山口県立大学 | 看護学部 | 中澤 港 | 公衆衛生学

公衆衛生学−2.公衆衛生行政

参照

▼「シンプル衛生公衆衛生学」第12章・第5章,「公衆衛生学」第3章・第6章・第15章・第18章

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概要

▼日本の公衆衛生行政の仕組みと実態を中心に説明し,人口についても触れる。

内容

法的基盤
▼憲法第25条「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2.国は,すべての生活部面について,社会福祉・社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
▼健康問題は日常生活のあらゆる場面で密接な関連があるため,公衆衛生行政の諸活動は,家庭や地域社会の生活を対象とする一般公衆衛生行政(主に厚生労働省所管,狭義の衛生行政または厚生行政とも呼ばれる),学校生活を対象とする学校保健行政(主に文部科学省所管),職場の生活を対象とする労働衛生行政(主に厚生労働省所管)の3つに大別して実施(広義の公衆衛生学の対象としては,これに環境保全行政(主に環境省所管)を加えた4つになる)
一般公衆衛生行政
(具体的内容については第3回も参照)
▼基本的に,国−都道府県−保健所−市町村という一貫した体系が確立されている。
▼保健所:地域保健法により都道府県または地域保健法施行令によって指定された市(政令市といい,仙台市,千葉市など47市ある)が設置。また,東京都の23特別区は直轄の保健所を設置。政令市や23特別区は,都道府県と同様に公衆衛生行政事務の大部分を行う義務と責任を有する。
▼国のシステム:厚生労働省の組織(組織図=http://www.mhlw.go.jp/general/sosiki/index.html旧厚生省の組織=http://www1.mhlw.go.jp/sosiki/index.html)は内部部局として大臣官房と11局(注:「シンプル衛生公衆衛生学2002」には9局と書かれているが訂正し忘れであろう),外局として社会保険庁がある。付属機関として,国立医療機関,国立研究所,社会福祉施設,審議会などがある。地方支分部局として地方医務局及び地区麻薬取締官事務所がある。基本的に各部局を通じて法律に規定された事項および予算に基づいた事業を実施し,重大な事件(BSEなど)が発生した場合の対策を企画し行政指導などを行う。
▼都道府県のシステム:かつては公衆衛生行政専門の部局がある自治体が多かった。今は健康福祉部または福祉保健部といった部局で,保健と福祉を併せて扱う自治体が多い。部局中,衛生関係は5〜7課(医務課,薬務課,保健予防課,環境衛生課,食品衛生課など)。都道府県における関連機関は,保健所の他にも,衛生研究所,公害研究所など,試験研究機関や精神保健福祉センターなどが設置されている。(山口県では健康福祉部に厚政課,人権対策室,医務課,健康増進課,薬務課,高齢保健福祉課,児童家庭課,障害福祉課,国保医療指導室がある;山口県組織=http://www.pref.yamaguchi.jp/gyosei/organization/organ_body.htm
▼保健所のシステム:保健所法(1937〜1994):当初は結核,急性伝染病,寄生虫,母子衛生などが主,戦後は健康相談,保健指導,医事,薬事,食品衛生なども→地域保健法(1994〜):サービスの受け手である生活者の立場を重視。地域保健の広域的,専門的,技術的拠点としての機能強化と(「シンプル衛生公衆衛生学」pp.167の表5-2を参照),二次医療圏(医療法の規定により,都道府県において設定される区域(概ね広域市町村圏)で,主として一般の入院医療を提供する病院の病床の整備を図るべき区域。平成11年10月1日現在360圏域→平成13年4月1日現在363圏域)を考慮しての規模拡大が図られている(地域保健の主役なので次回フォロー)。
▼市町村のシステム:人口100万人以上の大都市には衛生局と清掃局がある。人口10万人以上の中都市には衛生部局がある。人口10万人未満の市や町には衛生課が衛生と清掃を担当(国民健康保険業務を合併して保険衛生課となっている場合もある),村では衛生係または住民係。行政組織ではないが,地域保健法で定められた市町村保健センターも,市町村レベルでの対人保健サービス機関として重要(次回詳しく)
学校保健行政
(具体的内容については第5回も参照)
▼教育機関に学ぶ学齢人口及び教職員を対象(国民の約1/5)として,健康保持増進を目的に国や地方公共団体が行う公的な活動。
▼国では文部科学省のスポーツ・青少年局,初等中等教育局,高等教育局が,都道府県では教育委員会や知事部局が,市区町村では教育委員会が所管(「シンプル衛生公衆衛生学」pp.199の表7-6を参照)
労働衛生行政
(具体的内容については第4回も参照)
▼厚生労働省労働基準局が労働基準行政の一環として実施。そのうち,一般的な労働安全衛生については,安全衛生部が所管。付属機関として産業医学総合研究所。その他各種審議会。地方でも国の直轄機関として,47都道府県に労働局(例:山口労働局=http://www.mhlw.go.jp/general/sosiki/chihou/ichiran/yamaguchi.html),その下に全国347ヶ所の労働基準局(山口市では山口労働局に労働基準部として統合されている。県内では他に下関,宇部,徳山,下松,岩国,小野田,防府,萩に労働基準監督署がある)。
▼機関内の労働基準監督官や労働衛生専門官:事業場における健康管理対策等について監督・指導する役割を担う。都道府県労働局には労働衛生指導医,地方じん肺審査医,粉じん対策指導委員
保健医療行政の財政
▼2001年度の国の一般会計予算は82兆6525億円で,そのうち厚生労働省の予算は18兆396億円(国の一般会計予算の約22%)。他にも環境省,文部科学省,国土交通省でも保健医療行政関係の予算執行の一部をする。
▼地方公共団体の保健医療行政に関する予算は衛生費。1999年度の地方公共団体の一般会計歳出決算額の合計は101兆6291億円で,そのうち衛生費は6兆5845億円。衛生費の内訳は,公衆衛生費と清掃費で大半を占める(他に保健所費4.5%,結核対策費0.6%など)
医療施設:医療法(1948年〜)で規定
▼病院「医師または歯科医師が,公衆又は特定多数人のため,医業又は歯科医業をなす場所であって,患者20人以上の収容施設を有するもの」特定機能病院や療養型病床群が制度化されている。1997年医療法改正により地域かかりつけ医支援,地域医療支援病院の制度化。1999年10月1日現在,全国の病院数は9286(地域医療計画の策定に伴う病床過剰地域における病床規制により減少傾向)。対人口比でいえば,山口県は全国平均よりずっと多い(医療法による基準病床数を既存病床数が上回っている都道府県は十数個しかないが,山口県はその1つ)。
▼診療所「医師又は歯科医師が,公衆または,特定多数人のため医業又は歯科医業をなす場所であって,患者の収容施設を有しないものまたは患者19人以下の収容施設を有するもので,診療所の管理者は,診療上やむを得ない事情がある場合を除いては,同一の患者を48時間を超えて収容しないようにつとめなければならない」=一般診療所(1999年10月1日現在91500施設。年々増加。無床化進行),歯科診療所(1999年10月1日現在62484施設)
▼助産所「助産師がその業をなす場所で,妊産婦9人以下の収容施設を有するもの」
▼薬局「薬剤師が販売または授与の目的で調剤を行う場所」
保健医療従事者
▼医師(1998年末における届出医師数は248611人。増加傾向。過剰が懸念される),歯科医師(1998年末届出歯科医師数は88061人,増加傾向で過剰が懸念される),薬剤師(1998年末届出薬剤師数205953人),保健師(1998年末従事者数34468人,増加傾向だが不足気味),助産師(1998年末従事者数24202人),看護師(1998年末従事者総数985821人,増加しているが不足),歯科衛生士,歯科技工士,診療放射線技師,臨床検査技師,理学療法士(PT),作業療法士(OT),視能訓練士,臨床工学技士,義肢装具士,救命救急士,言語聴覚士,管理栄養士,栄養士,調理師,健康運動処方士,健康運動実践指導者,社会福祉士,介護福祉士
▼労働基準局関連:産業医,衛生管理者など
▼文部科学省関連:学校医,保健主事など
▼経済産業省関連:公害防止管理者など
医療保障の仕組みと医療費
▼医療保険の原則:疾病,負傷,死亡,分娩などの経済的損失への保険給付(現物給付vs現金給付)
▼医療保険の分類(「シンプル衛生公衆衛生学」pp.311,表12-1):被用者保険(政府管掌保険,地方公務員共済組合など)と国民健康保険に大別される。老人保健法によって行われる医療は共同負担事業(保険からの負担は拠出金と呼ばれる)。
▼保険者:保険料を徴収し,給付を行う/被保険者:保険料を納め,給付を受ける。国民健康保険の被保険者は,強制被保険者,任意包括被保険者,日雇特例被保険者,任意継続被保険者の4種類。
▼保険給付:医療給付(自己負担限度額を超えた場合の高額療養費も),傷病手当金
▼公費負担医療の目的:国家補償(戦傷病者の援護など),社会防衛(感染症予防医療など),社会福祉(生活保護,児童福祉など),特定疾患治療(37疾患),小児慢性疾患特定疾患治療(10疾患)
▼国民医療費:1955年2388億円から増加の一途。1999年には30兆9337億円(「シンプル衛生公衆衛生学」pp.314,表12-2)。
理念としての目標
▼社会防衛的な公権力発動から基本的人権重視の生活支援型へ。WHOから1978年に示されたプライマリ・ヘルスケアや1986年に示されたヘルスプロモーションなどの概念をもとにした展開が可能になるような,「生活の質の向上」を重視した行政活動の展開が目標。総合的な施策「健康日本21」など
具体的・個別的目標=下に説明するような健康指標の改善
▼罹患率:届け出による患者発生数(人口10万あたり,1年あたり)
▼有病率(人口1000あたり,ある1日=断面での割合)国民生活基礎調査による【有訴者率,通院者率,生活影響率】)
▼受療率(人口10万あたり,ある1日,患者調査による)
▼粗死亡率=年間死亡者数/年央人口×1000
▼年齢調整死亡率:間接法と直接法がある。年齢構造の影響を調整するための技法。直接法では年齢別死亡率が必要だが,間接法では年齢別人口と粗死亡率がわかればいい。
▼乳児死亡率=出生1000当たりの1歳未満の死亡数
▼平均余命:ある時点以降の平均生存期間。X歳以降の平均生存期間を表すとき,X歳平均余命と呼ぶ。
▼平均寿命:ゼロ歳平均余命
▼健康余命:ある時点以降,健康で(この計算では,多くの場合,入院・入所せずに生活していることをさす)生存している期間の平均。

Correspondence to: minato@ypu.jp.

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