RiskCommunicationTrial
このページの主旨
- 環境自由大学青空メーリングリストへの投稿や,『環境リスク学-不安の海の羅針盤』の書評で書いたように,今後ますます大事になってくると思われるリスクコミュニケーション(一般に,「あるリスクについて直接間接に関係する人々が意見を交換すること」と定義されていますが,一方的な説明に終わらず,意見交換を通して正確な相互理解を図る点が特徴です。現在の環境問題や健康問題は,少なくとも間接的には,すべての人が関係する問題が多く,しかもさまざまな要因が複雑に絡み合って起こっている場合が多く,誰にとってもこれが正解である,という解決策が見つからないのが普通です。とくに,意見交換をする上では,誤解や感情的な議論を避け,できるだけ紛れのない言葉で正確な事実を―あるいは根拠に基づく推定・予測を,もちろんその過程も含めて―相互に把握することが重要だと思います。このページもご覧ください)について,現実にどれくらいのことが可能なのかスキルを磨くために,環境や健康のリスク絡みの時事問題をわかりやすく解説することを目指して,Wikiページを作ってみることにしました。
- そこで,読者の方にお願いなのですが,各記事の下の枠にコメントをご記入いただけますので,個々の記事がわかったかわからなかったか(わからない場合はどこがわからないかも含めて)お教えいただけないでしょうか? どういう方のコメントかも知りたいので,できれば,コメントの最初に(40代,大学教員)とか(20代,学生)のように,年齢階層と職種(差し支えのない範囲で構いません)をお示しくださると助かります。性別を書く必要はとくにないと思います。むしろ高等教育を受けた方の場合は,理系か文系かを書いていただけると,リスクコミュニケーションの立場からは役に立ちます。
- 専門家の方は上の「編集」を使って解説記事を書いてくださると助かります。ただし文責を明記されていない場合と,リスクコミュニケーションのためという主旨にそぐわない場合は,中澤の一存で削除してしまうことがあります。また,書かれる前に,本サイト全体の運営方針として,リンクと引用についてをご一読ください。
- ご協力のほどよろしくお願いします。
[1] ノロウイルス(2005年1月14日:文責=中澤 港)
竹内君の日記で取り上げられていたように,Yahoo!ニュースの記事(産経新聞らしい)は,ノロウイルス感染が今年急増したような印象を与えます。しかし,本当に増えているのでしょうか?
- マスメディアに大きく取り上げられた集団発生があったので,これまでなら下痢をしても病院に行かなかったような人も行くようになったかもしれません。
- 厚生労働省が1月10日付けで高齢者施設における感染性胃腸炎の発生・まん延防止策の徹底についてという通知を出していますから,これまでなら確定診断しなかったような事例についてもノロウイルスの検査をするようになったかもしれません。
少なくとも,これら2つの理由で,検査数が増えた可能性があります。しかも,ノロウイルスの検査法は,一昨年末に新しい方法に変わって検出感度が上がったかもしれません。つまり,確定した患者数の増加は,本当に患者が増えたのではなく,これまで見逃されていた患者が患者としてわかっただけという可能性があります(以上が竹内君の日記にコメントした二重のバイアスの意味です)。
でも,もっと問題なのは,産経新聞の記事には経年的な患者数の動向がないので,本当に「増えた」のかどうかが判断できない点です。患者数動向データは厚生労働省のサイトにあるノロウイルス食中毒の予防に関するQ&Aをみると,平成12年以降は毎年7000人から8000人の患者数で推移していますし,感染症情報センターのウイルス検出状況・集計表に掲載されている胃腸炎&アデノウイルス(リンク先はGIF画像)で前年同期と比較しても,決して増えてはいません。
以上を考えますと,産経の記事に代表されるメディアの取り上げ方は,集団死亡という1つのアウトブレイクの社会的インパクトが大きかったことからニュースバリューがあると判断して,本当は急増したわけでもないのに集中的に取り上げているだけと判断するのが適当ではないかと思います。
念のために言っておきますが,ノロウイルス原因に限らず,もちろん食中毒の集団発生は避けるべきものですから,施設等では,十分な手洗いと汚物と清潔なものの分別,食品に汚物が触れないようにする,鮮度管理を十分にする,胃腸が弱いとか高齢で免疫が弱っているなどハイリスクの人はできるだけ十分な加熱調理をした食品を食べるようにするといった,一般的な対策はした方がいいことはいうまでもありません。
- わかりやすくまとまっていると思います。情報の鵜呑みには気をつけていたはずなのにいつの間にか鵜呑みしていた自分が少し恥ずかしいです。ブログによりいろんな記事の共有が簡単になった事を考えると、より注意深く記事を読む必要性が増したのかなぁと思いました。 -- 竹内(20代、学生) {2005-01-14 (金) 12:23:03};
- 検出感度が上がったのにそれ以前と患者数が変わらないということは、むしろノロウィルス流行が今冬は以前ほどひどくないという印象すら受けますね。集団感染が発生した施設数や、施設あたりの患者数などの統計も知りたいところです。このwikiはとても面白い試みですね。 -- ソログ(20代、男) {2005-01-14 (金) 14:59:24};
- 今は、高齢者の施設が注目を浴びていますが、このウイルスが小型球形ウイルス(SRSV)と呼ばれ、注目され始めた1998年頃は、保育園、幼稚園、小学校での集団感染がマスコミで大きく取り上げられていました。今年の子どもの集団感染の発生状況はどうなのでしょう。子どもが集まるところにも、吐しゃ物の処理法、手洗いの励行等、確認、指導する必要があるのでしょうね。 -- Kuzu(40代、主婦) {2005-01-14 (金) 15:42:24};
- overall同感です。おそらく部分的に医師や公衆衛生専門家は同内容を理解しているはずです(理解してなければ勉強してもらうしかない)。問題なのはリスコミの中に含まれるだろうメディアリテラシーだと思います。日本以外でもマスメディアの理解のレベルは一般人に毛が生えた程度と同じなので、どうやってそういうニュースを噛み砕くかを学んでもらうしかないと思います。感染症関連研究者としては、お肉関連のヒステリックな印象を持つ一般人の人が部分的に増えたとしても、こういう機会に皆さんが忘れかけている感染症を勉強してくれて重要性を再認識して下さるので、そういう点では各流行毎に何かと非常に良い教訓があると思います。ただし、社会的問題として顕在化させるかどうかについては、こうやって広げていっていただいてボトムアップする人がいないとダメかも知れないです。 -- にしうら(20代、理系研究者(サムライ)) {2005-01-14 (金) 20:11:58};
- ノロウイルス(小型球形ウイルス)が、食中毒の原因菌として集計されるようになってから、毎年ぴりぴりしながらニュースをチェックしています。今回は7名もの方がなくなられたインパクトが強かったですが、施設側の対応が後手に回ったのが問題を大きくしたという印象を受けています。また検便(腸内細菌検査)のルーティン項目には、ノロウイルスは入っていないため、高齢者施設などでは盲点になっていたのかなぁと思いました。感染が各地で判明しているのは、事件がなければ単に「おなか壊したのね」ですまされていたケースが、あわてて検査してみたら、ノロウイルスだった、ということではないのか、と思っています。あとは健康保菌者もけっこういるのでは。 -- 青木みや(30代、管理栄養士) {2005-01-14 (金) 23:53:18};
- コメントありがとうございます。食品安全委員会のサイトにあるpdfファイルによると,平成15年の患者数は1万を超えていますけれども,昨冬には今冬ほどニュースで取り上げられなかったのは,マスメディアが上述のバイアスに配慮したというよりも,人々の耳目を集める集団発生での死亡例が少なかったんでしょうね。 -- 中澤 港 {2005-01-18 (火) 11:55:41};
- ただ,もっと一般の方からの「これではわからん」という意見がいただけるとうれしいのですけどねぇ。 -- 中澤 港 {2005-01-18 (火) 12:15:56};
- 一般の方の中には、そもそもリスクコミュニケーションって何? という方も多いのではないでしょうか。わたしもよくわかっていません。リスクコミュニケーションということばそのものについての解説記事があると、もっとコメントしやすくなるような気がするのですが、いかがでしょうか? -- joe(30代、研究者) {2005-01-19 (水) 17:52:18};
- コメントありがとうございます。取り急ぎ注釈としてつけてみましたけれども,ご指摘の通り,もう少し充実させて,そのものを解説する記事を書いたほうがいいかもしれません。もう少し考えてみます。 -- 中澤 港 {2005-01-19 (水) 18:31:40};
- 昨日は「少なかったんでしょう」と書きましたが,リンク先のpdfファイルをご覧いただければわかるように,昨年までは死亡例はゼロでした。不正確なコメントだったことをお詫びします。つまり,死者がでてしまった--しかも,施設での集団発生のなかで--ので社会的インパクトが大きかったということですね。 -- 中澤 港 {2005-01-20 (木) 16:03:40};
- 話題の裏づけなるデータ(事実)と照合するなかで、お話しをされてはいかがでしょうか -- K(40代 理系){2005-12-04 18:18:19 (日)};