往路あさま2号からMaxやまびこに乗り換え。ふとした気の迷いからPC JapanをKIOSKで買ってしまったのだが,さほど見るべき記事はなかった。フリーのビデオキャプチャソフト3本のレビューくらいか。
さていよいよミーティング準備が山場にさしかかっている。今回の発表のテーマであるChloroquine-resistant falciparum malariaって言葉には,RとLがテンコ盛りで発音しにくいことこの上ない。昨夜自転車を漕ぎながら発音練習をしていたら舌を噛みそうになってしまったが,あの様子を見ていた人がいたら,さぞ不気味に感じたことだろう。いっそChloroquineはCQと呼ぶことにしようか?
問題は,発音以上に内容が豊富かつ難解だということだ。これをどう紹介したらわかりやすいか,というところが紹介者の腕なのだが,今回は難しいなあ。
ポイントとなる背景説明はいくつかある。(1)クロロキンが抗マラリア薬として安価で安全なため,マラリア蔓延地である多くの途上国で最初の治療に使うのに適した薬であること,(2)しかし40年くらい前から東南アジアや南米ではクロロキンが効かない熱帯熱マラリア原虫が出現してきて,今ではそういう場所ではクロロキンが使えないこと,(3)今でもサハラ以南のアフリカやメラネシアではクロロキンが使われ続けていること,(4)そのために人為淘汰が起こってそれらの場所でもクロロキンに耐性をもった原虫が増えてきていること,(5)クロロキンが何故効くのかという仕組みが最近までわかっていなかったこと,(6)クロロキン耐性がある原虫に感染しているかどうかを知るために,これまでは7日から28日間という長い時間が必要だったこと,(7)最近ではin vitroの試験法で27時間で調べる方法も提唱されているが,それでも経験的な方法に過ぎないこと,(8)昨年暮れに,アフリカでは熱帯熱マラリア原虫のpfCRTという遺伝子の変異がクロロキン耐性と強く関連しているかもしれないという報告が出たこと,(9)それが臨床的には耐性原虫の迅速診断の可能性を開き,同時に,クロロキンが効くメカニズムと,耐性原虫では効かなくなるメカニズムに強い示唆を与えること,なのだが,これらをどう並べればわかりやすいかが問題だ。提案されたメカニズムというやつが,また複雑なんだな。
その背景の上での,Djimde A et al. (2001) A molecular marker for chloroquine-resistant falciparum malaria. N Engl J Med, 344(4): 257-263.である。マリ共和国の熱帯熱マラリア患者について,この遺伝子マーカーと伝統的なクロロキン耐性の関連をチェックし,強く有意だったという,この論文を紹介しなければならない。最後には,女子医大の金子さんたちが今年の熱帯医学会で発表した,マラウィのデータでは関連がなかったという批判も紹介する必要があるだろう。これを平易な英語でやろうというのは,ほとんど奇跡に近いような気がしてきた。
なんて書いていても問題が解決するわけではないので,頑張るしかないのだが。
結局,情報を抱え込みすぎて不消化な状態で発表に臨む羽目になり,ハンドアウト(概要)のプリントにも手間取ったりして(出力がきれいなプリンタに出そうと思ったらPaper JAMを起こした)慌てた上に,睡眠不足のせいで頭も口も働かず,プレゼンテーションはいま一つだった。申し訳ない>教室員各位。
帰りは終電1本前にした。上野から座れたので,佐島直子「誰も知らない防衛庁−女性キャリアが駆け抜けた,輝ける歯車の日々」(角川oneテーマ21)を読み始め,読了。これは必読書である。編集者がつけたのであろう帯には不満があるが,中身はすばらしい。「防衛庁OBからの辛口ラブレター 19年間女性キャリアとして防衛庁内部をつぶさに見つめ続けた著者が綴る,とんでもない真実」というのは,嘘ではないが,不適切である。この本は,そんな覗き見趣味でだけ読まれるようなものではないし,著者の佐島さんは,普通いう意味でのキャリアではないと思う。
この本は,たぶん,何よりもまず著者自身が生き続けるために,どうしても書かれねばならなかったのだ。読者は,否応なく彼女の人生を追体験してしまう。それだけに,彼女にこの本を書かせた動機となった出来事が辛くて,涙が出そうになった。その喪失感はどれほど大きかったか,想像もつかない。そうやってひたむきに生きる中で,武器をもって迷彩服を着ているけれども一般法に従うという意味で決して軍ではない自衛隊の存在をインサイダーとして考えつづけ,国際室渉外専門官として各国の武官と交渉する過程で彼女が得た視点は,防衛庁の内輪話などという次元を離れて,一読の価値がある。有事法制について,諸外国との関係について,米国,とりわけ在日米軍の存在について,個人と社会の関係について,政治家が自衛隊の制服組に接近することの危険さについて,などなど,目から何枚もウロコが落ちた。もちろん全面的に賛成するわけではないが,これまで気がつかなかった視点からの指摘がいくつもあった。
こういう重い内容を軽妙な語り口で面白く読ませてしまうのだから,著者の力量は相当なものだ。こういう人の指導を受ける専修大学経済学部の学生は幸せだと思う。