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個別メモ

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【第1327回】 オセアニア学会仕事もやらねば(2009年5月21日)

日常の堕落
5:55起床。今日から裁判員制度が始まる(去年12月5月=ちょうど1年前の今日触れた)というニュースと,東京でも「新型」患者が見つかったというニュースが流れていた。割れたガラスの片付け方を子供に指導したり,他にもいろいろやることがあって出発が遅くなった。往路あさま512号。眠くて仕方ないところへもってきて,新前橋駅に着いたら,ちょうど群大病院経由で荒牧行きのバスが来たので,いい天気なのだがバスで眠っていくことにした。時間は自転車と同じくらいだったが,疲れがとれた。
オセアニア学会仕事を半分だけ
メールで入ってきたオセアニア学会の仕事もやらねばならないが,講義準備を優先すべきだろう。
わからないことばかり
今年1月に出た週刊医学界新聞の『インフルエンザパンデミック』特集号(押谷先生が監修されていて,バックナンバーの一番下に載っている第2812号)の記事でもそうだが,以前は,Antigenic Shiftというのが大変異で,HとNの組み合わせが新しいものと変わることで,それがヒトからヒトへの感染を起こすようになったときに世界的大流行を起こし,病原性によっては多くの死者を出すと言われていた(だから,感染症法でもH5N1を高病原性鳥インフルエンザとして2類の全数把握に区分してきたし,第6条の7で,

『この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一  新型インフルエンザ(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
二  再興型インフルエンザ(かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう』

と定められている)。しかしH1N1というだけだったら,Spanish Flu以来久々というわけではなく,ソ連カゼもそうだし,ワクチンとして使われてきたA/Brisbane/59/2007(H1N1)類似株とか,A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)とかA/New Caledonia/20/99とかもそうだ。毎年のように抗原性が微妙に変異し続けているのだ(これをAntigenic Driftという)と認識していた。もっというと,そのウイルス自体が世界中に広まっているのか,類似株が異所的同時的に発生しているのかはわからないが,毎年のように主要な流行株が置き換わり続けているので,流行そのものだけ考えれば,これまでもパンデミックは起こってきたといえるのかもしれない(追記:こんな見方はたぶんこれまで誰もしていないが)。strain別の全数把握などされないためにエピデミックカーブがわからなかっただけで。だからこそ高病原性鳥インフルエンザであるH5N1がヒトからヒトへ感染するようになるのを最も警戒してきたはずだ。しかし,今回の話では,H1N1なのに季節性と同じでないという。これがまず理解しにくい点だと思う。合理的な説明としては,感染症法の定義にあるように,これまで豚のウイルスであって,ヒトからヒトへ感染する能力をもっていなかったはずのウイルスが,新たにヒトからヒトへの感染能力を獲得したから「新型」インフルエンザと呼ぶのだということだろう(つまり,H1はH1だけれども,ヒトの間で流行しているウイルスのH1でなくて豚でdriftを続けてきたH1が新たに組み合わさってできたウイルスたという意味ではshiftに違いない。もっとも,豚にはヒトのウイルスも感染するから,この豚のH1とヒトのH1がどれくらい違うのかはわからないが:括弧内24日追記)。だから当初swine fluと呼ばれていたのだが,4月29日にエジプト政府が感染予防目的で国内飼育されている全ての豚を殺すという決定を下したこと(7月3日1字削除及び太字追記)と豚肉業界から抗議があったことをきっかけに,WHOはswine fluと呼ばなくなった(豚肉には何のリスクもないのだから,この対応は二重の意味で失敗だったと思う)。豚起源であることを前提にしないなら,感染力とか病原性(あるいは病態)とか亜型で区別するしかないので,新型扱いすべきなのかどうかを語るのは難しくなる(参考としてScience NewsのMartin Enserinkの記事は良くまとまっていてわかりやすい)。新型も流行を経て季節性インフルエンザとして定着するのが普通なわけだが,いつからそう言えるのかということも微妙である。致命率がメキシコとそれ以外の国で違いすぎるのも,理解を難しくしている。メキシコの死亡例は合併症かもしれないし,遺伝や環境条件によって感受性に特異性があったのかもしれないとも考えられる。そうだとすると,病原性について「季節性インフルエンザとほぼ同等」と考えられても不思議はない。押谷先生が挙げられている病態の特徴が,メキシコ以外の国でも同じであって,かつ従来のインフルエンザでは見られないものなのか(あるいはウイルス性肺炎症状の発症率が従来[=ゼロではない]よりずっと高いのか)を知りたい。ウイルスそのものについての確定診断はPCRでのシークエンスなのだろうが,重症化するときの増殖や毒性のメカニズムがどう従来型と違っているのかを遺伝子発現レベルで知りたい(この点については,y_tambeさんの今日の/.Jの記事はある程度答えになっているかも……というか,厳密には答えがまだないようだ)。また,従来型との交差反応性も知りたい。ほとんどゼロなのだろうか? 市民社会におけるリスクマネージメントには絶対必要なリスクコミュニケーションとしては,そのレベルの情報をわかりやすく提示する必要があると思う。その上で「だから特別に警戒しなくてはいけないんですよ」とキャンペーンしてくれたら,納得もいくというものだ。リスクコミュニケーションの専門家だというPeter SandmanがNatureのcommentaryとして書いた記事著者のサイトにある長いバージョン)は「政府は最良の場合を期待しつつ最悪に備えねばならない」という主旨で示唆的だが(それに対する反論もまた示唆的),上述の意味では情報が足りないと思う。なお,週刊医学界新聞の座談会で発熱外来についての川名先生のコメントは至極もっともだったと思うが,現状をみるに,日本の公衆衛生行政はこのコメントに答えられていないと思う。特集表紙になっている大日さんの220万人超のPerson trip dataを使った感染拡大シミュレーションの図は,週刊医学界新聞には詳細は示されていないが,兵庫,大阪,奈良,京都,滋賀にはある程度の人の移動があることを意味していると思われる。しかし今回の場合,数日間は兵庫と大阪に留まっていたのは,検査が間に合わなかったということなのだろうか。それとも人の流れが普段とは変わるということだろうか。なお,H5N1用に用意された対策だとしてもシステムへの負荷が大きすぎてパンクしそうなのだとしたら,対策としては間違っていたのだと思う。システムを維持できるような対策を今後考えなくてはいけないので,暫く前に書いた,健康教育を含むドラスティックな改変も視野に入れる価値があるのではなかろうか。
研究ラッシュ
ScienceのJon Cohenの記事を読むとなるほどと思う(なお,この記事に引用されている,ピッツバーグ大のElodie Ghedinによる,今流行中のウイルスと季節性インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパクのアミノ酸配列を比較する図を見ると,確かに両者が全然別物なのは一目瞭然だ。同じような見せ方をしたときに季節性インフルエンザウイルス相互間の違いがどれほど少ないのかを示してくれたら,もっとinformativeなんだが。それと,これほど違うならH1ではなくて,新たな番号を与えてくれたら良かったのにと思うが,それは無理だったんだろうか?)。4月23日以降,世界中の研究者が争うように今回のインフルエンザ研究に打ち込み,NatureScienceという科学の世界の2大雑誌や,NEJMLancetといった医学の一流誌が競って特設サイトを作ったほど(PNASも特設サイトこそないがトップページでH1N1関係の論文をピックアップできるリンクを表示していて,フルテキストオープンアクセスになっている),世界の注目が集まっている研究対象で,こんなことは他に類をみない。それはわかる。わかるんだけれども……。
百珈苑
ぼくも珈琲好きの端くれなので,喫茶MLで随分ご指導いただいたtambeさんの凄いサイト「百珈苑」は随分読んだが,移転したそうだ。
OpenOffice.org3.1
いつの間にか,OOoの3.1が出ていた。独自ビルド版バイナリも既にあった。めちゃくちゃ重くなってないか?というのは,やはりアンチエイリアシング表示のせいだろうか。
Rコーディング
昨日のRコーディングの続きを少々。いやだから講義準備を先にやるべきなんだって。わかってはいるのだが,コーディングは思いついてしまうとそのときやらねば忘れるので仕方ない。復路,高崎でほぼ1時間待ちになってしまった間にコーディングを進めたら,かなり捗った。しかしマージンがうまくとれずに表示できない図があるので,もう少し試行錯誤が必要だろう。あさま553号では眠っていた。

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