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人口統計・保健統計

2009年5月15日作成,5月18日最終更新

テキスト『シンプル衛生公衆衛生学2009』第2章(pp.17-28)+α

背景となる予備知識

健康水準
ある集団の健康の程度のモノサシ(健康が単純な数直線に表せるようなものではない以上,本当にモノサシになっているのかは良く吟味する必要があるし,単一のものさしでは不十分なことは明らかだが)として,死亡率,平均余命,有病割合などを使うことがある。これらのモノサシを健康指標と呼び,健康指標の目盛りで示される健康の程度を健康水準と呼ぶ。
集団間の比較や公衆衛生活動の成果の評価に使われる
健康指標のいろいろ
罹患率:疫学的には観察人時当たりの新規罹患者数を意味し,単位は(1/時)である(時は年または月)。しかし保健統計上は人口10万に対する1年間の新発生の(届出)患者数を意味する。届出による全数把握ができる疾患について得られる。
有病割合:ある集団を一時点で調べたとき,そのうちどのくらいの割合の人がある疾病をもっているかを示す値である。割合なので次元はない。保健統計上は,ある病気がある集団のある1日にどれほどあるかを人口千対で示したものである。国民生活基礎調査で有訴者率,通院者率,生活影響率に分けて得られる。
受療率:どのような病気の患者が何人,診療所や病院で医療を受けたかを示す値である。患者調査で得られる。
粗死亡率:ある集団の1年間の死亡数をその年の人口で割り,人口千対の数値で表したもの。人口動態統計で得られる。
年齢調整死亡率:高齢者が多い集団では相対的に粗死亡率が高めにでるので,人口の年齢構成が異なる集団間で死亡率を比較するときに,基準となる人口を決め,その年齢構成を重みとした重み付き平均としての(直接法)年齢調整死亡率を求めると役に立つ。日本では1990年以降,1985年日本人口を基準人口として使っている。人口動態統計で得られる。
乳児死亡率:ある地域集団の出生千に対する1年間の1歳未満の死亡数である。死産は分母に含めない。母子保健の水準を示す指標として重要。人口動態統計で得られる。
平均余命:年齢別死亡率のデータを元にして生命表により推定される,x歳の生存者が平均して後何年生きられるかの期待値をx歳平均余命という。平均寿命はゼロ歳平均余命。人口動態統計で得られる。
死因別死亡率:人口10万に対する1年間のある死因で死亡した人の数。日本では1981年以降一貫して悪性新生物死亡率がトップ。人口動態統計で得られる。
世界と日本の人口の歴史
人口は環境・技術・社会によって規定されるので,世界人口の変化を両対数で表すと3段階の階段状に見える(Deeveyの階段と呼ばれる)。それぞれ,狩猟採集時代の階段,農耕牧畜が始まってからの階段,産業革命以降の階段に相当する。詳しくは8年前に作った資料だが「世界人口予測と地球の環境容量」[http://phi.med.gunma-u.ac.jp/oldlec/ecology_p25.html]参照。
日本人口については縄文から弥生になると稲作農耕の開始と渡来人の流入により急増したが,室町,戦国,江戸時代はそれほど増えず,明治維新とともに産業革命・富国強兵によって急増し,戦後すぐも人口爆発が心配されるほど急増し計画出産が推奨されたが,その後は急激に少子化が進み,人口減少が始まっている。日本列島の人口潮流[http://phi.med.gunma-u.ac.jp/humeco/anthro2000/]や,鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』(講談社学術文庫)が参考になる。ただし縄文人口については,最近新たな知見がいろいろ得られているので注意されたい。

概要

国勢調査

2005年国勢調査について

調査項目
(世帯員に関する事項)(1)氏名(2)男女の別(3)出生の年月(4)世帯主との続き柄(5)配偶の関係(6)国籍(7)就業状態(8)就業時間(9)所属の事業所の名称及び事業の種類(10)仕事の種類(11)従業上の地位(12)従業地又は通学地
(世帯に関する事項)(1)世帯の種類(2)世帯員の数(3)住居の種類(4)住宅の床面積(5)住宅の建て方
報告形式
要計表による人口集計,抽出速報集計,第1次基本集計,第2次基本集計,第3次基本集計,抽出詳細集計,従業地・通学地集計,小地域集計
人口ピラミッドなども,国勢調査の結果として発表されるものの一つである。
問題点
未回収率が前回(2000年)の1.7%から4.4%(210万世帯)へ激増
調査員のモラルと個人情報保護,拒否

人口動態統計

最近の人口動態統計

trends of Japanese vital statistics

現在公表されている最新のデータは,確定数が,「平成19年人口動態統計(確定数)の概況」(2008年9月3日発表),年間推計が「平成20年人口動態統計の年間推計」(2009年1月1日発表)である。この他に毎月,「人口動態統計月報(概数)」と「人口動態統計速報」が発表されている。厚生労働省のサイトで公開されている(平成20年人口動態統計の年間推計[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei08/index.html])

大雑把にみると,年間出生数が109万,死亡数が114万,死産数が2万8千,婚姻件数が73万,離婚件数が25万となっている。離婚件数が婚姻件数の3分の1に達している。

長期的なトレンドとしては,出生と婚姻は戦後にピークがあり,そこから出生は低下し続けているが婚姻は少し落ちた後はほぼ横ばいである。しかし死亡と離婚は増加を続けている。

死因別死亡については,悪性新生物が34万を超え,心疾患も18万を超えて,さらに増加を続けている。脳血管疾患は12万6千となり,わずかに減少している。

患者調査

死因別死亡は人口動態統計でわかるとして,医療費や医療ニーズを把握するためには,どれくらいの人がどういう病気になってどれくらい医療を受けているのかという情報が必要である。それを調べるのが患者調査である。

医療施設調査

医療システムの説明で触れたように,医療施設数の現況調査がこれである。

病院報告

区分(単位:人)総数医師歯科医師薬剤師看護師准看護師診療放射線技師,診療エックス線技師臨床検査技師,衛生検査技師管理栄養士,栄養士その他
総数107.211.30.62.538.210.92.32.91.437.0
精神科病院63.03.30.11.117.514.20.20.41.125.2
結核療養所73.24.3- 3.014.018.01.11.12.229.7
一般病院115.612.90.72.842.110.32.73.41.539.3

医師・歯科医師・薬剤師調査

受療行動調査

感染症発生動向調査

循環器疾患基礎調査

国民健康・栄養調査

保健行政・衛生行政のための基礎資料を得るための調査。公衆衛生のためには,医療だけではなく,Ottawa Charterで示されたように,国民が健康の維持増進を図ることができるための環境整備が必要なので,保健・衛生状態の把握も必要である。

糖尿病の状況について
(1) 糖尿病が強く疑われる人は約890万人。糖尿病の可能性が否定できない人は約1,320万人、合わせて約2,210万人と推定された。(p.4)
▼「糖尿病が強く疑われる人」、「糖尿病の可能性を否定できない人」の判定基準▼
  1. 「糖尿病が強く疑われる人」とは、ヘモグロビンA1cの値が6.1%以上、または、質問票で「現在糖尿病の治療を受けている」と答えた人
  2. 「糖尿病の可能性を否定できない人」とは、ヘモグロビンA1cの値が5.6%以上、6.1%未満で、1.以外の人
(参考)平成14年糖尿病実態調査では,糖尿病が強く疑われる人約740万人,糖尿病の可能性が否定できない人との合計約1,620万人
(2) 糖尿病が強く疑われる人の治療状況について、「現在治療を受けている」と回答した者の割合は増加しているが、「ほとんど治療を受けたことがない」と回答した者は依然として約4割にのぼる。(p.6)
(3) 糖尿病の検査後に「異常あり」と言われた者のうち、保健指導等を受けた者は約8割であった。さらに、「生活習慣を改めた」と回答した者は約9割。(p.10)
(4) 糖尿病に関する知識については、「正しい食生活と運動習慣は、糖尿病の予防に効果がある」は約9割、「糖尿病は失明の原因になる」は約8割と高い正答率であった。(p.12)
「糖尿病は腎臓障害の原因となる」の正答率は中程度、「糖尿病の人には、血圧の高い人が多い」、「軽い糖尿病の人でも、心臓病や脳卒中になりやすい」の正答率は低かった。
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状況について
(1) 40〜74歳でみると、男性の2人に1人、女性の5人に1人が、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が強く疑われる者又は予備群と考えられる者。(p.13)
身体活動の状況について
(1) 日常生活における歩数の平均値は、男性で7,321歩、女性で6,267歩となっており、「健康日本21」の目標値である男性9,200歩、女性8,300歩に達していない。(p.16)
(中澤注)しかし,個人衛生の目標値が達成できないのは,個人の責任というよりも,運動しにくい環境条件だったり勤務状況だったりするということを忘れてはならない。
睡眠・休養の状況について
(1) 「睡眠による休養が充分にとれていない」と回答した者は、15歳〜19歳で最も高く、男性で34.2%、女性で40.8%である。また、20歳代〜40歳代でも約3割であった。(p.18)
(2) 眠るために薬やお酒を使うことがある者の割合は約2割で増加しており、「健康日本21」の目標値である13%以下に達していない。(p.19)
(中澤注)これも運動不足と同じことが言える。
(3) ストレスの状況は、「大いにある」、「多少ある」と回答した者は、男女ともに20〜40歳代で7割を超えていた。(p.21)
喫煙の状況について
(1) 現在習慣的に喫煙している者の割合は、男性では減少傾向にあるものの依然として約4割であり、女性は横ばいで約1割であった。特に、男女とも20歳代〜40歳代で高く、男性で約5割、女性で約2割。(p.23,24)
(2) 現在習慣的に喫煙している者のうち、「たばこをやめたい」と回答した者の割合は増加傾向にあった。(p.24)
食生活の状況について
(1) 朝食の欠食率を年次推移でみると、男女ともに高くなる傾向。(p.25)
(2) 野菜摂取量の平均値は290gであり、「健康日本21」の目標値である350gに達していない。また、朝食をとっている者のうち、野菜を350g以上摂取している者は約3割、朝食をとっていない者で野菜を350g以上摂取している者は2割未満に留まる。(p.26,28)
(3) 食塩摂取量の平均値は、男性で12.0g、女性で10.3gとなっており、食塩摂取の目標量である男性10g未満、女性8g未満に達していない。(p.29)

出生動向基本調査

第13回出生動向基本調査の主な結果

  1. 夫妻の結婚について:初婚年齢、出会い年齢、交際期間:出会い年齢が上昇、交際期間も延長し、晩婚化はさらに進行/出会いのきっかけ:職場結婚が減り、友人やきょうだいを通じた出会いが首位に,恋愛結婚と見合い結婚の歴史的転換
  2. 夫婦の出生力:完結出生児数(夫婦の最終的な出生子ども数):夫婦の完結出生児数は 2.09人に減少,出生子ども数は3人が減って、0人、1人の夫婦が増加/出生過程の子ども数(結婚持続期間別にみた出生子ども数):結婚から5年以上経過した夫婦で減少/妻の世代別にみた出生子ども数:妻1960年代生まれの夫婦で、子ども数が減少
  3. 子ども数についての考え方:理想子ども数・予定子ども数:理想子ども数、予定子ども数ともに減少の傾向,現存子ども数が2人以下の場合に、予定子ども数が理想子ども数を下回っている/予定子ども数が理想子ども数を下回る理由:予定子ども数が理想子ども数を下回る理由:「お金がかかりすぎる」が最多,多めの理想子ども数を実現できない理由は経済面、予定子ども数が少ないのは「できないから」
  4. 子育ての状況:妻の就業と出生:就業しながら子育てする妻、結婚5年未満で2割弱、5〜9年では4割,出産後も就業を継続する妻は増えていない,妻の就業経歴による出生子ども数に大きな差はない/支援制度・施設の利用:育休は利用が拡大、ただし企業規模で利用率に差,追加予定子ども数が多い夫婦ほど、短時間勤務制度や保育所、一時預かり等の利用を希望/親の子育て援助と出生:夫妻の親の育児援助はその後の子どもの生み方に影響する
  5. 妊娠・出産に関わる健康:不妊についての心配と治療経験:不妊を心配したことのある夫婦は4組に1組、子どものいない夫婦では半数弱,不妊を心配したことのある夫婦では出生子ども数が少なく、死流産数が多い/妊娠・出産にかかわる妻の健康:4人に1人の妻が妊娠や出産にかかわる健康に問題を抱えている,妻の健康状態に問題がある夫婦では、出生子ども数、予定子ども数が少ない
  6. 結婚・家族に関する妻の意識:既婚女性の意識パターン: 既婚女性の意識:個人の目標を大切にしながら、子どもを中心に考える家族観/既婚女性の意識の変化:結婚についての意識の変化傾向に異なる動き,結婚生活への姿勢でも、変化にゆらぎ,夫婦の役割意識の変化傾向にゆらぎ、母親の役割意識の変化は継続

学校保健統計調査


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