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論文概要03: Nakazawa et al. (1998) AJHB, 10: 781-789.

Last updated on May 26, 2004 (WED) 15:42 .

Nakazawa, M., H. Ohmae, A. Ishii and J. Leafasia (1998) Malaria infection and human behavioral factors: A stochastic model analysis for direct observation data in the Solomon Islands, American Journal of Human Biology, 10: 781-789.


世界でも最悪のマラリアの高度流行地の1つであるソロモン諸島ガダルカナル島北海岸沿いの7つの村落に居住する人々を対象として,1995年から1996年にかけて,血液検査,検査前2週間にわたる住民の行動の直接観察,及び生活習慣の聞き取りを行った。主要媒介蚊の行動特性から,観察項目は,(1)場所,(2)衣服,(3)靴・靴下・サンダル等の3点とした。生活習慣については,7村落を巡回し,乳幼児を除く住民の約80%から,「その年のマラリア罹患(発症)経験及びその治療」,「蚊帳使用の経験」,「夕食を食べる場所」,「水浴びの時間帯」を聞き取った。

血液検査の結果,マラリア原虫陽性は62名,陰性は89名であった。蚊帳使用も含め,生活習慣と陽性割合には関連がなく,行動観察の結果でも,陽性の者と陰性の者の間で日没後2時間にいた場所,靴・靴下・サンダル着用の頻度に有意差は見られなかった。しかし,陽性の者の方が,陰性の者よりも,日没後2時間に長ズボンや長いスカートをはいている頻度が低く,短いズボンや短いスカートで短いシャツを着ている頻度が有意に高かった。

衣服は個人ごとに固定しているのではなく,どの人も長いズボンをはいたり短いズボンをはいたりしていたことから,予防効果βをもつ行為をするかどうかが個人ごとに日々確率変動する分集団(その割合がp)を組み込んだ新しいSEIRモデルを立て,モンテカルロシミュレーションを行ったところ,集団全体の感染率を低下させるためには,βが0.3の場合(衣服の場合),少なくともpが95%以上でなければならないことがわかった。また,β=0.8でもpが70%程度では感染率の低下は平均60%程度にとどまるが,β=0.8かつp=95%の場合は2年以内に100%マラリアが根絶できることがわかった。この結果は,マラリア対策における集団中のカバー率と健康教育の重要性を示すものである。


感染確率について

感染確率の扱い方の違い

以下は,にしうら@いんぺりさんからの問いかけに答えて,感染確率の部分をもう少し詳細に検討してみたものである。なお,ここで用いたシミュレーションモデルについては,Rでシミュレーション(それに加筆したものがThe R Bookの第7章所収)も参照されたい。

問題は,このモデルで,感受性で防御もしていないヒトが,原虫をもった蚊に吸血されて,原虫が体内に入る部分での,吸血確率の扱いである。論文上で,この部分を表している数式は,

dNs/dt = -Mi/M a B(Ns, 1-p β) + ω(N-Ns) + 1/η Nr

の第1項であり,普通に読めば,防御していない感受性の人で感染蚊に出会う人数が二項乱数によって決まり,そこに感染蚊による吸血確率が掛かるように見えるわけだが,実は論文中の扱いはそうしていない。なぜなら,二項乱数の結果は整数値として得られ,実際に感染蚊に吸血されてExposedに移行する人の数も,シミュレーション中では整数値として扱わねばならないからである。そこで,Mi/M aを掛けるのではなく,ここも二項乱数によって感染蚊によって吸血される人数を決定することにしているのである。RでシミュレーションからリンクしたRのプログラムをご覧頂ければ,二重の二項乱数になっていることがわかるだろう。

実際に,Exposedに移行する人数を,p=0.2, β=0.7, Ns=1000, Mi/M a=0.5として,(1)上述のように,まず感受性の人のうち防御していない人数が二項乱数で決まり,さらにそのうち感染蚊に吸血される人数が二項乱数で決まるとした場合,(2)感染蚊による吸血確率を感受性の人数に掛けてしまう場合,(3)感受性の人のうち防御していない人数が二項乱数で決まった上で,感染蚊による吸血確率を掛けてしまう場合,の3通りについて,ばらつきがどうなるかをヒストグラムで見てみる(Rのプログラムは下記の通り)と,右図のように,(1)の場合がもっともばらつきが大きく,(3)の場合がもっともばらつきが小さくなることがわかる。

RNGkind("Mersenne-Twister")
set.seed(1)
IB1 <- rbinom(100,rbinom(1,1000,(1-0.2*0.7)),0.5)
IB2 <- rbinom(100,1000*0.5,(1-0.2*0.7))
IB3 <- 0.5*rbinom(100,1000,(1-0.2*0.7))
band <- seq(min(c(IB1,IB2,IB3)),max(c(IB1,IB2,IB3)))
png("infectrate.png",height=600,width=200)
par(mfrow=c(3,1))
hist(IB1,main="double binom",breaks=band)
hist(IB2,main="limited N",breaks=band)
hist(IB3,main="limited infection",breaks=band)
dev.off()

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