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個別メモ
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【第1618回】 SPARC Japanセミナー(2010年6月23日)
- 5:30起床。雨なので長野電鉄で長野駅に出て,あさま504号で東京に向かった。北関東医学会の校正委員として,SPARC Japanセミナー「学会の仕事とその経営を知る」を受けてくるように命じられたためである。日本オセアニア学会でも情報化担当理事として電子出版関連のことは知っておかねばならないし,日本人口学会でも今後経費削減のため電子ジャーナル化検討という話は理事会で何度もでていることから,広報委員長として話を聞いておくことは役に立つだろうと思われ,図らずも一石三鳥が見込まれるわけだ。
- 東京駅に着いたのが8:30頃で,久々だったので迷いながらも地下道を歩いて都営三田線大手町駅に行き,1駅だけ乗って神保町で降りた。国立情報学研究所は南に2つ行ったブロックにあった。入口で身分証明書と行き先を警備員に提示するように求められ,セキュリティが固いのが意外であった。セミナー開始の10時までは50分ほど時間があったので,3階でいったんエレベータを降りて自販機でコーヒーを買い,ロビーで休んでいたが,開始20分前くらいになって会場の12階に上がった。非常階段とかもあるのだろうが,とてもわかりにくい建て物のつくりになっていて,6基あるエレベータのどれかを使わないと昇降できない感じだ。せめて群馬県庁くらいには階段が使いやすい建物の方がいい。
- 受付で受講票(といっても,メールのプリントアウトだが)を渡し,資料を貰って会場に入ったのは9:40頃だった。定員80名が満員になったので受講申し込みを締め切ったそうだから盛況というべきだろう。まだ会場の3分の1くらいしか埋まっていなかったが,前の方しか机はないので,これくらいに会場入りして正解だったと思う。大抵の人はいろいろな学会から派遣されてきたり図書館関係の人なのだろうが,お互いに知り合いな人が多いようであった。ビデオカメラが入っていて,録音・撮影するということであった。動画サイトか何かで公開するのだろうか? それとも有料配信でもするのだろうか?
- 以下,講演を聞きながらのメモをベタ打ちする。内容は聞き取ったことを適当にまとめながら打つので保証しないけれども,出張報告のネタ元としても必要だし,メモを取った方がよく聴けるのでそうする。
- セミナー開始は10:03であった(雨のために遅れている人に配慮したとのこと)。開会の挨拶は根岸正光氏。NiiのSPARC運営委員会の委員長とのこと。この3月でNiiを定年退職したけれどもSPARC運営は続けることになった,とのこと。平成15年に始まった。昨年は今後どうすべきかを検討した。今年度から3年間を第3期。「日本型のビジネスモデルに裏打ちされたオープンアクセス」を標語とした。ただのオープンアクセスではないところが肝。研究者,学会,図書館の相互の意見交換が大事(案外お互いに知らないことがわかったので)。年間計画は関係者が知恵を絞って考えたもの。昨年末のクローズドな「本音を語る会」の成果の一環。今日の演者は,橋本さんは初めて,他の3人はこれまでもSPARC Japanで講演してきた方々。8月は図書館側からの発信。
- 最初の演者は日本動物学会の永井裕子氏。演題は「今後の学会経営−出版経費の削減は可能か」という予稿だったが,当日演題は「ジャーナル出版費を考える」。日本の学術出版の特殊事情(主に図書館関係者向けに)。今日は学会の業務のうち,学会誌,学術論文誌など研究成果の発表の場を提供する機能にfocusする。日本の学術出版を規定している2つは科学研究費補助金とJstage。日本の学会の一部は科学研究費補助金を受けてきた。Jstageは恩恵であると同時に特殊事情でもあった。科学研究費補助金は昨年までは紙媒体の出版にしか使えなかった。「21世紀初頭におけるジャーナル出版ワークフロー」では,2007年時点で,既に,Production work flowに入ってすぐにXML Productionに入るようになっている(日本ではこれができている学会は商業出版社へ委託しているところだけ)。日本の電子ジャーナル製作過程では,XMLは別。学会は科研費を必要としており,電子ジャーナル作成へ進めなかったし,印刷会社はデジタル化へ進めなかった。平成21年度から電子ジャーナル製作費も科研費申請可能になった。しかし,「何部会員に配布し,何部購読され,1部の販売単価はいくら」と書かなくてはいけないので大変な苦労をした。紙媒体と同じ申請様式では無理。電子ジャーナル用の申請用紙を作成してほしいと,これはJSPSへの希望。Jstageは600ジャーナルを超える日本最大の国営プラットフォーム。しかしスペックはXMLではなくbibというフォーマットで,タイトルとオーサーとキーワードだけ。全文タグが付いたものではない(本文はpdf)。発足当時は仕方なかったことかもしれないが,今でもそのまま。印刷会社はXMLを作成したくても作成できない。市場はXMLを必要としていない。日本における「電子化」の定義はどうか? International standardはXMLなのに,日本はpdfだけでいいのか? 動物学会の科研費補助金は2003年に1900万と書くところ間違えて190万で転記ミスで申請してしまったため落ち込んだことと,2006年から申請額を減らしてきた。冊子製作数も減らしてきた。電子ジャーナル化を利用して経費を下げられる。冊子印刷数が減ると送付料も削減できる(これはヤマト運輸のメール便のおかげでもある)。製作費を減らすことで電子投稿システム維持費を捻出できている。商業出版社の出版委託費は非常に高い。騒げば下がるが日本はそういうことが自由にできない。BioOneの返還額は2009年で360万くらい。ジャーナルを今後どのようにしたいかを検討。競合するジャーナルがどうやっているか? そのために必要なもの,費用を踏まえ,出版経費をあらためて検討。5年後を考える必要。デジタルコンテンツを作成する意味を再考すべき。
- 2番目の演者は日本疫学会の橋本勝美氏。演題は「学会誌編集業務の実際」。日本疫学会の学会誌はインパクトファクターが付いているので,どうやってそこまで持って行ったかが聞ければと思う。橋本さんは一時期商業出版社にいたこともある。日本疫学会は任意団体で会員1520名。JEは英文のPeer Review Journal。Supplementは依頼があった時に出す。今年は既に2冊出ている。冊子体は減らす方向で。編集室は編集委員長の所属施設に置いている。専任編集担当者が橋本さん。今後続くかどうかは予算の関係もあって未定。編集室業務は投稿論文受付・査読管理,論文acceptから出版までの管理,編集委員会・理事会資料作成,情報収集・情報共有,編集委員会用ホームページ管理等。Workflowのうち,査読flowはオンライン投稿・査読システムなので編集室がやる業務は複雑でない。引継ぎをしてもスムーズに出版するため,オンライン投稿・査読システム導入は必須だった。以前はメール添付の論文管理,神業的なExcelによる管理,著者や査読者とのやりとりはメールだった。オンライン投稿・査読システムは3つの海外のシステムの機能を比較し,日本に代理店があり要求仕様を満たすManuscript Centralを採用した。編集委員会専用ホームページは橋本さんが管理している。Manuscript Centralの使い方についてスクリーンショットを含む説明を橋本さんが作ってアップロードしてある。世界標準のジャーナルに近づけることを目的としている。印刷会社でeXtylesを導入してもらっているので,XMLができる。編集室としては,PubMedのリンクとチェックができる(Reference Check)機能が非常に便利。Reference Check Sheetを校閲原稿と一緒に著者に渡すとPubMed記載の著者名と文献リストの著者名が違っていることなどが一目でわかる。早期公開はもっと早くしたい。世界標準のジャーナルとしては,Uniform Requirementも大事。最近だとconflict of interestについて変更があった。他にはCOPEとかCSEとか。セミナー後2〜3ヶ月経つとオンラインで資料が公開されるので。セミナーに出ることも大事。引き継いだ最初の年は編集委員長と橋本さんはCSEにも出席した。これでもかこれでもかというほど情報を詰め込まれる。編集委員会は委員の編集知識の標準化,情報の共有が大事。結果,投稿数は増加した(海外からの投稿が増えた)。ただし,投稿数が増加したことで質は低下傾向にあったので,今年4月から掲載料を徴収することにした。投稿規程を読まずに投稿してくるものが無くなった。実績は上がってきた。しかし実践までにはいろいろな苦労があった。何を誰に聞けばいいかが最初はよくわからなかった。知り合いを辿りメールなどでも聞きまくってネットワークを広げた。英文校閲は安い会社はダメだったので,1人のNativeの専任校閲者に変更した。費用は倍以上になったが質は向上した。印刷会社は実績ある会社にしてeXtylesを導入して満足いくものになった。今後も更なる努力が必要。【質疑】MCとの契約は? 年間契約で前年実績から本数を少なめにしておき,増えたら追加する。1論文当たり3500円くらい+サポート料+変更その他。MCは長く使うほど安くなる。動物学会では,初期費用は50万,年間120万払っていたが,現在は70万程度。他にEditorial Managerというシステムもあり,代理店もできた。現在だと初期費用で40万円前後。MCはThomsonの傘下にあって,米国に行って直接交渉したら安くなった。今後これらの利用についてクローズドな会を開く予定。【質疑2】同じ医学系の雑誌で英文校閲はやっていたけれども止めた。早く出すという面では学会が英文校閲すると遅くなってしまう。JEではそのままではとても英語として通用しない論文も多いので,不可避。事前の校閲は義務付けているが,内容が良くて,何度直せと言ってもダメな論文があるので,これは止められない。【質疑3】早期公開と本公開の違い。早期公開では巻号ページがつかないが,doiでreferはできる。acceptから本公開まで半年かかるのは長いと思うがネックは何か? 悪循環だが,1人でやっているので1号ずつの編集にしていることが最大の原因。五月雨式にできれば早くできそう。
- 5分の休憩後,SPARC Japanが日本唯一の学会間の横のつながりを作る場の提供になっていて有意義であるという永井さんの話に続いて,3番目の演者は電子情報通信学会の水橋 慶氏。演題は「電子情報通信学会のオンラインジャーナルの取り組みについて」。電子情報通信学会は会員33000名。学会誌に加え,4ソサイエティそれぞれが英文誌,和文誌の両方を出している。その他に2004年から完全ペーパーレスジャーナルELEXを出している(月2回)。その他に71の研究専門委員会が技術研究報告という論文の種になるようなものを出していて,それは約9500件/年。ELEX立ち上げ時はSPARCからいろいろ支援を受けた。2010年10月創刊の新しい季刊誌はペーパーレスの予定。論文事業の財政状況は,投稿数が増える一方で部数が伸びず,著者負担の原則はあったが掲載料を高くするわけにもいかなかった。図書館などへの購読料は低く抑える方針だったので,掲載論文数が増えるほど財政を圧迫していた。そこで会員への主たる配布形態を冊子体からオンライン版へ移行することにした。1999年頃からオンライン版も作って自前のサイトで無料公開していた(和文は冊子体発行6ヶ月後から,英文は冊子体発行2週間後から)。2004年からオンラインをメインにすることを検討し始め,2006年4月から個人会員はオンライン版配布にし,同時にオンライン版を有料化し,冊子はオプションとした。法人会員(特殊員)は2006年10月から試行開始し(当初は冊子体の購読価格:学会誌1誌+論文誌2誌以上,学会誌は2万円/年,和文論文誌は6000円/年,英文論文誌は1万円/年),IPアドレス認証で機関認証のサイトライセンスであったが,冊子体も配布していた。2009年4月から特殊員も本実施し,SPARC JAPANからのアドバイスを受け,図書館コンソーシアム(JANUL/PULC)との協議を経て,機関のランク分けと料金体系を決定して,単純比例ではない従量制とした(ソサイエティ単位の登録)。冊子体はオプション価格。投稿数は英文4誌合計で2700件/年(2009年)まで増えてきた。オンライン版(IEICE Transactions Online)の特徴としては,同時アクセス制限なし,Walk in userやVPNの利用可。機関毎に利用統計情報を提供。購読契約した時点で創刊号からの既発行論文の閲覧は可能。解約後のアクセスは保証しない。料金体系は3年ごとに見直し,契約は1年ごと。公開サイトは自前サイトとJstageの両方。【永井さんからのコメント】図書館と学会は話をもっとすべき。【大阪大のマエダさんから質疑】投稿論文数が増えるほど財政が悪化するのは変わらないとすれば,その先の改善戦略は? オンライン化することによってコストダウンしたので大丈夫。【永井さんから】日本の学会誌は図書館に雑誌を売る価格がこれまでずっと安かった。売るほど赤字だった。今回のオンラインジャーナル化でそれが改善できたのは大きいはず。海外のブランチは何をしている? 海外の会員を増やすことが主目的。活動費は払っているが謝礼は払っていない。
- 最後の演者は日本化学会の林 和弘氏。演題は「日本化学会の論文誌事業の現況とXMLの活用」。プラットフォームは一貫してJstageだったけれどもお仕着せのbibではなかった。今日のプレゼンをepubでやろうとして文字化けなどではまってしまい,Sigilというシステムでやることにした。epubreaderというFirefoxのpluginを使うと比較的きれいに見える。林さんは元々chemistで,電子出版に関心をもって化学会に就職した。日本化学会の論文誌の現在として,自力開発運用と海外出版社提携の2つの話をする。自力の方は,BCSJ(IF=1.677)とChemLett(IF=1.478)という2つの雑誌がある。CrossRefや電子投稿査読は2003年にJstageと自力開発の組み合わせでほとんど費用をかけずに実現した。日本でも国際的に遜色ない電子ジャーナルサービス。EmailアラートとかRSS2.0も対応。海外出版社提携はWiley InterscienceのThe Chemical Recordといういくつかの学会が合同で出しているレビュー誌(IF=3.477)と,アジアのいくつかの学会合同で出しているChemistry - an Asian Journalを2006年から出している(これもWiley)。アジアでの日本の指導力確保のため,Chairmanは野依先生(権威として)。世界のトップジャーナルの編集長(Peter Goeliz?)を担ぎ込んだ。First Impact Factorは4.197。既にトップジャーナルになった。自力と海外提携のどちらがいいか? 岐路に立っている。何が一番大事か? その時の科学コミュニティの価値観で論文を判断し,取捨選択して世に広めること。http://scholarlykitchen.sspnet.org/のブログも参照。名を取るか実を取るか? 出版者に委託することで学会財政が潤うならばそれは学会にとってメリットでは? 出版社とのtough negotiationが必要であり,理事としては大変な業務を抱え込むことになる。自前と委託の両スタイルをキープできるならそれも悪くない。一度手から離れたら元に戻すには難しいだろう。相手の手の内がわかれば委託の際も有利な交渉ができる。いずれにせよ,両スタイルとも楽観は許さない状況。学会として決めるのは会員であり,会員が必要とする雑誌を作り続けることが大事。ここから話は後半へ。XMLベースの出版フローの確立と課題。SGMLは自由度が高すぎ,1999年に有料購読公開したが早すぎて購読者がつかなかった。2001年に見直し。2002年からTeXベースの電子出版開始。その後いろいろあって,Kindleでも見えるようにしたが,iPadの方が遥かにきれいなのでKindle版はお蔵入り。理想はワンソースマルチユース。SGMLとかXMLとかTeXでワンソースでもち,それを変換してpdfとかhtmlとか他機関用ファイルを作れればいい。しかしpdfで校正が入り,著者との間で赤が入ったりするのがネック。XML-APシステム(2009年から)を導入しておくと,ソース校正するとすべて直る。XMLを1つのソフトで変換するとepubが完成する。一晩でできてしまう。英文誌=和文誌問題は,技術的な問題ではなく社会的な問題。epubをどう作るかという問題ではない。i-booksで世界はかわるが,学術情報もすべてそうすべきかどうかは議論のあるところ。モバイル対応としては,ジャーナルタイトルから離脱して,個々の研究者に個々の論文を届けることが焦点になる。図書館経由でいくと,ジャーナルタイトルが大事になってくるが,ELSEVIERの場合は,すべての論文のタイトルの上に,出版社名と雑誌名が必ず入っている。日本ではそこまでやっている雑誌はなさそうだが大事。ガートナーが出しているハイプサイクル(黎明期→流行期→反動期→回復期→安定期)から考えると,現在,ePubは流行期末のフラクタルの中と思われる。会員情報サービスとしてどう捉えるか? 人も物もカネも欧米に比べて日本の学会は貧弱。学会は研究者がいる限りなくならない。運用の担い手は変わるかもしれない。大手商業出版社の学会機能化の可能性がある。例えばElsevierはScopusももっている。そこがモバイルで個人をターゲットに論文を届け始めたら,これまでの学会機能に代わりうるかも。【質疑】ワンソースマルチユースで著者校正からpdfにもどってきたとき,pdfからXMLを直接書き換えるソフトについて教えてほしい。Arbotext Publisherといって,XMLにかなり似たマークアップ言語を右画面で直すと左にプレビューが見えるもの。1990年代は3000万円くらいでこういうソフトがあったが,だんだん値下がりして,InDesignのプラグインなどで対応されるかも。【永井さんのコメント】時間が足りず議論が足りなかったのが残念だけれども,8月の図書館からの報告では機関レポジトリの話も含めて議論をしたい。7月の講演も通訳が入るので是非ご来場ください,とのこと。
- 12:10に終了したので,これから大学に向かう。来た時の逆で,神保町→大手町→東京駅→高崎,という経路にするつもりなので,大手町から東京駅まで歩く途中で弁当を買って新幹線で昼飯にしようと思う。
- 丸ビル地下辺りの成城石井でヒレかつ弁当(と,レジのそばに山積みされていた「鹿角らーゆ」。何となくパッケージングに高級感が漂っているような気はするが高崎駅の売店で以前買った「群馬下仁田ねぎラー油」より小さい瓶なのに高かった)を買い,12:47発のMaxたにがわ号で高崎へ向かいながら食べたが,実に美味だった。雨は上がっていたが高崎で上越線よりも両毛線が先に来たので前橋まで行き,バスで大学に着いたら15:00ちょうどだった。高崎から先が遠いなあ,といつも思う。
- 来週のR勉強会の資料作り(とりあえずsubset作りはEPIINFOを使うやり方で説明することにした)とか講義準備とかをしていたら,あっという間に20:00近くなったので帰ろうと思う。この時間にバスで前橋に出ると,両毛線は20:15の次が20:47なので,前橋でも高崎でもやたらに待ち時間が長くなって効率が悪い。復路あさま549号。
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