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書評:広瀬立成『物理学者、ゴミと闘う』(講談社現代新書)

最終更新: June 1, 2007 (FRI) 13:47 メモより転載)

書誌情報

書評

環境問題に関心がある方なら,目を通しておくべきであろう。本書は,タイトルから想像したほどには実際の問題と「闘う」内容は多くなく,むしろ環境問題を考えるときに,質量保存の法則,エネルギー保存の法則,エントロピー増大の法則といった物理学の基本法則に立ち返って考えてみることの重要性を,やさしく噛み砕いて説明する内容を主とする。

たとえば,リサイクルを免罪符として多種多様なペットボトルを量産することが,いかに環境負荷が大きいのか,リユースを主体とし容器回収を発生源企業の責任としたドイツのやり方が,日本の容器包装リサイクル法ではどれほど骨抜きにされてまったく実効のない方法になってしまったのかということがよくわかる。

ただ,いくつか,説明が不正確なところが気になった。p.112の「エントロピーがたまれば病気になる」はどうかと思う。東洋医学的には納得がいく説明ではあるが,化学反応としてみれば,「高温の発熱は,病原菌エンジンの活動が盛んになり,まわりの環境に大量の熱(廃エントロピー)が排出されることによる」は正しくない。また,p.141のGMOの説明もナイーブ過ぎると思う。また,p.194で括弧書きされている「日本では,水銀,カドミウム,亜鉛,鉛などの重金属については排出規制がない」は誤りである。大気汚染防止法施行規則で,ばい煙発生施設において,カドミウムは1立方メートル当たり1.0mg未満,鉛は(施設の種類によって基準が違うので廃棄物焼却炉の場合にどうなのかよくわからないが,たぶん)20mg未満という基準が示されている。昭和46年改正からそうなっているので,なぜこんな間違いをしているのかわからないが,少し調べればわかるのだから,この程度は裏をとって欲しかった。

なお,本書でも触れられているが,徳島県上勝町のゴミ対策はすばらしいと思う。青山貞一さんのルポにゴミ35分別の写真が出ているが,たしかに慣れてしまえば,無理に可燃とプラと不燃の3種類に分けるよりも,かえって出しやすいかもしれない。

【以上,2007年6月1日記】


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