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個別メモ
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【第1066回】 痛い訃報(2008年5月26日)
- 6:00起床。とてもいい天気だが×。往路あさま512号。土曜の草刈りの後遺症であろう脚の筋肉痛がひどく,自転車を漕ぐのが辛い。
- とてもショックなことなのだが,大学時代の恩師である鈴木継美先生が亡くなったとのこと。このところお加減が悪くて入院されていたのは知っていたが,まさかこんなに早く亡くなってしまうとは。もう20年以上前になるが,ぼくは,環境中の様々な要因が互いに相互作用している生態系の中で人間がどうやって他の要因と相互作用しながら生きているのか,どうすればシステムを壊さずにうまくその相互作用を続けていけるのかを研究したかった。それなら生態系生態学だろうと素朴に考えて,駒場での進振りのときに第一志望は基礎科学科第二にしたのだが,点が足りずに行けず,第二志望の保健学科に進学した。保健学科には人類生態学教室があったからだ。想像していた通り,2年生のときの講義でも鈴木先生のお話はダイナミックで面白く,ここで研究するしかないと思うに至った。人類生態学教室の門を叩いたとき,とりあえず卒論では魚でも飼って,複数の有機や無機の汚染物質に曝露させて影響をみたい,などと口走ったら,そんなことは何十年も前に終わっているんじゃないか,と厳しく窘められてショックを受けたが,学生に厳しく接して弱点を容赦なく指摘することによって学生に奮起を促し,文献を調べたり先行研究やその手の研究の国内外での実施状況を調べたりして周辺を固め,再度ぶつかってくることを期待されていたのだと,いまならわかる。学問に対しては非常に厳しい態度で接する反面,いい仕事をしたときにはストレートに認めてくださる先生であった。残念でならない。
- 水曜日の大学院の講義資料を作って印刷し,夕方のR勉強会でも使った。若干のタイプミスを発見できて良かった。その後,大学院web情報の更新データを作って送信したら21:00近い。
- 自転車で新前橋に出て,復路あさま553号。キース・デブリン,ゲーリー・ローデン(著),山形浩生,守岡桜(訳)『数学で犯罪を解決する』ダイヤモンド社,ISBN 978-4-478-00420-3(Amazon | bk1 | e-hon)を読了。天才数学者がFBI捜査官である兄を助けて事件を解決するという米国の連続テレビドラマ「NUMB3RS」の背後にある数学を解説した本。デブリンはスタンフォードの教授で一般向け数学本を何冊も書いている,日本で言えば矢野健太郎みたいな人らしい。ローデンはカルテックの教授で統計学の専門家だそうだ。前にも書いたようにネタは面白いが突っ込みどころもかなり目に付く。例えば,5ページの数式が明らかに誤植だとか(15ページの式はたぶん正しい),p.16で出てきて訳者あとがきでも解説されているロスモの「距離」は,普通は「市街距離」と言うんじゃないかとか,p.50の「二進化」は,たぶんbinaryの訳だろうが,それならこの文脈では「二値化」と訳すべきではないかとか,p.220のマトリックスは,もし横が囚人1の戦略,縦が囚人2の戦略というのが正しいなら,枠内の「囚人1だけ」と「囚人2だけ」は逆のはずだとか,p.224の中ほどの『ここのプレーヤーの』は「個々のプレーヤーの」だとか,p.273の『測定値には期待値からおよそ29の標準偏差がみられる』は,「測定値には期待値から標準偏差のおよそ29倍の隔たりがみられる」という意味だろうと推測はできるがあんまりだとか……(疲れたのでもうやめるが他にもある)。あと,訳の読みやすさにかなりばらつきがあった。山形訳は読みやすいことで有名だが,たぶん守岡訳部分を山形さんが目を通して統一したというところが完全でないのだろう。また,最後の方のドラマの各回の粗筋紹介は訳の粗さが目立った。直訳っぽい不自然さに加えて,細かな突っ込みどころも多かった。「ベクトル」(p.309)なんて面白そうなんだが(川端の「エピデミック」に通じるところがある。地道なクロス集計とかではなくて,いきなりGISで疾病地図を作って空間統計とか,SIRモデルを使ってみるとか,ちょっと疫学の取り上げ方が表層的なキライはあるが),『「SIRモデル」(非耐性,感染,回復の頭文字)』という訳語はいただけない。SIRモデルのSはsusceptibleであり,感染症疫学では「感受性」が定訳になっている。Rも原文がrecoveredとなっているのだろうが,SIRモデルでのRはrecoveredとremovedの両方の意味で使われ,回復したら(少なくとも暫くは)Sには戻らないことがSIRのフレームワークの重要点の1つであることを注記しておいてほしかった。また,原文がなんだかわからないが,p.307の『数学式』というのもひっかかった。悪いとは言い切れないんだが,普通は「数式」ではないだろうか。p.337「民主主義」の最後の行は明らかに誤訳か誤植で,たぶん「ドンは」ではなくて「チャーリーは」だろう。面白い本だけに仕上がりの甘さが惜しかった。まあ,2005年1月頃読んでいた『確率と統計のパラドックス』ほどひどい訳ではないし,だいたいは読みやすかったのだけれども。
- 書き忘れていたが,中野次郎『患者漂流---もうあなたは病気になれない』祥伝社新書,ISBN 978-4-396-11069-7(Amazon | bk1 | e-hon)も読了したのだった。表現に毒が多く過激に言い切っている部分が多い,悪く言えばsensationalisticな本だが,傾聴すべき意見もあった。ただ,臨床研修の現状認識はズレていると思うし,中堅の勤務医が開業支援業者のサポートを受けて続々と開業していることをどう考えるのか,地方の医師不足の原因については考察が足りないんじゃないかとも思ったが。
- 家に帰ってからキャラメルを舐めていたら歯の金属の詰め物が抜けてしまった。歯医者に行かねば。面倒だなあ。
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