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【第1204回】 今日も溜まっている仕事をこなす――前に,『終末の鳥人間』読書中(2016年1月9日)
- 6:30起床。ミカン1個ともずく酢に加え,豚肉野菜炒めパスタを作って朝食。ホンジュラスのコーヒー豆を挽いて淹れたものを今飲むだけではなく,魔法瓶水筒に詰めて大学に持って行く予定。
- オセアニア学会の大会への参加申し込みをした。人口学会は2月14日締め切りだからまだいいか。『人口学と社会:「妊娠のしやすさ」問題を巡る議論』というタイトルで申し込みたい誘惑に駆られているが,たぶん類似演題がないからどのセッションに入れるか企画委員会が困るだろうなあ(って,自分も企画委員の一員だから他人事ではないのだが)。国際保健医療学会の西日本地方会は演題は締め切られたが(予想通り1度は延長されたが,1月6日はきっちり締め切られたので,たぶん演題は十分に集まったのだろう),参加申し込みはまだオープンしていないようだ(もう来月末なのだが)。来年は神戸でやることになっているので,運営方法を学んでおく必要があり,いろいろ記録している。
- 何となく本屋で目にとまって買っておいた,雀野日名子『終末の鳥人間』光文社文庫,ISBN 978-4-334-76979-6(Amazon | honto | e-hon)を読み始めたら,あまりに物凄い小説過ぎて――とくに,一昨日だったかの水爆実験騒動,昨夏に安保法が可決されてしまったこと,その直後にしれっと防衛装備庁ができてしまったこと,いつの間にか防衛予算が5兆円を超えていること,ジャーナリズムへの締め付けが厳しくなっていること(クロ現から国谷裕子さんが降板させられたのが象徴的),果ては橋下氏と安倍氏の接近(リンク先の記事はかなり偏見に満ちていると思うが,2年ちょっと前に安倍氏のお食事会に行ったジャーナリストが書いた記事なので,与党についての見方は大きく間違ってはいないだろう)といった昨今の情勢を考えると,不気味なリアリティを伴っていて――,止められなくて困っている。鳥人間コンテストに挑む人力飛行機サークルや田舎の高校生の閉塞感を示す描写のディテールが丁寧なので,脳裏に映像が浮かぶほど臨場感があり,いつの間にか主人公たちと一緒に遠美町で生活している気持ちにさせられる。とはいえ,読者はある意味で神の視点に立っているので,競争は必ずインフレゲームに陥るのでカタストロフしかもたらさないというのが歴史から学べる真実だとわかっているし,コスタリカのように真の外交能力があって,仮想敵国がどうして現在あるような振る舞いをしているのかを考えることができたら,この絶望的な競争を回避して,まったく別の途をとることができるのに,とジリジリしながら読んでいるわけだが,危機感や違和感を感じながらも,庶民個人には何もできないと自らをごまかすしかない人々の描写を突きつけられると,我が身を省みずにはいられない(だからといって,市民運動を盛り上げれば問題が解決する方向に向かうのかといえば,そうとも言い切れないところがまた悩ましいのだが)。これ,今こそ映画とか連ドラにしたらいいと思う。あるいは,これを原作にした漫画とか(ドイツで『みえない雲』のコミック化がポピュラーになって脱原発の力となったように)。
- というわけで,読書を中断し難いのだが,家で読破してしまうと朝食後の食休みどころではない時刻になってしまいそうなので,途中で止めて出勤する。土曜だから6番のバスになるか。
- なお,本書は単行本の文庫落ちなので,既に良い書評や取材に協力した憲政史研究者の記事があり,文庫解説にも,著者がどうしてこの作品を書いたのかについてインタビューしたときの発言が取り上げられていて参考になる。
- 往路バスで読み進め,名谷駅の弁当屋で買った昼食(まんぷく中華卵丼とほうれん草白和え)を食べながら読了してしまった。午後はいくつか溜まっている仕事のうち3つくらいは済ませたい。BGMは『私とドリカム2』のハイレゾ版,MISIA『LOVE BEBOP』,Little Glee Monster『Colorful Monster』を無限ループ。
- tweetしたことを採録しておく。川端君のretweetから,Synodosの【高校生のための教養入門】どうして「ルールは守って当たり前」? ――現代の生き方を批判的に考える/倫理学者・児玉聡氏インタビュー。それに関連した川端君のtweetで倫理と道徳の違いが面白いと書かれていたので,鄭 雄一『東大理系教授が考える道徳のメカニズム』(ベスト新書) (書評)をtweet。川端君も朝日新聞に書評を書いている。日本でいえば食事摂取基準に当たる,USAのDietary Guidelines 2015-2020が出たとNuWayさんのtweetにあったので検索。USDHHS/USDA. 2015-2020 Dietary Guidelines for Americans. 8th Edition. December 2015.から読める。Roll Back Malariaのtweetに蚊帳配布が低栄養の子供の死亡を減らすことを明らかにした数理モデルとあったので,元論文を検索。Analysing the nutrition-disease nexus: the case of malariaだな。全文ダウンロードしたので後で読む。
- もう18:30なので,土曜の直通終バスで帰ろうと思うとあまり時間がない。3つ済ませたいと思っていた仕事が1つ目さえ終わらなかったのだが,オセアニア学会で発表予定の話の前半部分で必要な文献検索をしてダウンロードしたからいいことにしよう。
- 直通終バスをひよどりインター前で降り,業務スーパーで食材を買って帰宅した。無性にラーメンが食べたかったので,インスタントラーメンを茹でながら豚肉と野菜を炒め,餅を電子レンジ加熱して力(ちから)ラーメンを作った。久々に食べると美味だなあ。
- 世界一受けたい授業という番組で知らぬ間に進行する肝臓病の恐怖2016――最新研究でわかった3つの新常識というテーマを扱っていた。新しいHCV治療薬ができたけれども存在を知らない医師がいるし適応に注意が必要なので,肝炎患者はできるだけ早く肝炎専門医を受診すべきで,米国から輸入している1錠で8万円の薬を3ヶ月飲み続けるので自費で払うと600万円を超えるが,いまでは保険適用だし国から補助も出るので自己負担は総額6万円くらいで済むという話だった。国から補助がでる仕組みは肝炎対策基本法だと思うが,仮にそれが無かったとしても高額療養費制度があるので保険診療ならば600万円を自己負担することはないはず。ちょっと誤解されそうな説明だったかも。それと,せっかく最近画期的な薬が続々とできているという話を出すなら,それは発見後長い間HCVは培養細胞で増やせず研究が進まなかったけれども(だからHBVと違ってまだワクチンもない),2005年の脇田らのレプリコンを使った増殖成功がブレイクスルーとなったという話も出して欲しかった。あと,若者に人気の行為で感染経路となるものとして,タトゥーとピアスが挙げられていて,確かにそれはそうなのだが,精液や膣分泌液中の濃度が低いために通常の性行為による感染確率は低いとはいえゼロではないのだから,STDの1つとしての説明もした方が良いのではないか(とくに口腔内に怪我をしているときのオーラルセックスとか,血液が出やすい性交渉とかは危険)と思った。
- 修士までは人類学をやっていて,熱帯医学・公衆衛生で博士号を取得した後,LSHTMでワクチン信頼性プロジェクトを展開しているHeidi Larsonが,昨年12月にNatureのコラムとして書いた世界はHPVワクチンが安全であることを受け入れるべきだ:だが,科学だけでは公衆からの信頼と政治的信頼を確立するには不十分だろうと題した記事のコメント欄で続いている議論は,公衆衛生政策としての妥当性の問題と個人の健康を守る医療の問題が切り分けられていないので噛み合わないように思う。しかしこれは,公衆衛生政策として提示される情報が不十分なことを意味している。昨年クリスマスにリスコミの必要性と題して書いたが,ウイルスの型も含めた感染状況,性交渉の頻度やネットワークのタイプなど,集団ごとに違うのだから,たとえ同じワクチンを使って同じ政策をしたとしても,まるで異なった結果に帰着しても不思議ではない。複数のシナリオを仮定した多面的予測を各国当局が行った上で(日本の場合は,厚労省の課長レベルでそれを考える人がいないと研究班も設置されないことが多いようだし,HPVワクチンについてそういう予測がされたという話は聞いたことがないが),それをきちんと国民に説明して理解して貰った上で,例えば仮想評価法(CVM)で政策的利益が最大になるシナリオを実施するとか,比較リスク評価(CRA)で大きな支持を集めたシナリオを実施するという形で政策を決定するべきだろう(という意見を,もう少し整理してNatureの当該ページにコメントしてみようかとも思うが,より紛糾するかもしれないから,別にページを作るかな)。しかしそれをするためには感染症数理モデルがわからなくてはいけないし,日本では厚労省の医系技官は医師か歯科医師の免許をもっていないと応募できないので,残念ながらそれができる人はほとんどいないのが現状で(せめてMPHやDPHにも門戸を開いてくれればいいのだが),そういう政策がとられる可能性は低い。せめて採用後でもいいから,感染症数理モデルの教育研究コンソーシアムの短期入門コースでも受講してくれたらいいと思うのだが(知らなかったが,今年は10月11日から12日まで,神戸大学瀧川記念学術交流会館で国際研究集会も行われる予定だそうだ)。
- 晩飯を食べながら,随分前に買ってあった週刊金曜日の「大学と戦争」特集号と,日経サイエンス2月号をパラパラめくっていたら,いくつかの記事が目にとまったのでメモ。「大学と戦争」特集号は,山本義隆さんの講演録が白眉。1950年代半ばに日本が原子力開発を進めていたときに岸信介が「日本は政策として核の平和利用でやっていくけれども,平和利用と軍事利用は紙一重だ。平和利用という形で,企業が核の施設を作り,核技術者を養成して,核分裂物質を備蓄していけば,おのずと核武装能力は身についてくる。そうすれば,いざとなったらいつでも核武装できる」という趣旨の「潜在的核武装路線」を唱えたという話は,その孫がいま進めている政策の背景を考えると不気味。技術水準の格差で儲けられなくなったら,常に最先端技術の需要があり続ける(戦争は常にインフレゲームだから)武器輸出に走るので,だから財界は安倍政権を支持しているという見方も当たっていると思う。最後の段落は科学者にとって重要と思うので引用しておく。
「明治以降,日本の科学技術はつねに上からのイニシアチブで,軍事偏重で進められてきました。今また研究者は軍事研究に動員されていく事態に立ち入っています。非常にきわどいところにきていると言えます。あらためて日本の自然科学の研究者の権力への無批判で無自覚な体質が問われていると思います」(出典:山本義隆「理工系にとっての戦争:日本の科学技術」,週刊金曜日,23(44): 16-19, 2015.11.20)
- 同じ号で,自由と平和のための東京藝術大学有志の会を立ち上げた川嶋均さんを動かしている思いが,留学中に通訳アルバイトをしたときに出会った,安保法制懇談会メンバーの一人で安部首相のブレーンとも言われている政財界の大物から『そろそろどこかで戦争でも起きてくれないことには,日本経済も立ちゆかなくなってきますなあ。さすがに日本の国土でドンパチやられたのではたまらないから,インドあたりで戦争が起きてくれれば,わが国としては一番有り難い展開になると私は思っていますよ』という発言を聞いたことだったという話も,山本さんの話と符合している。安倍氏は何度か自分の政策が積極的平和主義だという発言をしているが,やっていることは世界の軍国主義化を広める方に向かっていて,平和の欠片もない。積極的平和主義とは,コスタリカが,武器をもたず高度な外交能力によって隣国の紛争を仲裁しているようなやり方にこそ相応しい。
- 日経サイエンスでは,ジョンソンとアンドリュースの「姿現す肥満遺伝子」(pp.58-64)[原題:The fat gene. SciAm Oct. 2015]が面白かった。もっと知るには……として挙げられていたKratzer JT et al. (2014) Evolutionary history and metabolic insights of ancient mammalian uricases. PNAS, 111(10): 3763-8.も面白そうだ。けれども,ニールの倹約遺伝子仮説は,同じようなライフスタイルで同じようなものを食べていても,白人よりも南米インディオやオセアニアの住民が肥満しやすく糖尿病や高血圧になりやすいのは何故か? あるいは,ピマインディアンがメキシコで伝統的な暮らしをしていると健康なのに,アリゾナに移住して白人のような暮らしをすると9割が肥満になるといった現象の原因を説明したかったわけで,ウリカーゼ遺伝子が不活化したことが人類共通の(どころか類人猿も含めて共通の)倹約遺伝子だとわかったという話とはフェーズが違うと思う。
- 2:30頃力尽きて,終わらなかったけれども現時点までに見たところをメール送信して眠った。
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