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【第815回】 『「謎」の進学校麻布の教え』読了,講義3コマ(2014年10月20日)
- 6:00起床。キュウリのあっさり漬けとフルーツヨーグルトで朝食を済ませた。可燃ゴミを出してから2番のバスで出勤。
- 昨夜眠る前に読了した,神田憲行『「謎」の進学校麻布の教え』集英社新書,ISBN 978-4-08-720758-3(Amazon | honto | e-hon)の感想を書いておく。ぼくの母校である開成を含めて,麻布,武蔵の3校が以前から御三家と呼ばれていて親近感と幾許かのライバル意識はあったし,卒業生にも知り合いはたくさんいるのだが,麻布でどういう教育が行われているのか,学校生活がどうなのかといったことは,これまで知らなかった。開成や灘の本はたくさん出ているので,世間一般の人にもある程度知られていると思うが,麻布のルポは初めてではなかろうか。で,読んでみたところ,意外にも想像以上に開成と似ていると感じた。文化祭と運動会は(時期は逆だが)生徒が運営していて(開成では文準,運準と呼ぶ),高2までは受験対策より知的好奇心をつつくような授業をしている等々,共通点は多かった。最近の生徒気質の変容についてはわからないが,かつての開成の先生方は小手先の受験ではなく,教養を深めるような授業をしてくださっていた。ぼくが中1の時に受けた国語の授業は,1年間かけて本多勝一『極限の民族』と藤木高嶺『極限の山幻の民』を読むというもので,世界にはいろいろな環境でいろいろな人が固有の歴史を踏まえて生きていて,一面的な理想の押しつけは当事者にとっては害になるかもしれないという視点を学んだだけではなく,ルポにおいては書き手のフィルタがかかっていることを意識させてくれたのは大きかった。自分の考えも含め,複線的なソースの対比による相対化の必要性を意識せざるを得なかった。同じく中1で受けた幾何の授業は,ユークリッド幾何学の公理から出発し,図形に補助線を引いたり定理を組み合わせたりして次の定理を証明するという内容の連続によって,論理体系としての数学が算数とはまったく違うことを教えていただいた。同じく中1の生物の授業では,天気がいいから庭に出ようということで,互生とか輪生とか対生といった葉っぱの付き方の説明とともに,屋外で実物を見て触りながらハナゾノツクバネウツギとかサンゴジュとかいう非日常的な和名を教えてもらったことも忘れられない。本書によれば,麻布の理科も実験実習重視ということだから,その辺りも開成と似ていると思った。もっと似ていると思ったのは,誰もが何かのナンバーワンであろうとするという点,いわばオタク気質であった。重要なのは,どんな分野についてであっても,何かを極めた人に対しては素直に凄いと認めるという気風だったと思う。入学から卒業まで学年トップの成績を取り続けた鄭君は別格として,声優オタクで当時放映されていたアニメをβマックスで撮りまくり,手作業でCFカットして莫大なライブラリを構築していたやつとか,プログラム言語でなくて直接16進数で機械語プログラムを組んでいたやつとか,変だけど凄いと思われていた。たぶん,本書で言われていた「どんな子にも居場所がある」のと同じだと思う。でも,逆に言えば,中学受験でそれなりの試練を突破したやつばかりなので,バイタリティや何らかの能力はあるからこそ,こんなことを言っていられるのかもしれないのだが(追記:この項,書評ページに独立させて収録した)。
- 1限から3限まで講義。喋り疲れた。3限の公衆衛生学第2回での疫学・生物統計学入門は,昨年同様,やはり90分では喋りきれなかったので,来週も続き(ランダムな誤差と系統誤差の話から)をする。6限のミーティングまでの約2時間で,公衆衛生学で学生に出して貰ったミニレポートの整理をしよう。
- ミーティングはM3の院生によるソロモン諸島での調査レポート。分析途中だが,まあ修論は大丈夫そう。後は時間との勝負か。どこまで論理的にきっちり詰められるかが頑張りどころだろうな。
- その後,某学会の査読仕事とか,いろいろやっていたら22:00を過ぎた。湊川公園廻りの終バスで帰宅。
- バスから晩飯+αの時間を使って,向井湘吾『お任せ! 数学屋さん2』を読了。結城浩『数学ガール』シリーズとも青柳碧人『浜村渚』シリーズとも毛色の違う,少年少女が数学を使って世界に立ち向かう話。ということは,川端裕人『アリスメトリック!』に近いのか。数学についても世界把握についても『アリスメトリック!』よりずっとマイルドだが,その分,本当に小中学生でもわかる範囲の数学で,最後の大仕掛けな演出までもちこむ力業と,その後の優しい余韻には感服した。前作に比べると物理寄りな感じが独自色か。なお,今のところ『かまえ!ぼくたち剣士会』も含めて,少年少女が主人公の話ばかり書いている作者だが,数学オリンピック経験をもつほど切れる方なので,そのうち大人を主人公にして,高校数学くらいの知識を前提として容赦なく高度な数学を駆使してオリジナルな問題を解くことがカギになるような話も読んでみたいと思った。
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