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個別メモ
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【第1887回】 大学院講義2回目(2011年6月1日)
- 昨日の青空が信じられないくらい低く垂れこめた曇天。と思っていたら小雨が降ってきた。旧暦では6月は雨になって降ってしまうために高天原に水が無くなる水無月で,その名に恥じない雨だ,とも思ったが,旧暦の水無月は確かに6番目だけれども今じゃなかった気がする。
- 今日は先週に引き続き2度目の大学院統計演習があり,2時間英語,2時間日本語でやらねばならないので,きっと終電か,早くてもその1本前だろうし,終わったら疲れ果てているだろう。来週月曜の公衆衛生学については,午前中に済ませたい。
- iPS変身、特定細胞のみ…山中説覆す可能性(リンク先は読売新聞記事)。iPSになれるのは皮膚細胞のうち元々万能性をもっている一部の細胞(Muse細胞)のみであるという研究成果で,PNASに発表されたと書かれている。探してみると,5月31日付のEarly Editionの中にあって,素晴らしいことにOpen Accessであった。誰でも全文(Supplementary Informationも含めて)読めるわけだ。Abstractを読んでみた。書き出しからすると,ウイルス遺伝子を導入した細胞の一部しかiPSにならない理由について,確率モデルとエリートモデルで議論があったらしい。この研究の成果ではエリートモデルが支持されたということのようだ。特定の2種類の抗原の両方にポジティブであることで分離されるMuse細胞と非Muse細胞のそれぞれに,Oct3/4,Sox2,Klf4,c-Mycという4因子を導入したところ,iPSはMuse細胞からしかできなかったし,非Muse細胞からもいくつかのコロニーはできたけれどもiPSのそれとは違い,後生の変化はみられず,主要な万能性マーカも発現しなかったという結果が示されたと書かれているので,ほぼ読売新聞の紹介通りのようだ。Abstractの結論部分は,成人の繊維芽細胞のうち,元々存在している幹細胞だけが選択的にiPSになれるけれども,それ以外の細胞はまったくiPS細胞生成に寄与しないので,4因子導入によるiPS生成システムには,エリートモデルの方が確率モデルよりも適合する,と締めくくられている。もちろん,Muse細胞そのままでiPSと同じ性質をもつわけではないので,山中教授の仕事の価値がなくなるわけではないだろうが,この研究も,最初からMuse細胞だけを集めておいて4因子導入する方が効率よくiPSを作れそうだとわかった点で,実用的な意味が非常に大きいと思う。
- ちなみに,同日のPNASでは,同じくEarly EditionでOpen Accessになっていた,ボノボ(ピグミーチンパンジー)の毛髪中の安定同位体比分析により,食事中動物タンパクの寄与と重要性を探るという論文も目に付いた。Abstractを見た限りでは,性差は無く,タンパク源としては植物性の方が主だ,というのはこれまでの観察研究の結果と変わりないが,優位のオスでは動物性タンパクの寄与が高くなるという相関関係がみられたという点が面白かったのかもしれない。
- 社会的影響はどのようにwisdom of crowd effect(三人寄れば文殊の知恵,みたいなものだろう。大勢の判断の平均は,1人の専門家の判断より正しい場合があるということ)の土台を蝕んでいく場合があるのかという論文も面白そうだ。Supplementary InformationとしてExcelで提供されている表は,生データなのだろうか。
- とよだで昼食中,ふとかつて思いついた「統計探偵」のアイディアの続きが降ってきた(今になって思えば,名称は疫学探偵でもいいかもしれない)。最後の事件は,単なる第一種の過誤ではなく,仕組まれた罠(本来関連がないのに,余計なデータをいくつか紛れ込ませることで関連があるように見えてしまい,多少の副作用とのバランスを考慮しても予防的介入に価値があると判断して政策提言したけれども,当然予防効果は上がらず,副作用の被害者だけは出てしまって,統計探偵がメディアからバッシングされる。掌を返したようなバッシング描写からメディアの定見の無さも描けるとよい。それからどうやって瀕死の重傷を負うのかはノーアイディアだが)だったとする。誰が罠にはめたかといえば,これはもう何か不幸な状況にあって統計探偵を逆恨みしている,薄幸の美女――しかも何らかの意味で教え子だったりするので,探偵は薄々犯人に気付きながらも告発については葛藤する――というのが定番であろう。しかし定番過ぎて,登場と同時に犯人であることに読者が気づいてもいけないので,そこはもう一捻り必要だろう。本格コードでいうと,死人が犯人とか探偵が犯人とか既に捕まっている囚人が犯人とかのパタンと絡めると良いかもしれない。最後に罠を抜け出した探偵が,大きな愛で犯人をつつみ幸せになる……ではベタすぎるか。かといって犯人を死なせてしまうのもベタなので,そこも捻りが欲しいところだなあ,などと考えているうちに食べ終わった。ハンバーグと白身魚フライのタルタルソース掛けはどちらも美味であった。もう一つ思いついたのは,刑事か記者か,犯人を追って情報を集める立場の人が探偵の部屋に来るときに流れている音楽が変化することで,探偵の心理描写を匂わせることができるんじゃないかということで,最初はEsperanza Spaldingとか上原ひろみとかを聴いているのだけれども,罠に嵌るところでは中島みゆきの「エレーン」が流れているとか,いや,やっぱりそれではベタすぎるから,Aikoの「キラキラ」が流れているとか……じゃ普通の読者には意味がわからなすぎるか。でも,例えば第3章くらいでサブカル関係の犯人か犯人につながる人物をだしてきて,相対性理論の「テレ東」か「小学館」を流して,ついでに相対性理論にまつわる蘊蓄が語られるといった演出は面白いかもしれない。
- というか,そういう物語,誰か書いてくれないだろうか。疫学・統計学の監修ならするからさ。
- 研究室に戻ってメールをチェックし学務仕事を済ませ,暫くすると地域保健実習の学生がやってきたので対応した。青森県は地域医療の研修に力を入れていて素晴らしい。それだけ人材を必要としているという面もあるのだろうが,東京などの大都会を除けば全国どこでも似たような状況はあるはずで,その中で先陣を切ってやられているわけだから賞賛に値する。今後もお世話になる学生が出てくると思うので,よろしくお願いします,という気持ちだ。
- 14:20頃から論文チュートリアルがあり,その後は大学院の統計演習の後半で21:00まで。英語と日本語で2時間ずつは疲れ果てる。用意したテキストを全部やりきれるわけもないが,全部駆け足でやるよりも,基本的なところを中心に丁寧にやって,後は自習してもらう方がよいと判断して,今年は丁寧にやった。結果,重回帰分析までしか全員で手を動かすことはできなかった。まあ,駆け足でロジスティック回帰や生存時間解析などやっても意味が無いので,たぶん割り切ってやったことは正解だったと思う。6月末締め切りの課題も去年までと違って必修ではなく,あくまでrecommendするにとどめることにした。つまり,基本的に評価は出席のみによるということだ。届いたレポートについては,おかしいものは添削して返し,普通にできていたらOKと返信することにした。もし,こちらを感心させてくれるようなレポートがあったら,共同研究として展開し,学会発表とか論文投稿とかしてもいいかもしれない。テキストで,Rcmdrでsubsetを作る操作の例示が和文版も英文版も間違っていたことが判明したので修正した。
- S先生からのデータ処理仕事も降ってきているのだが,講義や実習指導よりも優先させるわけにはいかないので,後回し。
- 長野はかなり強い雨だったが,傘をさし,自転車を押して帰った。
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