質基準から除外されている。一方,亜硝酸性窒素と硝酸性窒素は汚染から時間が経って検出される指標であり,いったん硝酸性窒素になっても還元されて亜硝酸性窒素になることもあるため,それらの合計値が水質基準に含まれている。
硝酸性窒素・亜硝酸性窒素が健康に関連する項目として水質基準に規定されている第一の根拠は,それを11 mg/L以上含む水を摂取すると,主として満1歳以内の乳児にメトヘモグロビン血症(チアノーゼを伴う)を起こす可能性があることである(1945年,米国の化学肥料プラント排水や化学肥料で汚染された地下水によって起きた事故;成人では野菜や乾燥肉からの摂取が多いが,乳児の主な摂取源は水である)。メトヘモグロビン血症を起こす原因は亜硝酸イオンだが,硝酸イオンは体内で速やかに還元されて亜硝酸イオンになるので,合計値での規制となっている。また,体内でアミンやアミドと反応してニトロソアミン(発ガン性が疑われている)を生成することも指摘されている。
硝酸性窒素も亜硝酸性窒素も簡易測定としてパックテストが市販されているが,感度が低いので本実習では行わない。硝酸性窒素を比較的安価かつ迅速に測定できる機械に堀場製作所のCARDYシリーズの硝酸イオンメータC-141(定価¥32,000)がある。ここでは,亜硝酸性窒素についてはジアゾ化法,硝酸性窒素についてはサリチル酸ナトリウムによる定量法とCARDYによる測定法を示す。
※これらの定量に使うガラス器具は,もし硝酸洗いしてあったなら,十分に脱イオン水ですすぎ流さねばならない。
検量線の作成:亜硝酸性窒素標準溶液を2.0, 5.0, 10.0, 15.0, 20.0 mL,25 mLメスフラスコにとり,それぞれ(20.0 mLの場合を除く)に水を加えて約20 mLとする。これらに2.〜5.の操作を行う。
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(課題)
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水中のマンガンは主として地質によるが,まれに工場排水,鉱山廃水などがその原因となることがある。地質による違いはかなり大きい。紀伊半島南部,グァム島,ニューギニア島高地,オーストラリア北部で共通してみられた中枢神経の変性疾患の一因として,地質中にマンガン(及び鉄,アルミニウム)を多量に含むことがあげられているほどである。一方,マンガンは水道の配管内に蓄積して黒い水の原因となることがあり,不快な外観を与え,器物や洗濯物を汚すので家庭用水として嫌われる。水道水には塩素が添加されているので,マンガンが酸化されて,色度がマンガンの300〜400倍の褐色または類黒色の酸化物を生成しやすい。マンガンの酸化物が水槽や配管内壁に付着すると,それが触媒となってマンガンイオンの酸化を促進するので沈積が加速される。管内流速の増加や流向の変化が起こると,一度に流出して黒い水が発生する。水質基準では0.3 mg/Lだが,0.02 mg/Lでも黒い水が発生した事例もある。
測定方法としては,フレームレス原子吸光分析が高精度で正確だが,高価で大掛かりな機械を要するので,実習では簡易法としてテストキット(セントラル科学),正確な方法として過ヨウ素酸銀カリウムによる呈色反応を利用した方法を行う。
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(課題)
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マンガンと同じく,水中の鉄もその成因は主として地質によるが,まれに工場排水,鉱山廃水などがその原因となることがある。配管や貯水タンクから溶出する場合もある。とくに,pHの低い水や遊離炭酸の多い水では給水管から溶出しやすい。
毒性・代謝などに関しては,こちらを参照のこと。しかし,基準値設定の根拠は,「洗濯物への着色障害および異臭味障害の起きないレベル」ということである。0.3 mg/L以上で黄褐色〜赤褐色を呈し,0.5〜1.0 mg/Lでは金属臭味を感じるようになる。鉄濃度が高いと茶が紫色になる,コーヒー・紅茶等がまずくなる,といった障害がある。0.3 mg/Lは味の検出限界である。配水システムに堆積物を生じさせないためには0.1 mg/L以下の方が望ましいが,浄水場で凝集剤として鉄化合物を使う都合から,0.3 mg/Lというのが妥協点となっている。
測定法としては,ジルコニウム共沈法で濃縮後,フレーム原子吸光分析を用いるのが精度,正確さ共に優れているが,実習ではマンガンの場合と同じ理由から実施できない。代わりに,簡易測定としてテストキット,公定法としてオルトフェナントロリン法を用いた測定を行う。
(課題)
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(課題)
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洗剤は,その主成分とする界面活性剤から大別して,石けんと合成洗剤に区分されている。石けんとは高級脂肪酸塩を主成分とするものである。一方,合成洗剤は高級脂肪酸塩以外の界面活性剤,例えば,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS),アルキル硫酸塩(AS),αオレフィンスルホン酸塩(AOS)などを主成分とするものである。我が国で使用されている合成洗剤は界面活性剤と洗浄補助剤及び香料などからなっている。界面活性剤としては陰イオン界面活性剤の使用が最も多く,次いで非イオン界面活性剤である。先に例示したものはすべて陰イオン界面活性剤である。現在最もよく用いられているのはLASである。LASは「低毒性」の界面活性剤として開発されたが,それ以前は分岐鎖状のアルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)が大部分を占めていた。ABSはきわめて生分解しにくい物質であるため,現在では使われていない。
石けんに比べ合成洗剤は低温でも界面活性作用が大きいことが利点であり,とくに全自動洗濯機の普及とともに普及していったものであるが,LASでも石けんよりはずっと毒性が強く,水道水中では0.2 mg/L未満でなければならないとされている(しかし元々環境中に存在しなかった物質なので,もっと厳しくしても不思議はないのだが,東京の給水所における測定結果ではたいてい0.06〜0.13の範囲であり,今後基準を超えてしまうことが懸念される)。
陰イオン界面活性剤が飲料水中に混入すると,発泡や異臭味の原因になる。ABSの場合0.5 mg/L,LASでは0.37 mg/L,AOSでは0.5 mg/L以上で発泡が起こる。異臭味の臨界値はもっと高い。毒性に関しては,マウスのLD50がABSで1〜2.3 g/kgという研究もあれば,50 mg/Lの水2 Lを毎日4ヶ月間服用した6人のうち2人が食欲減退を訴えた他に異常はなかったという報告もあれば,がんや奇形の原因になるという説もあり,定説がない。0.2 mg/L以下という基準値は,発泡を避ける意味で設定されたものである。
これまで,測定にクロロホルムやベンゼンといった毒性の高い物質を使わねばならないのが問題であった。公定法はCo-PADAP比色法またはメチレンブルー比色法で,前者の方が特異性が高く操作も容易であるが,ベンゼンを用いるために実習では実施しにくい。簡易測定キットはクロロホルムを使うメチレンブルー比色法だが,目視による比色では精度が低すぎて意味がない。また普通に市販されているグレードのメチレンブルーやクロロホルムでは,含まれている不純物を除くための前処理が煩雑過ぎて実習に向かない。そのため,ここでは特異性の高いCoPADAPを用い,ベンゼンを溶媒とする方法を示す(注:溶媒をクロロホルムにして測定することを試したが,測定不可能であった)。なお,精度を出すには不利だが,廃液の量を減らす方が大事なので,総量を減らして測定する方法を示しておく。
1997年に大阪大学と武田薬品の共同開発でELISA(酵素免疫測定)のキットができ,1998年8月より市販が開始されたが,96穴のプレート1枚で5万円と高価なため,実習では使用できない。有害な廃液が出ない点でもLAS検出の特異性が高い点でも理想的な測定法であり,今後安価になって普及することが期待される。参考までに書いておくと,その後,非イオン界面活性剤についても,同様なELISAキットが発売されている。
(課題)
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一般細菌とは分類上の特定のグループを指すのではなく,また全生菌を指すのでもない。標準寒天培地に36±1℃で24±2時間培養したときに培地上にコロニーを発現する好気性細菌及び通性嫌気性の従属栄養細菌をいう。
糞便以外の汚染に対しても鋭敏に反応を示すので,配水後の汚染の鋭敏な指標となる。実際,集合住宅の貯水タンクなどでも高濃度でみられることがある。
一般細菌の多くは無害の雑菌といわれているが(食品衛生法では,例えば刺身など100万 CFU/gが基準),日和見感染を起こすものもある。それ以上に,一般細菌が多数検出されることは,病原生物による汚染も起こっている可能性を示すので,病原生物による汚染が起こっていない程度の指標として基準値が定められている。
実習では,簡易測定のキットを用いるが,インキュベーションのために体温でなくインキュベータを用いるので正確に測定できる。ただし,このキットでは培地が標準寒天培地と異なるのを補正するため,インキュベーション温度と時間を変えている。
(課題)
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飲料水の大腸菌群試験は糞便汚染の指標である。大腸菌群は人畜の腸管内に生息しており,水中に存在することは,多くの場合その水が人畜の糞尿などで汚染されていることを意味する。ただし,大腸菌群の定義は,大腸菌および大腸菌と性状の似た細菌の総称であり,(1)グラム陰性,(2)芽胞を作らない,(3)桿菌,(4)乳糖を分解して酸とガスを産出する,(5)好気性または通性嫌気性,の条件を満たすものをいう。
基準値設定の根拠は,病原生物によって汚染されているという疑いをもたせない,という点にある。
公定法は乳糖ブイヨン法であり,一般細菌と同様,36℃で24時間のインキュベーションを要する。簡易測定のキットの一つである共立の試験紙は12時間で結果が出るのが利点である。
(課題)
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電気伝導度は,浄水処理過程や配水過程で変化しにくいので,水源水質の性状をよく反映する指標であることが知られている。水中の無機イオンの総量をあらわすため,河川の下流を水源とした水ほど大きいのが普通である。
天然水の電気伝導度は,目安として,雨水が10〜30μS/cm,上流のきれいな河川水が50〜100μS/cm,下流の汚れた河川水が200〜400μS/cm程度である。ただし,温泉水や鉱泉水には無機イオンが多く含まれるため,上流でもこれらの影響がある河川の電気伝導度は大きく,その場合は汚染を示す値とはならない(小倉,1987)。
(課題)
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