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肥満 (obesity)

Last updated on August 22, 2007 (WED) 12:30 (ヘッダとリンク先の更新のみ).


1. 肥満とは何か?

現象としては,身長のわりに体重が重すぎること,あるいは,体脂肪割合が高すぎることのどちらかをさす場合が多い。健康上のリスクとの関連で,より正確に考えると,「エネルギーバランスが正に崩れた結果として,主として脂肪として余剰エネルギーが体内に蓄積すること」をいう。次に述べるように,いくつかのやり方で定義することができる。

身長と体重から定義する方法としては,100年以上前から使われているBMI(body mass index,ケトレー指数,カウプ指数ともいう)がもっともよく使われる。BMIは,体重をkg単位であらわした値を,身長をm単位であらわした値の2乗で割ったものである。よく引用されるGarrowの基準によれば,25未満は病的肥満ではなく,25から29.9がGrade I,30から40がGrade II,40を超えるとGrade IIIの肥満となる(たとえば,身長170 cmの人の場合,Grade IIIの肥満になるのは,体重が116 kg以上ということである)。なお,肥満の基準は近年上方修正される傾向にある。この一因には,断面研究でなされたリスク評価において長期的趨勢としての栄養状態の向上の結果,若年層の方が体格が良くなっていることが,高齢まで生存する人がやせ気味であるという歪んだ解釈を生んでいたことが,コホート研究の結果によって是正されたということもある。1998年に米国立健康研究所(NIH)から発表された基準(PDFファイルもここから入手できる)では,BMIで18.5未満が低体重,18.5から24.9が標準,25.0から29.9が過体重,30.0から34.9がClass Iの肥満,35.0から39.9がClass IIの肥満,40以上がClass IIIの極端な肥満とされた。1997年にWHOが出した基準もほぼ同じだが,過体重が25.5以上,25.0から29.9は「前肥満」とされているようである。日本では1993年に日本肥満学会が提唱した基準では,19.8未満がやせ,19.8以上24.2未満が標準(22を標準体重として上下10%を含む範囲ということである),24.2以上26.4未満が太り気味,26.4以上が太りすぎとされていたが,1999年に日本肥満学会が発表した「東京宣言」では25以上30未満が肥満度I,30以上35未満が肥満度IIとなっており,やはり若干(意味合いは微妙だが)上方に修正されているようである。もっとも,中高年になる過程で脂肪組織はあまり減少しないけれども筋肉や骨量が生理的に減少してくること,肥満がComponent causesの1つとされる高血圧や高脂血症のComponent causesには加齢そのものが含まれることを考慮すれば,成人ならどの年齢でも同じBMIをカットオフポイントとするという基準は,いささか粗いといわざるを得ない。従って,BMIを基準とするのは,あくまで第一段階のスクリーニングと考え,そこでハイリスクと評価された場合にはもっと全身の代謝を含めて考えるといった段階的な対処が必要であることに注意されたい。

身長と体重による計算は容易だが,肥満による過体重なのか筋肉過形成なのかといったことが判別できないのが欠点である。そこで体脂肪を測ることになる。体脂肪割合の推定には,生体計測(皮脂厚を測る),BIA,DLW法,水中体重秤量法などいくつかの方法がある。肥満の健康リスクという観点からは皮下脂肪と内臓脂肪の区別が大事で,そこまでやるのは大変であるが,おそらく今後の肥満研究には必要になってくる。

1-1. 身長と体重に関連して

身長の測定デバイス
先進国で測定する場合は,普通に健康診断などで用いられる身長計(アナログ式とデジタル式があるが,最近は大抵デジタル式である)を用いればよい。いわゆる途上国でも,保健所や病院にならアナログ式の身長計は備えられていることが多く,それを用いればよい。保健所などから遠く離れたところで調査をする場合は,ポータブルの身長計を持ち込むことになる。車が入れるところなら重量16 kg,5万円程度のデジタル身長計を分解して持ち込めば良いが,車が入れないような奥地に行く場合は,マルチン式の生体計測セットを使うことになる。日本のメーカー製で30万円,スイス製のものでは80万円くらいするが,使い方も難しく,事前の訓練を要する。とくに留意すべきは水平の確保である。被験者に立って貰う台を水準器を使って水平に保ち,かつ身長計の最上部から糸を垂らして身長計が地面に垂直に保たれているかを確認するのは,なかなか厄介である。そうした予算が無く,目安程度に身長がわかれば良い場合は,手作りするという手がある。筆者(中澤)は,かつて手作りの分解式身長計をデザインし,東急ハンズにアルミ材の切断とネジ穴開けを依頼して組み立てたことがあるが,総予算1万円弱でなかなか使いやすいものになった。もっと手抜きをする場合は,洋服のサイズ合わせをするときに使うような巻き尺の2メートルのものを,まっすぐな棒や壁に貼り付けて使ったという例もある。
体重の測定デバイス
これはデジタル式の台秤型体重計がもっとも普通に使われる。先進国では身長計と一体になったものが普通に用いられる(最近は身長だけでなく体脂肪割合も同時に測定できるものがよく用いられる)。乾電池くらいはかなりの奥地でも入手できるし,太陽電池を使うこともできるので,アナログ式を使う意味はほとんどない。ただし,既知の質量のものを用意しておき,測定値が狂っていないかのチェックを定期的にする必要はある(パプアニューギニアやソロモン諸島の村で測定する場合,砂や土の上に板を置いてその上に体重計を載せて野外で測定することが多いため,すぐに砂が入ってしまい,測定値の安定性に不安を感じるのである)。
BMI (body mass index)
カウプ指数ともいう。上に書いたように,[体重(kg)]/[身長(m)2]で定義され,身長と体重から求める肥満の指標としては最も普通に使われている。
比体重(W/H)
比体重といって,身長に対する体重の比で考える方法もある。もっとも,ただの比ではなく,身長に対する肥満度別体重の表を用意しておき,表から読みとるのが普通である(これを説明するには,NCHSなどの標準のW/HとかW/AとかH/Aを使ってstuntedとかwastedとかいう方法の利点と問題点に触れねばならないが未完)。

1-2. 体脂肪割合の測定法

WEBから入手できる資料としては,国立健康・栄養研究所の松村康弘さんが書かれた文書(PDFファイル)がお薦め。わかりやすく,よくまとまっているし,測定器具の写真もある。

生体計測による方法
皮下脂肪の厚さ(皮脂厚=ひしこう)は,体外から測定することが可能である。伝統的に用いられる測定器具はキャリパー(skinfold caliper)であるが,超音波を使う方法もある。キャリパーの使用にもある程度のスキルが必要なので,事前に練習しておく必要がある。腕など数カ所の皮脂厚と周囲長の測定値から体密度を推定し,そこから全身の脂肪割合を推定する式がいくつも提案されている。例えば,Durnin and Womersley (1974)の式では,17歳から29歳の男性の場合(年齢と性により係数が変わる),二頭筋,三頭筋,肩胛骨下,腸骨稜上部の4カ所の皮脂厚合計値(mm)の対数に0.0632を掛けたものを1.1631から引いた値を体密度(g/cm2)としている。体脂肪割合(f)と体密度(D)の関係式もいくつも提案されているのだが,Brozek (1965)の,f=(4.570/D-4.142)*100や,Siri (1956)のf=(4.950/D-4.5)*100が用いられることが多い。
BIA (BioImpedance Analysis)
訳すとすれば,「生体インピーダンス分析」だろうか。簡単に言うと,生体に微弱な電流を流したとき,「脂肪が少ないほど,距離が短いほど,流れやすいのでインピーダンスが小さくなる」ことを応用して,身長とインピーダンスから体脂肪割合を計算する方法である。手足それぞれに2つずつの電極をつけるタイプのRJL systems社のものがもっとも普通に用いられ,全体としてみればかなりの正確さをもつと評価されているが,計算式や測定部位についていくつもの違った提案がなされ,それぞれ賛否両論論議を呼んでいるというのも一面の現状である。最大の利点は測定にスキルを要しない点にあり,機械もそれほど高価ではない。American Journal of Clinical Nutritionの1999年4月号に,中程度の体重減少プログラムに参加した成人女性を対象とする場合,タニタの脚間インピーダンスを測る機械でも有効だというデータが示された。
DLW法 (Doubly Labeled Water Method)
質量数2の水素と質量数18の酸素(それぞれ天然にはあまり存在しない安定同位体)からなる「二重標識水」を飲ませ,後に呼気と尿の分析を行うことで体組成を調べる方法。正確で被験者への負担が少ないとされているが,分析機器も試薬も高価なのが欠点である。
UWW (Under Water Weighing)
水中体重秤量法と訳される。体脂肪割合測定法の標準であり,原理的にもっとも正確な方法である。水中で体重を量れば水との密度の違いの分,空気中で測ったときよりも体重が軽くなるので,その差を利用すれば体密度が推定できることになる。ただし,できるだけ息を吐き出してから水中に潜っても肺に空気が残るのは防げないので,窒素洗浄法などによって肺の残気量を測定しておく必要がある。最近,頭を水の上に出しておいても良い推定が可能だという論文がでたが,それにしても被験者に相当な負担を強いることは否めない。

2. 肥満の原因

上記の通り,エネルギーバランスが正に崩れるのが原因なので,取りすぎか消費が少ないかのどちらか(あるいは両方)である。

2-1. エネルギー摂取過剰

2-2. エネルギー消費過小

3. 肥満のメカニズム

肥満になる/ならないというのは,どういうメカニズムで規定されているのだろうか? これにはレプチンというホルモンが大きな役割を果たしている。「肥満遺伝子」(蒲原, 1998)によれば,おそらくはレプチンレセプターのセットポイントが高すぎることが原因となる肥満が多いらしい。(未完)

脂肪組織への分化にはある種のアデノウイルス感染が関与しているという研究も近年盛んに研究されている。また,同じエネルギー余剰があっても,それをどの程度脂肪組織として蓄積するかどうかは,遺伝的多様性があると考えられている。

4. 肥満研究のいろいろ

4-1. 倹約遺伝子仮説

近代化にともなって,アリゾナのピマインディアンや南太平洋の住民の間で肥満とインスリン非依存性糖尿病の有病割合があがった現象とその原因。詳しくは「倹約遺伝子の本体はβ3アドレナリンレセプター遺伝子か?」にレビューした。

4-2. 遺伝性低レプチン血症の事例研究

遺伝的にレプチン欠損のために2歳で29 kg,歩くこともできない子どもがテレビでも紹介された。ob/obマウスと同じで,食欲が抑制されないことと,エネルギー消費が低いことの2つが揃っているので,これほど太ってしまったのである。(未完)

レプチンについてより詳しく知りたい方には,「肥満遺伝子」,「肥満とダイエットの遺伝学」「ヒトはなぜ肥満になるのか」などを,お薦めする。

4-3. 現代の先進諸国における肥満増加の原因

アメリカなどでは,旧来の基準でいうところの肥満者の割合がやたらと多くなっているが,それはなぜか? という話。(未完)

4-4. 現代日本における若年女性の痩せ過ぎについて

国民健康・栄養調査によれば,現代の20代の日本人女性の1/4以上が,BMI18.5未満の痩せ過ぎである。にもかかわらず,もっと痩せたいと考えている人が多い。それは何故か? どうしたら改善できるのか? という話(未完)


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