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個別メモ
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【第1869回】 さらに講義準備続き(2011年5月13日)
- 昨日と逆に長野市は曇りで,上田から晴れ間が見え始め,佐久平は快晴に近かった。眠い。
- 前橋も快晴で長袖トレーナーにコートでは暑くて仕方が無い。失敗した。今日は講義準備(見学実習説明資料を含む)を終わらせなくては。
- 昼飯を食べながら,水生大海『少女たちの羅針盤(新装版)』原書房,ISBN 978-4-562-04693-5(Amazon | bk1 | e-hon)を読了。明日から公開が始まる映画の原作で,島田荘司選第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作受賞作品。羅針盤とは女子高生4人による伝説的な劇団の名前で,うち1人が死亡したために活動停止したという過去を持つ。この物語は,羅針盤消滅4年後に,当時とは顔も体型も変え,マリアという芸名でプロの女優として活動している女性が,ホラードラマに出演するつもりで撮影現場に行ったところ,件の羅針盤の1人の死亡がマリア自身による殺人であることを指摘されるという形で幕を開ける。もちろんマリアは否定するのだが,4年前の羅針盤の活動と現在が交互に語られるなかで,徐々に追い詰められていく。マリアは誰なのか? 誰を殺したのか? わからないまま物語は進むが,羅針盤の活動の描かれ方が素晴らしく魅力的で,このまま何も起こらなければいいと思うほどであった。しかしやはり悲劇は起こってしまう。その死は当時は自殺として処理されたが,殺人だったことを見抜いてマリアに脅しをかけた何者かがいるということになる。それは誰なのかと思っていると,誰もいない撮影現場に,マリアが夜中に呼び出される。そこからラストまでは,つるつると伏線が拾われ,見事に物語が円環を閉じる。うまくできた佳作と思う。新装版にするに当たって収載された「ムーンウォーク」という日常の謎系の短編も,羅針盤のうち2人が中学時代に出会った場面を描いているのだが,実に瑞々しい雰囲気のいい作品だった。映画をDVDにするときには,是非映像特典として「ムーンウォーク」も映像化してつけてほしいところだ。
- 月曜の講義準備が終わって,配布資料の印刷まで済ませてから帰途に就いた。
- 復路あさま551号で,豊崎由美(崎の旁の上は大でなく立だが,このメモはEUC-JPなので正しい字が出せない)『ニッポンの書評』光文社文庫,ISBN 978-4-334-03619-5(Amazon | bk1 | e-hon)を読了。メタな書評論で,いろいろ考える材料になったし,具体的にとりあげられた書評例をみて『聖家族』を読んでみたくなったりしたので,書評集としての意味もある著作であった。本書は,書評(book review)を,読んだ上での議論の材料とする批評とは異なり,その本をまだ読んでいない人に対して読む気を起こさせるように後押しするものと位置づける。第6講辺りに色濃く出ているこれを書評の定義だとすると,日本人口学会の学会誌『人口学研究』の書評は,批評に当たるものが大半だと思う(新刊短評は,どちらかといえば,著者のいう書評に当たる)。学術雑誌の書評は多かれ少なかれそんな感じではなかろうか。実は,ぼくが本書を手にとったのは,三中さんの書評で知ったからだが(批判的なものも含む多くの書評をwebで公開しているし),三中さんが後半「困ったなあ」と言われるタイプの書評は,本書の中で否定されているわけではなく,書評ではなくて批評だとされているだけなのだろうと思われた。もっとも,本書は学術書ではないので,第10講でプロの書評と感想文の違いを語る文脈のなかでは,バルザックの『幻滅』を引用して,〈ツルハシの一撃〉を加えたければプロの書評家になればいいと煽ったりするわけで,そこまで厳密な使い分けをしているわけでもなければ,論理展開にも厳密性はない。たぶん,出版ビジネスにおける書評の旧態依然とした寒い状況までを視野に入れて,もっと書評を含めて出版業界を活性化したいという願いが根底にあるため,少なくとも匿名の書評ブログは,的外れな批判をするなということを強調し,読者にいい本を紹介するタイプの書評を推奨しているのだと思われた。なお,三中さんの引用されたところは,好戦的な書評を否定しているのではなく,先に評者が持っている結論を補強するための材料として本の内容の一部を恣意的に引用するタイプの書評を否定しているのだと,ぼくは思った(例えば,『不平等社会日本』について日本海新聞が2000年7月に掲載した「特報」記事(既に日本海新聞のwebサイトにはないが)のようなものはダメだということ)。いずれにせよ,ブログや何かで書評めいたものを書く人は,一度目を通しておいて損は無いだろう。
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