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【第1471回】 問題完成……のはず〜『算数宇宙の冒険 アリスメトリック!』読了(2009年12月1日)
- 7:00起床。往路あさま510号。今日は問題を完成させねばならない。他は疫学勉強会くらいか。
- 今日から12月とは信じがたい。時が経つのが速すぎる。
- 北大の久保さんがお気の毒,というか,似たようなことをやってしまったことがあるので,同情を禁じ得ない。涙なしには読めない。ただ,そういう復旧作業をするときは,とりあえずcgiの実行属性を外しておいてやるのが常道だろうと思うが。
- 昼食を挟んで問題修正作業が続く。途中,人口学会の仕事が入ってきたのに対応したりする。忙しい。
- 14:30頃,一応完了。印刷してもらった。しかしまだまだいろいろ付随する作業があって終わらない。来週の講義準備とセミナー準備と口演準備も始めないと間に合わない気がするのだが。
- 付随する作業を進めつつ,20:10までかかって,昨日の講義の後始末(解答例作りと課題レポート整理)と来週の講義準備が終わった。
- 自転車で新前橋に出て,復路あさま549号。川端裕人『算数宇宙の冒険 アリスメトリック!』実業之日本社,ISBN 978-4-408-53563-0(Amazon | bk1 | e-hon)を読了。(Amazonの書評で指摘されているように,他にもさまざまな作品へのオマージュがあると思うのだが,)読後感が一番近いのは,もう30年くらい前に読んだ,小松左京の傑作ジュブナイルSF,『青い宇宙の冒険』かな。鈴木光司『エッジ』と違って,数や物理は揺らぐけれども数学は揺らがないところがファンタジーではなくSFらしい。それどころか,数学(とその物理的表出の一つである音楽……もちろん表出してしまっているので外部的には揺らぐのだが)を使って宇宙の調和の乱れと戦ってしまうところが,この小説が数学小説といえる所以か。つまりたぶん,『エピデミック』がフィールド疫学を使って感染症のアウトブレイクと戦うという意味で『疫学小説』であったように,この小説は数学を武器として使うという意味で数学小説なのであって,数学小説というとすぐに思い浮かぶ,結城浩『数学ガール』シリーズと違って,数学をわかることの驚きと喜びを伝えるのが目的ではないと思う。もちろん,部分的には,丁寧な式変形を示してオイラー積の説明をしてくれるところなど,数学自体についてもsense of wonderは見せてくれるのだが,リーマン・ゼータ関数を理解しようと思って一番困るところである,解析接続がわからないのはそのままで,読者は主人公空良くんと一緒にイメージの奔流に飲み込まれて,ある意味放り出されてしまうのであった。以前読んだ,黒川信重・小島寛之『リーマン予想は解決するのか? 絶対数学の戦略』青土社,ISBN 978-4-7917-6487-7(Amazon | bk1 | e-hon)の,小島さんが書かれた「リーマン予想まであと10歩」の「あと6歩」のところ(だったか?)でも,解析接続の説明はわかったようなわからないような感じで終わってしまっていた。小島さんの説明で,群盲象を撫でるような状態でしか複素平面でのゼータ関数はわからないということの比喩はわかったが,それに続く,複素平面にはζ(s)に対応する唯一のF(s)があって,ζ(-1)=1+2+3+4+...=-1/12みたいな直観に反する式はF(s)を使って出てくるという説明(誤解しているかも?)は,どうしてもわかったようなわからないような感じで終わってしまっていたので,そこが直観的にわかるようなイメージを見せてくれたら最高のsense of wonderだったのだが,そういう比喩表現はなかったように思う。きっと,ぼくが読めていないだけではなくて,川端もそこはよくわかっていないんじゃないかと思うが,まあ相手がリーマン予想であるからして,仕方ないところか。数学小説としてはTeXを開発されたDonald E. Knuth大先生の『至福の超現実数』という不思議な作品もあったが,あれは冒頭から非日常に飛ばされてしまって,ほとんど純粋論理だけで話が進んでいくので,実験的な小説という色合いが強すぎたのに対して,本書は天下一鮨の読んでいるだけで涎が出そうな江戸前鮨や小学校の日常から,神社や算数小部屋へと半日常を経て,複素平面が具象化した非日常への飛び方がスムーズだったので,ちゃんと小説として楽しめる。そういう意味では,舞台が『銀河のワールドカップ』で出てきた桃山小だったり(で,ちゃんと『銀河のワールドカップ』らしい出来事への言及があった。ただ,数学の天才三つ子は桃山小ではなかったように思うが,桃山小にも数学の天才がいたんだっけ?),『桜川ピクニック』で出てきた桜川のそばだったり(『川の名前』の舞台は野川の支流だったと思うが桜川ではなかったっけ?)という,海堂尊がすべての小説の舞台を同じ場所にしているように,ここでは不思議なことが時々起こる,という舞台をつなげてくれた読者サービスは心憎い演出であった。
- 気になったところいくつか。(1)p.227で『「23区の田舎」であるこのあたり』と書かれていたが,そこまで地域限定しなくても良かったのではないか。(2)p.259の式は右辺で平方根をとっているので,無理数が素数の掛け算で表わされているといってはいけないように思う。むしろ,小島さんが書いているように,円周率が素数とつながっているという式で,無理数一般というよりも,超越数である円周率が左辺にあるところが肝なのではなかろうか。(3)p.353「だから興味がないわけではないで。」は「だから興味がないわけではない。」の誤植であろう。(4)柏野さんの解説中,図2の説明で「赤線がπで、黒い線が右辺の数値計算の結果」というのは,モノクロ印刷なので,どちらがどちらかわからない。いや,もちろん,π(x)関数はx以下の素数の個数なので,サポートページを見るまでもなく,折れ線の方がπで,滑らかな曲線の方が数値計算の結果だとわかるけれども。
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