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書評:かとうちあき『野宿入門:ちょっと自由になる生き方』草思社文庫

更新:2018年5月18日

書誌情報

書評

これを原作として綾瀬はるか,または松岡茉優主演でドラマにでもすれば売れそうなルポ本という感じ。「野宿ガール」とかどうだろう?

饒舌な語り口のせいで内容が水増しされている感じはあるが,「入門」だから仕方ないか。そこそこ面白く読めた。ご本人がデータを取って日記でも付けていれば,タイトルも「野宿日記」としてマニアックな読み物にもできる題材だが,たぶんご本人の指向性がそこにない感じ。

蚊よけの方法も「○×もいいかもしれません」止まりの記述なのが惜しく,カタログ的にいろいろ試して結果を書いてくれたら,もっと面白くなったと思う。蚊取り線香をお勧めと書いておきながら,「一巻きが一晩もたない」という記述も,一晩もつ大型の存在を知らないのだろうか? と突っ込みたくなるし,記述が薄い。ぼくの経験からいえば,DEETが高濃度で入っている昆虫忌避剤(insect repellent)を,マミー型のシュラフカバー(30年ほど前に買ったので,たぶん現行のこれとは違うだろうが,Monbelのもので,単体使用できないと書かれているがパプアニューギニアの低地で使うには支障ないし,もし寒かったら,飛行機の冷房が寒いため常時持ち歩いている超軽量ダウンジャケットを着て入ればOK)の顔が出る周りに塗りたくり(または塗ったタオルなどを装着し),網が無くても新聞紙でも軽く上に被せて寝れば,パプアニューギニアでの野宿でも蚊はほぼ避けられる。

もっとも,ぼくは中学生の頃,頻繁に多摩川の河川敷で夜釣りのために野宿していて,先達に学ぶことの素晴らしさには大変共感したが,その頃は焚火をすることが普通だったのだが,いまは勝手に焚火をしてはいけないのだろうし,いろいろと制約がきついのだろう(お巡りさんと仲良くなることが大事,と書かれていたし)と思われて気の毒だった。

とはいえ,たぶんこれが出版された理由は,やっぱり「野宿ガール」の主観的体験談だったからなのだろうから(例えばお母さんと一緒に近所の公園で酒を酌み交わしながら思い出が語られたシーンなどは,なんともいえない味わいがあり,綾瀬はるかと吉行和子,または松岡茉優と吉田羊が語り合うシーンが脳裏に浮かぶほどであった),それはそれで良いのか。


【2018年5月18日,2018年1月5日の鵯記より採録】


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