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【第174回】 国際保健医療学会2日目(2012年11月4日)
- 7:30頃ホテルをチェックアウトし,岡山大学に向かう途中のすき家で朝食。向かいのファミリーマートで昼の弁当(握り飯3つ)を買って会場へ。国際保健医療学会2日目の午前中はpostMDGsのセッションを聞く予定。
- postMDGsセッションのトップバッターは外務省の小沼氏。7月以降,随分進んでいるとのこと。RHが入るのが遅かった(2007〜)のは(MDGsを策定したときに)哲学が欠けていたから。human securityはあまり好きではないが,個人の力に注目したい。equityについて目が行き届かない面がある。Maternal/NewbornのHealthに目が行き届かなかったのも,元を質せばそこ。国際的にはWHO/UNICEFが作ったpostMDGのwebサイトから意見を出すとか,WHO/UNICEFがまとめる報告書にコメントするとかいった手がある。マーガレット・チャンは再選翌日に言ったとおり,UHCを最重視。MDG4-6も問題だが,NCDが重要になってきたので。日本はまだbeyond2015には国としてはあまり対応できていない。その後も7月のシンポジウムでも話された内容+αという雰囲気であった。beyond-mdgs-japanへ投稿された日本の意見を集約して国際会議に上げるので,是非投稿して欲しいとのこと。ディスカッションはとても面白く,とくに最後の方で,やたらに国際トレンドに合わせるのではなく,日本のプレゼンスを示せるようなインパクト指標を提案していくべきではないか(とくにsustainabilityとかの面で)とか,多くの人が一病息災で生きている現状でcompleteな健康定義はおかしいのではないかといった議論が面白かった。確かにあれは理想としてしか使えない概念だ。如何にself-managementできるかが健康(というような趣旨だったと思う)という神馬さんの提案を聞いて,社会的健康も含めたら,self-managementするのに必要なsupportをsustainableに得られるような状態が健康としたらいいのではないかと思った。
- 昼のWHOインターンシップの経験談も面白かった。こういう分野に関心をもつ学生は多いので,紹介してあげたい。休みが10分しかなかったので,朝買っておいた握り飯を5分で食べて昼飯を済ませ,大会議室に戻ると超満員だった。たぶん部屋の設定が各国の災害援助の受け入れ体制のシンポジウムと逆にした方が良かったかも?(と思いながら,この集会の後で災害援助受け入れシンポジウムの部屋に行ってみたら,そちらも7割くらいの席は埋まっていたように思うので,それもダメだったとわかったが)
- 午後のインパクト評価セッションの最初は地球研の会議で先日会ったばかりの阪大・神谷さんの発表。昨年まで2年間で50回ほどJICAの人たちと保健分野でのインパクト評価のレビュー勉強会をしたとのこと。以下要点メモ。インパクト評価はプロセス評価とは異なる。因果的効果の評価には如何に評価に適したfactual/counterfactualを見つけるかが鍵(注:counterfactualのところで誤変換があった。半ではなく反事実)。counterfactualの見える化において典型的なのはRCTだが,適切な評価指標が重要。Global health業界では事業本体への資金投入に比べ,効果検証のための研究が手薄だった。今後はそこにtop priorityを置かねばならないという報告がLancetで2010年になされている。事例としては,Pronyk et al. 8 May 2012 Lancetに載った論文,ジェフリー・サックスらの"Millenium Village"研究の評価。世銀のブログに効果無し(Lancet論文には死亡率がちゃんと測れていないということと,対照群がちゃんと設定されていないという点がポイント)という反論が出て,Lancetがお詫びを掲載。メタアナリシスやSystematic Reviewはたくさんなされている。それをまとめて,それまでにわかったPROVEN IMPACTについて寄付をしようというパネルができている。フィールド実験による社会選好の計測(社会心理学実験とか。Social capitalやEmpowermentの計測をゲームとかの形で測定)も増えてきている。ベースラインデータがないとか,比較対照群を設定しないときの対処方法も考案されつつある(一番単純な例は,国の統計と比べるとかだな)。
- 次はJICAから世銀に出向している山形さんによる,世銀の保健分野におけるインパクト評価の話。リザルト重視の評価ニーズから2005年のDIME設置とIDA16で2つのコミットメントという経緯の紹介に続き,インパクト評価件数がいかに増えてきているかという図の呈示。世銀ではいろいろな分野でインパクト評価がなされてきたが,組織として統一したQCがなされていないことと,インパクト評価の結果の活用が不十分とかいった問題と,外部からの信託基金への依存による弊害がある。山形さん自身JICAという外部からのお金で世銀で仕事をしている。今後はより戦略的な案件選定,外部基金の寄せ集めでなく,コアとなる予算に統一し戦略的に活用(改善されつつある),案件形成時からインパクト評価を統合しプロジェクト運営におけるリザルト重視をはかること,優良案件の基準を他のインパクト評価に広めるといった方向性。保健セクターの動向としては,SIEF (Spanish Impact Evaluation Fund)が創設されたことにより案件選定は比較的システマティックになった。その後スペイン財政危機でUK出資に変わりSpanishがSystematicになったが略称SIEFのまま活用されている。しかし保健セクターのインパクト評価に関する明確な戦略が無いとか,他機関との連携やスタッフのキャパシティが不十分といった問題がある。最後にちらっと紹介された,世銀のImpact Evaluation Toolkitは使えるかも。
- 3人目はJICAの平岡さんによる,JICA人間開発部保健グループのインパクト評価に係わる取り組みと指針という話。JICAナリッジサイト内の,webでpdfが公開されている(このpdfファイルについての説明が書かれているページ)。読んだり聞いたりした範囲では,疫学でいう介入研究で効果の指標を計算するということに他ならないが,疫学以外にも統一的に適用するために新語を発明したということであろう。導入の方針としては,つかう,つくる(評価の一部としてのevidenceの構築),つたえるの3段階。介入研究になるわけだから,倫理的側面も重要。想定される問題としては,介入の非遵守やコンタミネーション(他ドナーの影響)がある。疫学研究なら非遵守の際はITTだが,インパクト評価ではどうしているのだろうか(ディスカッションのときに質問して神谷さんからいただいた答えによると,決まりはないがITTが多いとのこと)。
- 最後は石島さんによるタンザニア国公立病院における5S-KAIZEN活動のインパクト評価の紹介であった。
- JICAのスコープが非常によくわかるセッションだったが,ディスカッションで谷村さんや長崎大の神谷先生が指摘していたポイントに答えられるかどうか? また,postMDGsのセッションで出たような日本独自のインパクト指標については言及が無かったので,たぶんこれからかと思われた。
- その後は栄養の自由集会に来てみた。参加者は栄養士でJOCVの経験がある方ばかり。水元さんはソロモン諸島でJOCV,ミクロネシアで調整員,その後アフリカでJICAの活動をされていたそうだ。食の変化の原因の大きな部分は都市化や都鄙移住による人口分布の変化に起因しているのではないかという話やmicronutrientのevaluationの細かい話もしたかったのだが,JOCVの方々の経験談が聴ける機会もあまりないので,有意義であった。細かい話は水元さんと三好さんに直接メールで聞いてみよう。
- 岡山駅に歩いてみどりの窓口で東京往復の切符を2回分買ってから,和食の店でままかり定食を食べた。これから新幹線で姫路へ向かう。新幹線と新快速を乗り継いで神戸で降り,バスに乗ってひよどり台に着くまで,石井光太『レンタルチャイルド 神に弄ばれる貧しき子供たち』新潮文庫,ISBN 978-4-10-132533-0(Amazon | honto | e-hon)を読み続け読了。言葉を失うほど過酷な現実。トップダウンの国際保健医療協力では,ここで取り上げられている人たちには届かない。いや,届けることなんてできるのだろうか。
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