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【第1928回】 前橋疫学セミナー(2011年7月15日)
- 今日も暑い。往路新幹線で,篠田節子『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』文藝春秋,ISBN 978-4-16-380610-5(Amazon | bk1 | e-hon)を読了。4本の中編からなる。作品間に直接的なつながりはないが,どれも明らかに空想科学小説という意味で正しくSFであった。帯の惹句『科学技術に翻弄される人間たち。これは現代の黙示録だ――。レアメタル入りのウナギ、甦った縄文時代の寄生虫、高性能サル型ロボット、極北の地を掘り抜く世界最長トンネル……』が,うまくこの作品集を要約している。最初のウナギの描写は,ソロモン諸島ガトカエ島にあるビチェという村で見たオオウナギの群れを思い出したが,この作品はウナギそのものよりも,パラジウムを高濃度に含むウナギという不思議な「自然」に接した時の人間社会の対応の描写が面白く,長編向きだったかもと思われた。第2話は,言ってみれば,昨日書評を書いた山本太郎『感染症と文明――共生への道』と通底するテーマであった。考古学業界の内情的な話(どこまで現実とオーバーラップしているのか知らないが,たぶん法や制度からくる規制と,その不条理さに憤る住民という構図は現実に基づいているのであろう)も面白かった。第3話は表題作でもあるが,AI(Autopsy imagingのAiではなく,artificial intelligenceの方)がテーマで,「はぐれ猿」が伴侶を見つけたと思われる結末は後味が良かった。やっぱ,愛でしょ,愛。最終話「エデン」は,悩み苦しみ,逃げまどい,それでも最後はきちんと問題に対峙する主人公ヒロユキに,篠田節子がこれまで何冊もネパール・チベットを舞台として書いてきた諸作品のダメ人間主人公群と通じるものを感じた。たぶん,このダメ人間主人公群は,普通の市井の人々を代表するキャラなんだと思うが,最後は逃げないという選択をすることで,ある意味救われる展開が訪れるのが後味が良い。
- 今日は15:00から保健学科新棟2階の大学院講義室で,保健学科で疫学を教えていらっしゃる林邦彦先生(Japan Nurse Health Studyの中心でもある)の主催による「前橋疫学セミナー」という催しがあるので参加する予定。演題は4つで,鈴木庄亮名誉教授による「花粉症などのない環境、社会は可能か?」,環境研の上田佳代さんによる「大気環境疫学の最近の動向」,国立がんセンターの片野田耕太さんによる「たばこの疫学―科学と政策をつなぐものは何か―」,保健学研究科の長井万恵さんによる「わが国女性における疾患合併(comorbidity)の状況」の順で発表がある。参加希望者は林先生に連絡するようにとのことだったので,昨夜メールを打っておいた。
- 1999年に東海村臨界事故が起こった時に青空MLに投稿したメールや,当時の日記を読むと,あれから10年以上経つのに原子力行政が何一つ改善されていなかったのだなあと思う。しかし鎌田實さんが何度も書かれているように,本気で改善のために運動してきたわけでもない自分を含む国民一人一人にも責任の一端はあると思う。とはいえ,自分に何ができたであろう。
- 前橋疫学セミナーは興味深い話ばかりだったけれど,時間が延長されたので,一部学生に公衆衛生学講義関係の連絡をする都合で,中座して戻って来ざるを得なかった。残念。衛生仮説は,最近ではヘリコバクター・ピロリ菌の関与とか,エンドトキシンの関与といったところまで検証されつつあるらしいが,今日の話はそれよりもむしろマクロな視点で,庶民はハイソな人々よりもアレルギーになりにくいという,ざっくりとした把握も,それはそれで面白い。
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