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【第585回】 修論発表会2日目・博論発表会(2014年1月30日)
- 直通2番のバスで出勤。8:45から発表会2日目。以下メモ。
- 最初は質的研究。方法で「を参考にして」という言い方だと,どのように参考にしたのかがわからない。質問したかったが時間切れ。
- 2番目は質問紙調査。回収率が低いなあ。たぶんself efficacyが高めな人たちに偏っている気がする。2部ずつ配って1部しか返送がない保健所が多かったからという話だが,だとしても低い。基準関連妥当性とか併存的妥当性の検討がないと,本当に測りたいモノが測れているのかについて根拠が弱い。重要なテーマと思うが。
- READIの話は,この手の研究ではお手本になりそうなもの。きちんとステップを踏んでいる。将来展望の縮小版,どこまで減らせるのかが難しいだろうな。例えばWHOQOLの場合,フルバージョンの100項目から短縮版では26項目に減らしているわけだが,26項目で7因子をカバーできるような質問票が作れるか? というと難しそうだ。
- 職務満足感の研究は,妥当性の検討が今後の課題だろう。この計算だと有効回答率ではなく,有効回収率だな。他にも,表中βとしてBの値を出してしまっていたり,スライドが間違っているところが少しあった。あと,行き先県は質問していないらしいのが,少し残念だったかも。
- 次は高齢者の睡眠と歩行。日中の眠気を調べているなら,睡眠時無呼吸症とか肥満との関連はチェックしているのだろうな,と思ったがアクチグラフのような睡眠の客観的評価は今後の課題だそうだ(歩行測定自体も本人がやったのではない)。日中の眠気と歩行(速度,ばらつき)を転倒との関連で調べた。そういう先行研究はないのだそうだ。人数は十分に多い。BMIは測定しているが,カテゴリ化すべきではなかろうか(肥満か否か)。ストライドのCVをばらつきの指標とした。重回帰の結果はそこそこクリアで,自由度調整済み重相関係数の二乗は0.55。BMIをカテゴリ化すれば,もっと切れ味が良くなるはず。まあ突っ込みどころはいろいろあるが,これはこれで一報にはなるだろう。
- 次は音の影響。心拍数変動指標(HRV)による心臓自律神経の評価。運動負荷として自転車エルゴメータ。健常男子大学生・大学院生ボランティアでの研究。VO2maxの60%で運動終了。テンポのみの音は電子メトロノームで与えた。%VO2を横軸,心拍数やHFの自然対数を縦軸にとった反復測定二元配置分散分析。リカバリへの影響もみた。結論としては,テンポの違いは有意な影響はなかった(最大酸素摂取量を与える負荷には若干影響した)。しかし,同じテンポでもドラムの音とか,音色が違えば影響するかもしれないので,メトロノームだけでテンポは影響しないと結論できないのでは? 質問したかったが時間切れ。
- 次はNIDDM患者の食後低血圧の研究。食事内容は統一。心拍変動係数により群分け。平均61歳,やや肥満。中心血圧では反射波が主成分。AIという上腕血圧に対する中心血圧の比も使っている。その測定のためだけにカテーテル入れたのか? と思ったが,そうではなくて,オムロンの手首で測れる機械を使ったそうだ。高そう。リンク先をみると,上腕(橈骨)で測定した反射波からの回帰式を使って推定しているようだが,この式が糖尿病患者にも当てはまるかどうかは確認済みなんだろうか? が少し気になった(この点に拘って調べてしまったため,研究成果そのものは耳に入ってこなかったが,質疑によれば,重症の人は食後2時間でも血圧が落ちた状態が続くことがわかったそうだ。いつ血圧が戻るのかは検討できていないとのこと)。
- ここから国際保健。
- 最初は薄層塗抹標本からのマラリア原虫のステージと原虫血症の関連。神戸大に保管されていたギムザ染色済みの67枚の薄層塗抹標本(熱帯熱,三日熱,卵形が20ずつ,四日熱が7枚)を観察。30をランダムに抽出して,PRI(原虫種の同定に使えるフィールドの検出割合)。熱帯熱が0.7,三日熱が0.3くらい。他2つは低い。次にタイ南部のクリニックで指先穿刺で集めた22のスライドを調べた。三日熱は0.3くらい。熱帯熱は0.1台。ACDして100人中4〜5人陽性だった。雨季でなかったので患者は多くなかったとのこと。たぶん熱帯熱の検出されたステージの違いは,PCDとACDの違いで説明できるんじゃないだろうか。
- 次はインフルエンザワクチン。株を問わず効果があるuniversal vaccineの開発を目指す。M2eを抗原エピトープとして菌体表層に発現するよう組み換えたビフィズス菌を使った腸管免疫→全身免疫? 組み換えできて,正しく発現したことの確認。マウスモデルでの有効性実験。1ヶ月飲ませてIgG抗体上昇を確認し(脾臓細胞でM2e刺激でIFNγ産生上昇も確認),H1N1に感染させて生存分析。感染はマウスを麻酔してピペットで鼻へ。コントロール群は100%致死だったが,免疫群は50%生存。ただし統計的には有意差なし(サンプルサイズ小さかったためと考えている)。A型なら新型でもこの抗原は保存されているはずとのこと。
- 次は多剤耐性緑膿菌。尿路感染患者から分離された緑膿菌の薬剤耐性とefflux pumpの過剰発現(RNA測定)に正の相関関係があったという話。基準株の発現量の2倍以上発現しているものを過剰発現と判定。9種類の薬剤についてMICにより耐性かどうかを判定。オッズ比により「相関関係」をみたという表現,関連性の程度とか影響とか効果というのが普通と思うが。過剰発現のメカニズムは突然変異なのかエピジェネティックなのか? ただし,上流遺伝子の変異かと考えて調べたが差が見られなかったとのこと。77株中2株は多剤耐性だったが,とくにそれだけ異なることはなかった。なぜ多重ロジスティック? 想定している耐性メカニズムのモデルがわからん。ここでは質問しなかったが(後で確認したところ,耐性遺伝子間の相互作用を考えているわけではなく,個々の薬剤耐性の発現について背景因子の影響を調整しているというモデルだそうで,それならわかるが,表の作り方から誤解してしまった。本文にもモデルの説明が不十分だったのでわからなかった)。Discussionでさらなる研究が必要と書かれている,まったく構造の違う抗生物質への耐性に相互作用があるかもしれない組合せ(もちろん同時投与される場合が多い可能性もあるが,そこはわからないのだそうだ),面白いが説明がつかない。
- 次は頭頸部がん細胞に対する免疫細胞治療(LAK)と遺伝子治療(Ad-p53)の抗腫瘍効果の検討という研究。まずは培養細胞を使用(共培養するわけだ)。TNFαとULBPのmRNAを測定。次にマウスでvivoの実験もし,2つを併用するとコントロールより腫瘍が有意に小さくなることがわかったとのこと。LAKが正常な細胞を傷害しないようにするためには,局所投与か。
- 次は基質特性拡張型βラクタマーゼ産生大腸菌(ESBL producing E coli)の遺伝子解析。関西地区ではCTX-M9が多い。ESBLの遺伝子はプラスミドにコードされているので,拡散しやすい。教育病院で検出された菌について,プラスミドとシークエンスのタイピングをした。世界中で流行しているCTX-M-15型ESBL E.Coli 025が検出された。腸管感染症と腸管外感染症の両方を起こす。ESBL出現は欧米が先。原因は薬剤の使いすぎか。
- 午前中の残り2題は魚の寄生虫,C. armatus。第一中間宿主としては貝,第二中間宿主が魚,最終宿主としては鳥や哺乳類。ヒトに感染することもある。けれど今回の研究は,貝から魚まで。曝露後20分から2時間では,90%以上鰓から見つかる(すぐに臓器に移行する)。数日経てば,脳を含む全身からメタセルカリアが検出されるようになる。成熟は1ヶ月以上。英語での発表で,大変流暢だから,たぶん随分練習したんだろうな。脳に感染するということから,魚の行動に影響する(parasite manipulation)の話に繋がるのは当然で,2人目がその発表だった。10メタセルカリア以下の魚と高密度感染の魚で,群れの大きさ(大きくなる),遊泳深さ(夜間浅くなる)と体色(明るくなる),刺激反応時間が遅くなるので,鳥(とくに夜行性の鳥類が主な最終宿主なので)に補食されやすくなると考えられる。魚の健康状態は? ということで,痩せていないか(condition factor=ローレル指数のようなもの),血糖値を調べたところ,コントロールと有意差はなかった(測定前に網で捕まえて氷水で麻酔するので,その過程でストレスがかかってしまった個体があったかもしれない)。感染実験では,体色も反応時間も有意に変化した。魚の目の検査をしたら面白いというコメントがあった。
- ということで昼休み。今日はしっかり昼飯を食べたいと思って生協に行ったら,弁当が後2個だけ残っていて良かった。
- 午後は博士論文の発表会だが,他にやるべき仕事が終わらないので地域保健学領域辺りから聴きに行く予定。
- というわけで,地域保健学と国際保健学の博士論文発表を聴いてから,3人分の個別審査をしたら,終バスの時刻が近いのだった。メール送受信してから研究室を出て,直通終バスで帰宅。晩飯は納豆ご飯。
- /.Jのストーリーにもなったが,世間はSTAP細胞の話題で持ちきりだった。参考になりそうな情報を随時RTしておいたので,ここにもリンクとして拾っておく。STAPで気になる6つのこと - ぶろぐ的さいえんす?,クマムシの堀川さんのブログ記事,「ストレスで細胞が初期化」の衝撃 - むしブロ,1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文) | AASJホームページ,Nature Newsで今回の発見を紹介する記事,Natureに掲載された原論文は,刺激惹起により体細胞の運命を多能に変換(Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency)と,獲得した多能性をもつ再プログラム細胞における二方向の発生能(Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency)。後者が胎盤にも分化できることを示したもの。ある程度詳しい日本語解説としては,理化学研究所のプレスリリースとか。
- マスメディアは,それぞれ微妙に違った紹介の仕方が面白い。NHKはこれとか。地元の神戸新聞はこれとかこれとか。読売新聞はこれとか。朝日新聞はこれとか。毎日新聞はこれとか(最初にリンクしたURLでは見えなくなったのでリンク先を同内容が残っているページに変更した)。毎日新聞に掲載されているES,iPSとの比較表がわかりやすい。毎日新聞は以前から「理系白書」を出したりして科学報道に力を入れてきたからか,「万能細胞」特集ページまで作っていた(朝日もアピタルに特集ページができていた)。
- R-bloggersに載っていたので知った,今日のRob Hyndman教授のブログ記事,Free books on statistical learningで紹介されている統計学のテキストは700ページ以上あって,さまざまなトピックをカバーしていて,無料のpdfファイル。素晴らしい。ぼくが公開している入門テキストより遙かに専門的なところまでカバーしている。
- 3月18日(火)10:00〜18:00にステーションカンファレンス東京で開催される,第5回生物統計ネットワークシンポジウム「疫学研究における生物統計学の発展と貢献」だが,プログラムをみたら物凄く面白そうだ。行きたいなあ。
- 川端君のナショジオ研究室訪問のバッタ博士番外編3で掲載されたヒヨケムシの捕食動画は衝撃的。写真ではこれまでにも見たことがあったが,あの顎の動き方は奇妙すぎる。
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