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Handout for the Department Meeting 19991025
O'Connor, Kathleen A., Darryl J. Holman, and James W. Wood (1998) Declining fecundity and ovarian ageing in natural fertility populations.
Maturitas (The European Menopause Journal)
,
20:
127-136.
[背景と目的]
閉経までの2つの顕著な年齢に関連した変化(出生力の確実な減少と月経周期の多様性の増加)は,避妊利用パタンと行動の変化を考慮しても有意[Fig. 1]。再生産機能の老化の研究には,バイアスを避けるため自然出生集団での調査が必要。近成要因モデル[Table 1]による要因分解を用いて確率モデルを立て,胎児死亡確率,受胎待ち時間,月経周期といった要因のどれが加齢に伴う出生力低下に効いているのか? を調べるのが目的。
[考え方]
出産意思のあるカップルの1月経周期あたり(あるいは1ヶ月あたり)の受胎確率(fecundability)は重要な指標だが測定困難(非侵襲的に妊娠を知るのが受胎からずいぶん時間が経ってからでないと不可能だったため)。尿中hCG測定ならば6〜7日後からわかるが,胎児死亡が妊娠のごく早期に起こりやすいこと[Fig. 2]を考えれば,直接検出されえない早期胎児死亡が多いことは明らか。この理由で多くの研究ではapparent fecundabilityが用いられるが,妊娠検出技術によって意味が違ってしまうので調査間の比較が困難で,その年齢パタン[Fig. 3]は20代前半から再生産期間を通じて減少。加齢に伴う総受胎確率の真の低下? 早期胎児死亡の増加故? 両者の組み合わせ? 在胎期間全体を通しての胎児死亡リスクの生物学的に正しい数学モデルがあれば,検出された妊娠についてのデータから,受胎リスクを逆に推計することができる。Rural Bangladeshの自然出生集団で,胎児死亡と総受胎確率の前向き研究を行い,これに用いることのできるデータを得た。
[受胎確率と胎児死亡のモデル]
Bishopのフレーム{(1)胎児死亡の大半は染色体異常の結果。(2)染色体異常は両親の加齢とともに増える。(3)多くの観察されない胎児死亡が在胎期間のごく初期に起こっている。}は,WoodとBoklageによって独立に数学モデル化(Wood-Boklage model)。▼前提:受胎時点において,胎児が染色体的に正常か異常かのどちらか。染色体異常群の胎児死亡リスクは高く,正常群のリスクは低いが,どちらも在胎期間を通じて一定と仮定。全体では胎児死亡確率は低下してゆく[Fig. 4]。早期胎児死亡が測定できない(Fig. 2下)ので,わかっている期間から得られるハザード関数を用いる。区間打ち切りや右側打ち切りのデータも含め,受胎検出アッセイ(尿中hCG)の感度と特異度の影響も考慮したモデル(Darryl J. HolmanのPh.D.論文の図を参照)を立てた。
[Bangladeshの受胎確率と胎児死亡=対象について]
Bangladeshの1960年代から人口統計調査が行われてきているMatlabの中心地thana。利点と欠点がある。1990年のKAP調査では約20%の女性が避妊を経験しているが,自然出生に「近い」と見なす。バイアスを避けるため研究開始時にはすべての再生産状況(妊娠,授乳中の人も含む)の既婚女性からサンプル採取。9ヶ月の前向き調査の間,毎週2回,インタビューと採尿を実施。
19000組のインタビューと尿サンプル,708人→(1ヶ月以上データの得られた女性)494人→(月経周期が完了するごとに,周期の後半1/3の尿についてhCGを検査)329妊娠とその在胎期間; 1561月経周期→右側打ち切り81,生産151,妊娠早期に胎児死亡84,妊娠後期に死産10,人工妊娠中絶3。
年齢影響のモデル[Fig. 5]。統計的に有意なのは加齢に伴う異常胎児割合の増加のみ(参考Fig. 8.4)。胎児死亡割合の一貫した増加と40歳くらいまでほぼ一定で急に低下して46歳で0に至る総受胎確率。胎児死亡が加齢とともに増加するのは,染色体異常割合の増加による? 40代での急速な総受胎確率低下は予想外で,未知の近成要因?
[閉経付近での生物学的メカニズムのモデル]
閉経に近づくとともに無排卵性月経が増加し,周期長が変わりやすくなる[Fig. 6]。同時に卵巣の卵子プールが縮小してゆくことから立てた仮説「周期長の変化,とくに長い周期の割合の増加は原始卵胞の欠乏過程が直接もたらした結果」
●根拠:霊長類における閉経は卵胞が無くなることであり,ヒトでは卵巣1つ当たりの卵胞数が1000を切ったあたりから閉経前の遷移が始まり,5〜6年続く。月経のある女性に比べ,閉経後の女性は,卵巣ステロイドホルモンをほとんど作らない。LHとFSHのレベルは卵巣ステロイドホルモンからの負のフィードバックがなくなることによって高くなり変わりやすくなる。閉経近辺の女性は両方の特徴を含む[Fig. 7]。点線で囲んだ短い期間は「偽閉経」または排卵後の卵巣静止期。どちらのケースでも,卵巣静止期以後,周期長が延長し始めている。
●モデル:卵巣静止期は,月経周期の「不活性相」で,若いときとは違って,偶然,次の周期に発達する原始卵胞がなくてステロイドもできないという時期。周期長の統計モデルを3つの相(不活性相,濾胞期,黄体期)の合計として確率モデルを立てれば,周期全体にわたるホルモンレベルの値から各相に費やされる時間の年齢特異的なパラメータ推計可能。
女性が誕生時にもつ卵胞数(個人差無し)
n
0
卵胞が成長を始めるハザード(卵胞毎に独立,時間に寄らず一定)
λ
年齢aにおいて卵巣に残っている卵胞の数
n
a
=n
0
exp(-λa)
年齢aにおいて女性が不活性相にいる時間の分布
Pr(T>t|λ,n
0
)=exp(-tλn
0
exp(-λa))
年齢aにおいて女性が不活性相にいる時間の平均
E(T|a)=(λn
0
exp(-λa))
-1
年齢aにおいて女性が不活性相にいる時間の分散
V(T|a)=(λn
0
exp(-λa))
-2
年齢毎に不活性相にいる時間の仮想的な例:[Fig. 8]上は5つの異なる年齢で,横軸の日数の間,不活性相にある確率。[Fig. 8]下は年齢別に不活性相にある期間の平均値とその上側95%信頼区間。ラボで得たデータでも,広汎な検索をして集めた文献値でも不活性相のデータは少ないけれども,それらのデータはこの理論モデルと無矛盾。このモデルを批判的に検証するために,現在,多数の米国女性を対象に,毎日採尿し月経記録をつけてもらうという5年間の前向き調査を実行中。
[結論]
加齢に伴う出生力減少は早期胎児死亡増加と月経周期やホルモンパタンの不定期化により,それは子宮や視床下部や脳下垂体ではなく,基本的に卵巣の老化による,卵子レベルでの加齢(減数第一分裂だけをした状態で長い時間が経った卵子における突然変異,染色体損傷,それらから起こるアポトーシス?)の結果。今回のモデルでは考慮していない閉経速度と閉経タイミングに影響する共変量(喫煙,パリティ,初経年齢など)を入れたモデルによる検証は今後。データの拡充も必要。