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論文概要01: Nakazawa et al. (1996) BJN, 76: 333-346.

Last updated on October 31, 2002 (THU) 00:31 .

Nakazawa, M., R. Ohtsuka, T. Kawabe, T. Hongo, T. Inaoka, T. Akimichi and T. Suzuki (1996) Iron nutrition and anaemia in malaria endemic environment: Haematological investigation of the Gidra-speaking population in lowland Papua New Guinea. British Journal of Nutrition, 76: 333-346.


途上国の貧血や鉄欠乏の原因として感染症に罹りにくくするための生理的適応を想定する「低鉄血症適応」仮説は,重要だが地域集団レベルでの実証的なデータがない。鉄摂取が十分に多く,マラリア感染率がミクロな居住環境によって異なる,遺伝的には均質と考えられる集団においては,もし仮説が正しければ,マラリア感染率に応じて,循環鉄と貯蔵鉄のバランスが変わっているはずである。パプアニューギニア低地に居住するギデラと呼ばれる人々はこの目的に合致した対象である。鉄摂取量は海沿いの村落で30 mg,内陸と南方川沿いで60 mg,北方川沿いで100 mgと,日本の栄養所要量の3倍から10倍に達していることが先行研究からわかっている。主要な鉄摂取源は畑作物,陸棲動物とサゴ澱粉であり,前二者に村落間差が少ないのに対して,サゴ澱粉の摂取量には大きな村落間差があり,それが鉄摂取量の村落間差の原因である。一方,間接蛍光抗体法で測定した結果,熱帯熱あるいは三日熱のどちらかのマラリア抗体価が1:64以上であった割合は,海沿いで100%,北方と南方の川沿いでは90%に達していたのに対して,内陸では30%に過ぎなかった。

成人の約80%にあたる264人から血液サンプルを得て鉄栄養状態(ヘモグロビン,ヘマトクリット,血清鉄,血清トランスフェリン,血清フェリチン)の分析を行った結果,(1)貧血は北方川沿いと内陸では皆無で南方川沿いと海沿いでは10〜30%程度,(2)トランスフェリン飽和度の平均値は男女とも内陸で最も高かったが村落間差は有意でなかったこと,(3)血清フェリチンが基準値を下回った人の割合が南方川沿いと海沿いの女性で1割弱,海沿いの男性で5%弱,北方川沿いと内陸では皆無だったことがわかった。

鉄の過剰摂取かマラリア感染が少ないかのどちらか一方でも,鉄欠乏と貧血を防げることが示唆された。しかし,指標値を組み合わせて分析した結果,村落間で造血の状態に違いがあることが示唆された。この違いは,鉄摂取の違いとマラリア罹患リスクの違いの組み合わせに起因するものであり,それは長期的な適応の結果として考えられるべきである。


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