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生態学第24回
「合成化学物質の生態影響〜生態毒性学・生態リスク論」(2001年12月6日)
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最終更新:
2002年5月1日 水曜日 09時16分
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講義概要
- 参考資料
- ▼伊藤嘉昭「生態学と社会」東海大学出版会,1994, pp.118-122(生物的濃縮について)
- ▼シーア・コルボーンら(1997)「奪われし未来」(翔泳社)
- ▼シーア・コルボーン,養老孟司,高杉 暹,田辺信介,井口泰泉,堀口敏宏,森 千里,香山不二雄,椎葉茂樹,戸高恵美子(1998)「よくわかる環境ホルモン学」(環境新聞社)【注:戸高さんの高は本当は異体字】
- ▼高杉 暹,井口泰泉(編)(1998)「環境ホルモン」(丸善ライブラリー)
- 化学物質の有害性,生態毒性,評価手法
- ▼化学物質の有害性の分類基準
- ▼影響が出るまでの時間(急性毒性,亜急性毒性,慢性毒性,経世代毒性)
- ▼現れる症状(発ガン性,催奇性,感作性,生殖毒性,免疫毒性等)
- ▼しきい値の有無(確率的影響,非確率的影響)
- ▼取り込み経路(経口毒性,吸入毒性,経皮毒性)
- ▼作用機構(内分泌撹乱性,変異原性,細胞膜障害性等)
- ▼影響の出る臓器など(腎毒性,肝毒性,心臓毒性,神経毒性など)
- ▼影響を受ける生物(ヒト毒性,魚毒性,鳥類毒性,藻類毒性など)
- 化学物質の生態毒性
- ▼生物的濃縮が起こって,食物連鎖の上位の生物に大きく影響する物質が多い
- ▼残留性が問題。現在は作っていないDDTやPCBが環境中に残って毒性を発揮する
- 毒性の評価手法
- ▼アセスメントにおいて,個体群レベルで毒性があったと判定する基準は,(1)多くの個体が死ぬ,(2)再生産力が顕著に落ちる,(3)豊富さが顕著に落ちる,(4)分布域が顕著に狭くなる,(5)個体群が絶滅する,(6)遺伝的多様性が低下する,(7)個体群の質が低下する(奇形の発生などを含む)
- ▼ヒトに対する毒性の評価基準としては,損失余命が用いられることが多い。種特異的ではあるが,ある意味で毒性の総合評価になっている。
- 生物的濃縮(biological concentration)
- ▼(例)PCBの生物濃縮
- PCBは脂溶性なので,脂肪組織に蓄積する
- 生物の移動や大気大循環,海流などによって拡散する。北極海のPCBはおそらく五大湖あたりが起源?
- アザラシでは環境中レベルの5億倍に達し,ホッキョクグマではそれ以上というデータもある
- ダイオキシンも脂溶性だが,PCBほどは濃縮されない
- ホルモン活性をもつ化学物質
- ▼参考:http://homepage2.nifty.com/takhorio/text7/text7.html
- いわゆる環境ホルモンと野生動物の関係
- ▼参考:かながわの環境
- 精子数減少?
- ▼動物実験では,カドミウムやフタル酸への曝露によって精子形成不全が起こる。
- ▼複数の文献データのメタアナリシスの結果は灰色(「科学」1999年1月号読者からの手紙欄に掲載された文を参照)
- ▼最近の日本のデータで減っていないものがある
- ▼減っている集団が存在するが,リスク因子の特定はまだ
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- 現在主流となっているDDTやPCBに取って代わるものは?
- PCBは全面的に生産禁止されていますし,DDTも途上国でのマラリア対策など限られた用途以外には生産や流通が禁止されているので,長い間には減っていくと思われます。今後,意図的に生産される物質への毒性チェックは厳しくなると思われるので,ダイオキシンのような非意図的生成物で毒性が強いものが問題の中心になってくると思われます。
- DDTやPCBの残留性は,何年先くらいまで影響が残るのですか?
- 土壌中では,いくつかの微生物によって緩やかに分解されることが最近分かってきました。それでも,半分に減るのにDDTで4年〜10年(参考:http://homepage1.nifty.com/remediation/pops/POPs.htm)かかるそうです。半減期が100年(http://www.jca.ax.apc.org/tokyojic/jic-iguci.html)という報告もあるようです(微生物が乏しい土壌での値かもしれません)。
- カドミウム混じりのコードみたいなものを赤ちゃんなど人間がかじったりすると,何か異変が起きる可能性はありますか?
- カドミウムの毒性は,骨の中でカルシウムと置換することで発揮される慢性毒性(カドミウムを含む食物を摂取しつづけるとか,カドミウムを含む水を飲みつづけるとか,溶接工場でカドミウムヒュームを吸いつづけるとか)が主なので,赤ちゃんが1回かじったくらいではそれほど大きな異常は起きないと思います。取り込んでも肝臓でメタロチオネインというタンパク質によってある程度解毒されます。
- 公害病の原因物質であるメチル水銀やカドミウムも生物濃縮で魚などに溜まっていたはずですが,これらの物質は魚に影響を及ぼさなかったのですか?
- カドミウムは海水に比べて魚類での濃度が7500倍(海水に対する魚類での濃縮係数が7500)と報告されています(不破敬一郎「生体と重金属」講談社)。サケ科の魚への毒性が強く,脊椎の奇形が起こるという報告があります(http://www.nihs.go.jp/DCBI/PUBLIST/ehchsg/ehctran/tran1/cadmi-en.html)。ただし,ヒトのカドミウム摂取源として問題になったのは魚よりも米です。水銀については,水俣での魚の死亡以外には,局所的な高濃度曝露の報告はありませんが,急性毒性があることは明らかです。
- 化学物質の有害性は,動物の種類によっても違うのか?
- もちろん違います。ですから,一般に,動物実験の結果をそのままヒトに当てはめて考えることは正しくありません。
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