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学校保健
最新の更新:
June 7, 2010 (MON)
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「シンプル衛生公衆衛生学2010」第9章(pp.235-258)
2010年6月7日,14:10-15:10,中澤 港(nminato[atmark]med.gunma-u.ac.jp)
参考
- 文部科学省学校保健,学校安全,食育のwebサイト
- http://www.mext.go.jp/a_menu/01_k.htm
- http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/index.htm(学校保健の推進)
- 学校保健統計調査
- http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/1268826.htm
- 文献
- "School Health." Encyclopedia of Public Health. Ed. Lester Breslow. Gale Cengage, 2002. eNotes.com. 2006. 2 Jun, 2010 <http://www.enotes.com/public-health-encyclopedia/school-health>
学校保健とは?
- 2009年4月から法が大きく変わったので注意
- 児童生徒や教職員の健康を保持増進し,生活能力の発達を図るために学校で行われる保健活動。
- 公衆衛生に収まりきれない独特の側面
- 児童生徒は発育・発達期にある
- 学校は教育の場であり,健康達成が教育目的そのものである(ここでいう学校は,学校教育法に規定する学校であり,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,短期大学,専門学校,大学,大学院等を指す。幼稚園は入るけれども,保育園は入らない。保育園は保育に欠ける子供をケアする福祉施設であるとされ,厚生労働省所管である。学齢前の子供を預けるという意味では親から見たら大差ないという視点からすれば,幼保一元化とか保育一元化を望む声があるのは当然だが,それが難しい原因は,この管轄の違いによる部分が大きいと思われる)。
- 保健教育と保健管理からなる。
- 法律:学校保健安全法・学校保健安全法施行令・学校保健安全法施行規則・学校教育法
- 所管は文部科学省
子供の健康の現況
学校保健安全法
- 全文:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S33/S33HO056.html
- 最新の改正まで(施行は2009年4月1日から)「学校保健法」
- 昭和33年4月10日 最新改正は平成20年6月18日
- 以下は第1条と第5条を引用
- (目的)
- 第1条 この法律は、学校における児童生徒等及び職員の健康の保持増進を図るため、学校における保健管理に関し必要な事項を定めるとともに、学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童生徒等の安全の確保が図られるよう、学校における安全管理に関し必要な事項を定め、もつて学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的とする。
- (学校保健計画の策定等)
- 第5条 学校においては、児童生徒等及び職員の心身の健康の保持増進を図るため、児童生徒等及び職員の健康診断、環境衛生検査、児童生徒等に対する指導その他保健に関する事項について計画を策定し、これを実施しなければならない。
学校保健計画
- 法第5条で,「学校においては」学校保健計画を立てることとされる(最新の改正までは,法第2条で,学校保健安全計画を立てることとなっていたが,学校保健計画と学校安全計画が分けられた。学校安全計画は法第27条に規定)
- 規則22条〜24条の各1項で,学校医,学校歯科医,学校薬剤師は,「学校保健計画及び学校安全計画の立案に参与すること」とされる
- しかし具体的には法的規定が曖昧な点がある
- 学校保健委員会が確固としてあり,それが学校保健計画を立てる主体であるかのように見えるが,実態は多様。教育委員会(設置者)から校長に通達がきて,校長が校医や養護教諭と相談して決めることが多いので,校医の責任は重大。家庭や児童生徒は「学ぶ」になりがち
学校保健の領域と構成
- 保健教育
- ・保健学習(教科で直接的・計画的に行われる学習)と保健指導(課外で行われる学習)からなる。
- ・保健管理に比べると効果は間接的だが,永続性がある。児童生徒の保健に関する知識や意識が向上する。
- 保健管理
- 主体管理(健康診断など,心身の健康問題の予防や改善のための諸活動)と環境管理(学校環境衛生や安全のための施設・設備の維持・改善)と生活管理(健康で安全な学校生活のための日常的指導)からなる(テキストの図9.5では多少違うまとめられかたをしているが,保健管理がカバーする範囲は同様)。
学校保健の組織と運営
- 学校保健行政
- 保健教育は文部科学省の学習指導要領により,保健管理は学校保健安全法に基づいて運営される。
- 学校保健組織活動
- 学校,家庭,地域,児童生徒の代表からなる,学校保健委員会が「学校における保健安全についての計画を作成し,その組織的・効果的運営の要となる」とされるが,地域差が大きい。
学校保健関係職員
常勤と非常勤に分かれる。常勤には校長,保健主事,養護教諭,学級担任,栄養教諭(平成17年度〜,食育基本法,学校教育法27条,37条,60条,69条)など,非常勤には学校医,学校歯科医,学校薬剤師,スクールカウンセラーなどがある。
常勤職員の中でも養護教諭(学校教育法27条,37条,60条,69条)の役割は大きい(実務面だけでなく,保健の授業を教えることも可能)。
養護教諭
- 養護教諭普通免許状を有する,学校の正規職員(常勤)
- 「児童の養護を掌る」(学校教育法第37条12項)
- 保健管理・保健指導・保健教育の専門職。
- 保健教育については,1998年の教育職員免許法改正によって,3年以上,養護教諭として勤務経験がある者は,当面,その勤務する学校において保健の教科の領域にかかわる事項の教授を担任する教諭または講師となることができるようになった。
栄養教諭
- 平成16年「学校教育法等の一部を改正する法律」により新設された,栄養教諭普通免許状を取得したものは栄養教諭として学校での保健教育,保健指導にあたる。学校における食育の中核を担う(平成16年6月30日文部科学省通知:16文科ス第142号)。
- 「児童の栄養の指導及び管理をつかさどる」(学校教育法第37条13項)
- 職務は,
- 食に関する指導(個別指導,集団指導,家庭や地域との連絡調整)
- 学校給食の管理(学校給食法第5条への追加)特定給食施設には管理栄養士をおかねばならないという健康増進法第5章の規定はそのまま
- 大学における単位取得によるのが基本だが,現職の学校栄養職員は経験と所定の講習により取得できる特別措置がある
スクールカウンセラー
- 児童生徒の不登校や問題行動等の対応に当たり,学校におけるカウンセリング等の機能の充実を図る目的で,都道府県と指定都市で公立中学校中心に配備
- 平成7年度より(1)臨床心理士・(2)精神科医・(3)心理学系大学教授/助教授/講師等児童生徒の臨床心理に関し高度に専門的な知識・経験を有する者をスクールカウンセラーとして配置(非常勤で週8〜12時間勤務が多い)
- 当初は調査研究委託事業だったので全額国庫負担。平成13〜20年度は補助事業(当初臨床心理士については補助率1/2)。
- 平成14年度で6572校に配置。平成17年度までに全公立中学校約1万校をカバー。
- 平成20年度は,全公立中学校約1万校,小学校は1,105校,緊急支援派遣として650校へ配置可能な経費が補助された(補助率は1/3)
- 臨床心理士は2007年現在,16,732名(医師440名を含む)(日本臨床心理士資格認定協会:http://www4.ocn.ne.jp/~jcbcp/what.html)。
- 非常勤であるための問題点。自治体によっては1人1校に制限するところもあるが,複数校かけもちが多い
子どもと親の相談員等
- 平成15年3月「今後の不登校への対応の在り方について」
- 1. 基本的な生活習慣が身についていないこと等が背景となっているため,早期対応が効果的
- 2. 中学校で不登校が大幅に増加することから,小・中学校間の接続を改善を図る観点から小・中連携の推進が必要
- 「青少年育成施策大綱」等において、学校と警察等関係機関が連携して少年非行対策の充実強化を図ることが求められている。
- 退職教員,民生・児童委員,警察・関係機関OB等人材活用で小学校に「子どもと親の相談員」「生徒指導推進協力員」配置(概ね,週3日,半日勤務)
- 配置実績
- 子どもと親の相談員:平成17年度1510校。児童が悩みや不安を気軽に相談,学校と保護者・地域のパイプ,保護者の相談相手・訪問援助
- 生徒指導推進協力員:平成17年度550校。児童の生徒指導体制充実と警察等関係機関とのパイプ役
学校保健管理
- 学校での健康診断
- 小学校入学前の就学時健康診断(市町村教育委員会が実施主体),児童,生徒,学生,幼児の健康診断(毎年の定期健診と伝染病流行や卒業時など必要に応じた臨時健康診断)と職員の健康診断
- 実施後措置:結果は3週間以内に児童・生徒と保護者へ(学生の場合は本人のみ)通知(規則第9条)。
- 健康相談
- 法第8条「学校においては、児童生徒等の心身の健康に関し、健康相談を行うものとする。」
- 個人を対象とする。平成13年度から17年度まではスクールカウンセラー配備拡充がなされたが,臨床心理士等の専門家と「経験を有するもの」との賃金格差の問題や,カウンセリングの質の確保など問題が山積している。
- 保健室については,法第7条で「学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置その他の保健に関する措置を行うため、保健室を設けるものとする。」と規定されている。
健康診断について
- 小学校入学前に実施する就学時健康診断(学校保健安全法第11条,第12条)
- 学校教育法第17条第1項及び学校教育法施行令第2条により学齢簿に記載された就学予定者が対象。保護者に対して市町村教委が通知する(学校保健安全法施行令第3条)。市町村教委は,結果に基づき治療勧告や助言を行い,特別支援学校への就学に際して助言を行うなど必要な処置をとり(法第12条),就学時健康診断票を作成して校長に送付(令4条)
- 児童,生徒,学生及び幼児の健康診断(法第13条)
- 定期健診は毎年6月30日までに行い(規則第5条),健康診断票を作成し5年間保存(規則第8条)。スポーツテストも含められる(規則第6条2項)。健康診断を円滑に進めるために保健調査をすることがある(規則第11条)。小学校4年以上の寄生虫卵検査は除ける(規則第6条4項)が実際は横並びのところが多い
- 職員の健康診断(法15条)
- 設置者が定める適切な時期に定期実施(規則12条)。職員健康診断票を作成し5年保存(規則15条)
上記の健康診断を行おうとする場合その他政令で定める場合[=次項の感染症予防の場合],設置者は保健所と連絡をとらねばならない(法第18条)。
学校感染症
校長が感染症による出席停止措置をとるとき(法第19条)と臨時休業するとき(法第20条)も法第18条により保健所に連絡する。
学校において予防すべき感染症の種類(規則18条)
- 第一種:
- エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,痘そう,南米出血熱,ペスト,マールブルグ病,ラッサ熱,急性灰白髄炎,ジフテリア,SARS,鳥インフルエンザ(A型H5N1のみ)
- 第二種:
- インフルエンザ(鳥インフルエンザH5N1を除く),百日咳,麻疹,流行性耳下腺炎,風疹,水痘,咽頭結膜熱,結核
- 第三種:
- コレラ,細菌性赤痢,腸管出血性大腸菌感染症,腸チフス,パラチフス,流行性角結膜炎,急性出血性結膜炎他
- ※感染症予防法第6条第7項から9項に規定する新型インフルエンザ等感染症,指定感染症,新感染症は第一種とみなす
出席停止基準(規則第19条):個々の感染症にかかった者については,第一種は治癒まで。結核以外の第二種は症状によりいろいろ(例えば,通常のインフルエンザは解熱後2日を経過するまで,麻疹は解熱後3日を経過するまで,水痘は全ての発疹が痂皮化するまで,等々),結核と第三種は医師が感染の恐れがなくなったと認めるまで(第1項〜第3項)。同居家族及び感染疑い例については,医師が感染のおそれがないと認めるまで(第4項),第5項「第一種又は第二種の感染症が発生した地域から通学する者については,その発生状況により必要と認めたとき,学校医の意見を聞いて適当と認める期間」は,おそらく学校閉鎖や学級閉鎖の期間についての規定だと思われる。第6項「第一種又は第二種の感染症の流行地を旅行した者については,その状況により必要と認めたとき,学校医の意見を聞いて適当と認める期間」は,パンデミック対策と思われ,去年の新型インフルエンザ流行の初期に,帰国後10日間は家庭で待機するように指導した学校がいくつかあったが,根拠はこの規定であろう。
学校歯科保健
- 概要:歯の疾患は,非可逆的進行と高い有病割合が特徴。歯を失うとQOLが大きく低下する。
- 学校歯科保健は,とくに小学校に通う学童が乳歯から永久歯への生えかわる時期であることから重要。
- う触の傾向:長期的にみれば,軟らかい食品を食べ,ショ糖を含んだ飲食物をとっていれば増加傾向になるのは必然。
- 歯周疾患:学童期には軽度の歯肉炎が多く,成人以降は重症の歯周炎が増加(関連は不明)。
う触と歯周疾患の予防〜とくに歯質の強化におけるフッ化物の利用との関係
日本は水道水へのフッ化物添加はしていないが(かつて添加された市町村もあったが,いろいろな理由で続かなかった。海外では水道水へのフッ化物添加はそんなに珍しくない[参考]),歯科でのフッ化物塗布の効果は大きい。スクールベースフッ化物洗口が広まっており,2008年3月現在,47都道府県,6,433施設,約67万人が参加している。
学校環境管理
- 学校保健安全法第5条(学校保健計画の策定)の中に,環境衛生検査を計画に含めることが明記されている。
- 同法第6条で,学校環境衛生基準を文部科学大臣が定め,設置者はその基準に照らして適切な環境の維持に努める義務をもち,校長は基準に照らして適正でない環境を認めた場合は遅滞なく改善措置を講ずることが定められている。
- 学校保健安全法施行規則第1条1項で,「法5条の環境衛生検査は……毎学年定期に,法第6条に規定する学校環境衛生基準に基づき行われなければならない」とある。同規則第2条が日常点検を定める
- 学校環境衛生基準は,テキストの表を参照(文部科学省サイト:学校環境衛生基準(平成21年文部科学省告示第60号)[リンク先はpdfファイル])。項目は照明,騒音,換気,飲料水,便所,衛生害虫,給食等
- 学校薬剤師は上記環境衛生検査に従事し,学校環境衛生の維持及び改善に指導と助言(同規則第24条)
学校環境管理上の最近の課題
- 学校で生じるシックハウス症候群としての「シックスクール」
- かつて防火のために吹き付けられたアスベストの問題⇒この数年でかなり除去工事が進んだ。
学校教育における保健教育
保健学習と保健指導からなる。
- 保健学習:保健に対する系統的知識の教授。
- 学習指導要領に基づく。
- 学習目標は,生涯を通じて自らの健康を適切に管理し,改善していく能力を培うための,健康の保持増進のための実践力の育成。
- 小・中・高でポイントが変わる。
- 保健指導:具体的トピックを課外で教える。
- 目標は,特別活動等で児童生徒が健康・安全な生活を送るための実践力の育成。
- 集団的保健指導として学級活動,児童会活動,クラブ活動他
- 個別的保健指導として担任による一般的指導と養護教諭や校医による専門的指導がある
学校給食法の一部改正
2009年4月施行
学校給食を活用した食に関する指導の充実
- 食育の観点から学校給食の目標を改定
- ・食に関する適切な判断力の涵養
- ・伝統的な食文化の理解
- ・食を通じた生命,自然を尊重する態度の涵養
- 栄養教諭による学校給食を活用した食に関する指導の推進
- ・食に関する指導の全体計画の策定
- ・地場産物の活用
学校における学校給食の水準及び衛生管理を確保するための全国基準の法制化(文部科学大臣が定める)
- 学校給食実施基準(学校給食法第8条)
- 学校給食衛生管理基準(学校給食法第9条)
特別支援教育の推進
リンクと引用について