Top
個別メモ
Latest update on 2012年3月5日 (月) at 10:54:46.
【第1899回】 『エースの系譜』(2011年6月15日)
- 往路新幹線で昨日から感想を書いている『エースの系譜』を読了。あとがきを読んだら疑問が氷解したが,確信犯なのだった。つまり,高校野球の弱小チームを強くするプロセスを,Numberのドキュメント記事風に描きたかったのだそうだ。そういう意味では,作者の狙いは十分に達成されている。配球へのこだわりとか,監督の采配が勝負を大きく左右することとか,土壇場での集中力の描写とか,一打で頭が真っ白になる様子とか,野球オタクらしさも十分に発揮された作品といえる。たぶん,この作者の天分は構成力やマネージメントにあるのだろうし,タイトルから考えても,これはこの形でしか存在しえない作品なのだろう。
- 群馬はあまり天気が良くないので,帰りを考えて(というか自転車を漕ぐ気力が湧かず)新前橋からバスで大学へ。
- 論文チュートリアルの関係でChernobyl事故の影響に関する論文をざっと検索してみた。これくらいデータがあるならメタアナリシスできそう,というか,やったものもあるだろう。アウトカムを絞って,これまでされていない(あるいは新しいデータを含めた)メタアナリシスをすれば,論文チュートリアルとしては充分であろう。そこまで行かなくても大丈夫かもしれないが。
- 柏野さんが交絡の可能性を指摘している問題は,健康労働者効果を「苦し紛れ」と決めつけている元記事がおかしい。選択バイアスの中でもっとも有名なものの一つである健康労働者効果の典型的な例だと思う。このブログ記事は当時存在しなかったし,そこで取り上げられている報告書のことも知らなかったが,先日の疫学の授業(資料)のスライド17で例として考えたばかりだった。元記事は,冒頭でメディアがパニックを煽る方法について指摘している点は悪くないが,「p=0.002なんて有意差は圧倒的な差がないと普通は出てきません」という記述は,有意確率についてのありがちな勘違いに基づいていて痛い。他の部分を読む気を失ったほど痛い。p値がきわめて小さいのは,Nが何千もあれば,わずかな差であっても,「差が無い確率が極めて低い」と言えるだけのことだ。『ロスマンの疫学』を読んでいれば常識だが,差の大きさをみたければ,p値ではなく,差の信頼区間を参照しなくてはいけない。SMRの期待値が0.95(その95%信頼区間が0.91-0.98)という値は,原発労働者群のCOPDなどによる死亡率が一般集団より5%低い可能性があることを意味しているので,元々原発で作業できるくらい健康な人だからCOPDなどに罹りにくかったという健康労働者効果だけでも十分な説明になるだろう。もちろん,柏野さんが指摘されるように,原発労働者は健康管理をきちんとするから健康問題の早期発見ができて死亡率が下がるという,健診受診状況による交絡もあるかもしれないが。
▼前【1898】(会議と査読(2011年6月14日)
) ▲次【1900】(講義準備と査読と准講会作業と教室セミナー(2011年6月16日)
) ●Top
△Read/Write COMMENTS
Notice to cite or link here | [TOP PAGE]