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【第1461回】 実習対応などいろいろした後,夜行バスで民族衛生学会@女子栄養大へ,夜は駒場へ(2016年11月25日-26日)
- 6:00起床。朝食後に大学へ。午前中は研究科のwebサイト刷新についての委員会。2時間弱にわたって実質的な審議をして,いろいろ決まったが,その倍くらいの課題が浮かび上がった。
- 午後は公衆衛生実習の対応をしながら院生の質問に答えていたら夜になった。
- パンをかじってから月曜の公衆衛生学の講義資料を作ってpdfをアップロード。印刷はミニレポート用紙のみ完了。資料印刷は月曜午前だな。どうせ公衆衛生実習の学生のために月曜も朝一番のバスで出勤だし。
- 20:50頃大学を出て地下鉄で三宮へ。JAMJAMライナーの席が3Cという素晴らしい幸運(3Cだとすぐ後ろはトイレに降りる階段なので,後ろに気兼ねをせず目一杯リクライニングできる)に恵まれ,ゆっくり眠れた。
- 東京駅鍛冶橋バスターミナルに7:30過ぎに着いて,駅内の鮨屋で朝食セットを食べてから山手線で駒込へ。8:30頃に会場着。予定より早く受付が始まっていたので,すぐに受付を済ませて5階のシンポジウム会場へ。開会まで論文直しをしながら,いろいろな知人と話をしていた。
- 9:30になり予定通りに民族衛生学会スタート。以下メモ(聞き間違い/打ち間違いがあるかもしれないので注意)。会長講演。身体計測による発育研究の話。北川先生のDECOMPは,佐藤整尚先生に受け継がれて,webアプリとして使えるWeb Decompとか,Excel+(D)COM+Rで動くE-Decompとして使える模様。しかし今ならExcel+(D)COMよりR単体で動くように書き換えられるんじゃないだろうか。
- 続いてシンポジウム。まずは山内さん。欧米の子供の長期的な体力低下についてのTomkinson et al. 2003。2012年の論文は見当たらないが,Tomkinson GRはいろいろ文献だしてるようだ。11歳で体力測定を1984と2014で比べると握力も50m走もソフトボール投げも2014の方が低い。最近10年では握力は低下傾向,50m走は回復傾向,ソフトボール投げは安定。歩数はいいデータがないが,1979年の論文では27000歩とかいうのがある(同時期の公立小学校データでは男子20000歩,女子16000歩)。最近の東京都のデータでは12000歩くらい。減っている傾向はあるだろう。日本の子供の体格と体力の時代変化をみると,ピークの時期が体力1985,身長1990-1995,等々項目によってずれている。最近は男女とも1cmくらい短脚化している(成長期が後方シフトした可能性は?)。狩猟採集民の子供に加速度計つき歩数計とGPSを着けて測定したら,年齢が上がるほど総移動距離は伸び,ばらつきが大きくなった。歩数は男子2.5万,女子2.3万と先進国よりずっと多かった。Katzmarzyk PT et al. 2014は,新しい技術としてmHealth(fitbitとか)やexergaming(ポケモンGOとか)を推奨している。しかし自然とのつながりも大事(狩猟採集民の子供から考えると)。そこはWHO等の対処方策から抜け落ちているのでは? と懸念。
- 第二演者は渡辺知保さん。微量元素と成長発達という話。摂取量のばらつきと欠乏症状。小児期の微量元素欠乏。亜鉛欠乏は世界総人口の20%が欠乏(USAは1-3%)という論文がある。鉄欠乏症は世界で20億人が貧血で,そのかなりの部分が鉄欠乏。妊婦の42%が貧血で半数が鉄欠乏(Christian, 2010)。ヨード欠乏も子供に多い。セレン欠乏や銅欠乏はまれだがいる。完全静脈栄養は1970年代から。途上国における微量元素の妊娠期の欠乏としては,Christian, 2010によると(もちろん他にもあることに注意)ネパール,インド,中国で亜鉛と鉄が共通して欠乏。メキシコでも亜鉛欠乏が多い。セレンは土地によるばらつきが大きい。中国の克山病地域は11μg/日,ポーランド,イタリア,トルコ,イランなどは30くらい。USAやスペインやサウジアラビアは100くらい。ヨウ素摂取量は世界の国によって15倍くらい開きがある。鉄欠乏は胎児期から乳児期には大きな非可逆的な影響がある(成人の貧血と異なる)。亜鉛欠乏も成長・発達と関連する。神経機能にも影響する。免疫障害も起こすので下痢,肺炎,マラリアなどに易感染性になる。完全母乳栄養では生後半年以降亜鉛欠乏になりやすい。ヨウ素は先進国でも不足している(Zimmerman et al., 2011)。先進国ではヨウ素添加塩が普及していないので欠乏が起こりやすい。オーストラリアでは酪農の製造ラインの殺菌剤をヨウ素剤から塩素剤に変えたので,殺菌剤の残りが酪製品に入ってとれていたヨウ素がとれなくなった可能性が指摘されている。世界中のいろいろな土地から微量元素が消えていく危険(補給されないので)も指摘されている。
- 第三演者は関山さん。インドネシア農村の栄養と成長に関する縦断研究。インドネシアでも1990年から2010年で健康転換が進行したことがDALYsの論文から指摘されている。インドネシアの子供の栄養問題についての研究をweb of scienceで検索すると,1999年以前は低栄養の研究ばかり。最近は二重負荷の研究が増えている。5歳未満の過体重ないし肥満を横軸,発育阻害(低身長)を縦軸にとってプロットすると日本は世界でもっとも原点に近く(問題が小さく),インドネシアはかなり右上にくる。国家レベルの統計データをみると,stunting(H/Aでみて)は40%から30%へ減少。BMI-Zでも見てもやせは微減,肥満は最近10年くらいで倍増して18.8%。以下フィールドデータ。西ジャワ州ボゴール県の村の2集落の小学4年生(ということは縦断では無くてパネル調査だな)。栄養摂取(三大栄養素充足率)は2001年より2015年が顕著に上昇。成長は身長+5.3cm,体重は+2.9kg。1年分の差に相当する。IGF-1もほぼ1年分の差があった(対象者の学年は同じ学年で比べていても,exact ageでみたら差があったりしなかったのか?)。平均BMIは+0.6。2001年には過体重/肥満(BMIでみた? 日本のようなやり方ではなく?)は2%→14%。今後栄養教育を中心とした食習慣改善が必要。ボゴール農科大学地域栄養学科の研究者が日本の栄養教育の展開を視察に来た。その後,PROGASプロジェクトというものを展開し,4万人の学童に96日間(24日間×4フェーズ)の給食提供(今年6月から)をしている最中。
- 第四演者は香川雅春先生(女子栄養大)。世界の子供の栄養と成長・発達というテーマ。健全な成長には環境が重要。とくに人災による飢餓。子供はvulnerable。一方では,国際的に100年間で成人の身長が20cm増加。子供の身長も1950年代からみれば上昇し収束した。これは良質なたんぱく質摂取が増えたからだろう。安全な水の提供は増加。しかし穀物自給率の低い国は少なくない(日本もそうだが)。経済状況も子供の健康に影響する。失業率は成人や子供の死亡率に有意な影響をもっていたという,アフリカでの研究がある。ただしU5Mには直接・間接に栄養失調が関係している。1990年以降,5歳未満の肥満や過体重は増加している。オーストラリアで研究したところ,ethnic minorityで肥満が多いという結果がでた(アボリジニだからじゃ? トレス海峡諸島民と同じく働かずに暮らせるような政策のためでは?)。栄養失調の子供は減少しているが,最近減少速度が緩やかになってきたのが問題。World Food Summitの目標は達成困難。U5Mは過去60年で減少したが途上国ではまだ目標水準には達していない国が多い。一方ではDOHaD(バーカー説)を考えると,母親の痩せ願望は次世代の成人病増加につながる可能性を示唆する。日本の20代女性をみると,(痩せ過ぎ割合は最近5年若干減ったけれども)食事摂取基準はあまり満たされていない。2歳までの急激な体重増加も学童期の肥満に繋がる。WHOは母子栄養の改善に向けた2025年mでの目標を新たに設定した。低体重(wasting)防止から発育阻害(stunting)防止へ軸足を移した。SDGs達成には包括的アプローチが必要。
- 以下討論。15分。セレンで亜鉛を補うPNGの研究? →なんか勘違いしていると思う。life courseを考えたhuman plasticityの体制は? なかなかそのレベルまでは達していないとの返答。エコチルは生体試料を集めているので,将来別の目的にも使えるかもしれない。時間が無くて質問できなかったが,個人的な疑問としては,こういうsecular trend的な研究で成長を扱う場合,genetic possible maximumがもしあるとしたら,そこに達した後はばらついても平均への回帰が起こるだけかもしれず,短期的な低下がそうでないとは原理的に言えないのでは? ということと,成長タイミングの後方シフトが起こったら低下と見分けがつかないのでは? (出産タイミングの後方シフトが起こっている間にTFRが見かけ上過大に低下して1.26になったという話と似たようなメカニズムはないのか?) 日本の良さを発信できないか? →和食はできていると思うが。給食の良さは? インドネシアは給食が無くて学校で買い食いするところからのエネルギー摂取が4割くらいあるのが問題。ガラパゴスと言われるかもしれないが日本の良いデータは世界にアピールすべき,という主張。フロアから,これからの日本では咀嚼・食環境の問題が大きいのではないかとのコメントで幕。
- 昼は論文賞授賞式(受賞者体調不良のため代理出席であった),記念撮影に続いて評議員会。
- 若干揉めたが議題が承認され,学会名変更が決定となった。今後,日本民族衛生学会は,日本健康学会という名前に変わる。あくまで名称変更であって,「健康現象を研究するにあたり、人間と環境との係わりを包括的に記述、分析する方法に関心を持つ医学研究集団である。DNA、細胞、臓器、人体、集団、民族を分析的のみならず統合的に研究し(differentiation & intergration)、一方、環境については「人間が作った環境(culture)」を「自然の環境(nature)」に対比する。特に後者は、文化を精神文化(culture)とし物質文明(civilization)と対比する人文・社会科学の定義ではなく、「自然環境=自然」に対比する「人間が作った環境=文化」とすることによって、「文化」を生物科学的に定義した。これによって人文科学ではない医学が「文化」を取り扱うときに困惑していた問題を整理できた。と豊川先生が書かれたスコープは変わらない。
- 午後は一般口演セッション2つと特別講演1で食器具の話(楢川小学校の木曽漆器による給食の話が出てきた)を聞いてから,懇親会参加費は払っていたのだが参加せずソフトボール部のOB総会に出席するため駒場へ。駒場祭をしていて駅や道路が凄い混雑だったのは予想外だったが,生協食堂で先輩や後輩と語り,渋谷で二次会でも日本酒やハイボールをしこたま飲んだので酔った。息子のアパートに泊めて貰った。
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