枕草子 (My Favorite Things)
【第447回】 ミトコンドリア(2000年12月12日)
- ミトコンドリアが生殖とアポトーシスに関与しているのは,エネルギー生産工場であることから考えれば,むしろ自然なことだと思う。生殖細胞と体細胞にどのようにエネルギーを振り分けるか,という戦略が個体の寿命と繁殖戦略のバランスを決めるのだから,それが一ヶ所で決まっているというのはもっともらしい。同じ活性酸素の毒性を考えるなら,非局在性からいっても,フェリチンからの鉄放出よりもミトコンドリア絡みの方が先の展開が広そうだと思う。
- それにしても,瀬名秀明・太田成男「ミトコンドリアと生きる」は頭の整理になるし,ぼくが知らなかった最新の知見もいくつか触れられていて面白いのだけれど,誤植が多いのには閉口する。校正の時間が足りなかったのだろうか? あと,他の章に比べて4章は少し浅い気がする(去年のクリスマスイヴのScienceに載った組換え経由で父系のミトコンドリア遺伝子も伝わりうるという論文にも触れていなかったし)。このあたりが専門性の限界か。昨日の復路終電から今日の往路あさま506号内でずっと読んでいたのだが,頭が疲れてきたので骨休めに双葉文庫の日本推理作家協会賞受賞作全集に入った岡嶋二人「チョコレートゲーム」に切り替え,読了。随分前に読んだから大筋は頭に入っているにもかかわらず(ということはトリックは知っているにもかかわらず),父親が息子の正義を証明するために事件に飛び込んで推理するという物語展開はぐいぐい読ませる。ああそうか,高嶋哲夫「イントゥルーダー」を読んだときの既視感はこれだったんだな。
- 昼間も午後も死亡モデル。今日はあまり雑用がない。もっとも,例によってちょっと引っかかったことはあって,データのバックアップ用に買った新しいCD/RWドライブPlextorのPlexWriter 12/10/32Sを使ってデータを焼こうと思ったら,WinCDR 4.0fがドライブを認識してくれないのだった。仕方が無いのでドライブに付いてきたB's Recorder Goldをインストールしてみたが,やはりそのままでは認識されないのだった。DirectX8の絡みでWindows2000の再インストールをしたことを思い出し,SCSI関係のドライバも上書きされてしまったのだろうことに思い至ったので,Adaptec JapanのサイトにあるASPI32の4.60とLSILogicのサイトにあるSYM8951Uのドライバをインストールしたら,やっとB's Recorder Goldは認識され,無事にCD-Rを焼くことができた。
- しかしどうも使いにくいので,WinCDR 6.0アップグレード版の申し込み用紙をもってコンビニに行き,5250円払ってきた。2週間以内に届くということだが,使うのは年が明けてからの予定。
- 帰りは終電1本前。熊谷まで座れなかったので読書。「ミトコンドリアと生きる」を読了し,やはり今年の一般向け科学書のベストはこれだと思った。同じミトコンドリアテーマで今年でた好著として,黒岩常祥「ミトコンドリアはどこからきたか」(NHKブックス)があるが,あちらは真核細胞がミトコンドリアを飼い馴らしたという立場で,かつ著者自身が発見した「ミトコンドリアの分裂装置」にテーマが収斂していくのが見事ではあるものの,一般向けとしてはちょっととっつきにくい気がした。この「ミトコンドリアと生きる」は,酸素をうまく使うための真核細胞側,ミトコンドリア側双方にとっての分かち難い共生という立場で書かれ,かつテーマが広く文章が読みやすいので,一般読者にはこちらから入る方がいいと思う。
- 続けて鈴木光司「父性の誕生」に移った。こちらは,科学的記述に不正確な点が散見されるが,思想的には共感するところが多い本である。しかし,帰宅後晩飯を食べながら読了したが,この程度の内容で本になるというのは,やはり鈴木光司がビッグネームだからだろうと思えて少し癪だ。「いまを生きよう」など,これまでのエッセイとの重複が多いし,同じ角川oneテーマ21なのに「ミトコンドリアと生きる」に比べると手抜きといっていい。保育園の効用に触れるなら,保育一元化論にも是非触れて欲しいし,娘のウンチがついたオムツを洗ったという著者が他の本やインタビューで何度も触れているエピソードにしても,「父性の誕生」を謳うならもっと掘り下げた記述ができる筈だ。その辺を期待して買ったのに,はぐらかされたような気がした。
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