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【第1606回】 日本人口学会第69回大会@東北大学(2017年6月10-11日)
- 6:50起床。昨夜は少し酔ったのでせっかくのスーパーホテルなのに大浴場に行かず眠ってしまったため,シャワーを浴びて髪を洗った。朝食をとってから出発する予定。
- 21:00頃会場着。午前中は自分が座長だった死亡・疾病のセッションに加えて人口転換のセッションを聴いた。RのJPSurvというパッケージを知ったのは収穫だった。joinpoint回帰という方法で,ホッケースティックを拡張したような感じだが,局所最適に陥らないような工夫がされているというのは面白いと思った。ただ,変数として~Alive_at_Start + Died + Lost_to_Followup + Expected_Survival_Interval + Interval + Yearを与えなくてはいけないので,適用できるデータが生存時間に限られている。集団ベースのがんの生存解析用に作られたパッケージらしい。用例はexample(joinpoint)で。
- 昼飯は工学部の食堂でカツカレーを食べた。午後は東北地方の人口についてのシンポジウム。ドラゴンズが負けたというニュースをスマホで見て悲しかったが,悲しみに浸っている暇はない。
- 総会と会長講演(形式人口学のすすめ,というタイトルで,Coale-McNeilの結婚モデルが一般化対数ガンマモデルと数学的にはまったく同じ形になり,それをコンボリューションを使って2つの成分に分けると個人の行動のばらつきをモデルに入れることができるという話が実にエキサイティングで面白かった)の後,懇親会からラオス研究班の面々を中心とするグループで飲みに行き,日付が変わってからホテル(スーパーホテル広瀬通)に戻った。
- そのままベッドの上に倒れ込んで眠ってしまい,気がついたら4:40だった。朝6:45までが大浴場を男性が使える時間帯なので,大浴場に行ったら意外に混んでいたが,気持ちよく浴槽に浸かって部屋に戻り,メール送受信などしていたら7:00を過ぎた。荷造りをして1階に降り,バイキング形式だけれども質/量ともに十分な朝食をとってからチェックアウト(とはいえ,スーパーホテルは何も手続きはいらないが)。地下鉄仙台駅まで歩いてから東西線に乗って青葉山へ。8:10頃着いてしまったので,9:00のセッション開始まで控え室で待ち。今日は午前中は昨夜一緒に飲んでいた人たちによるラオスのセッション,午後は出生の生物人口学セッションを聴いてから仙台空港に向かう予定。
- ラオスのセッションは大変面白かった。詳細は時間があれば別途書く。昼は今日も工学部食堂でカツカレーを食べ,これから午後のセッション。以下メモ。
- まずは小西さんの主旨説明。目標=少子化の生物医学的機序の解明(不妊の少子化への寄与,不妊の発生率・リスク因子の推定,等)。近接要因に着目した研究と言える。Bongaartsの枠組み,Woodの枠組み。受胎待ち時間の構成要素in detail。このセッションは主に受胎待ち時間に関する話題で構成されている。
- 「母親の人口学的特性と児の低出生体重」:低出生体重増加。37週以降に限っても低体重出生は増えている。ネット調査のデータを使って,出生体重が範囲外(?3SDを超える? 意味が良くわからない)450人等を除外した後,4209組の母親と第1子のデータを解析。ロジスティック回帰。2500 g未満を目的変数として分析(1500 g未満とかは見ないのか?)。在胎日数,妊娠直前の母親のBMI,母親の年齢,身長,喫煙歴(「やめた」が低リスク→それ以上のデータは無いが,たぶんhealth consciousnessか何かのsurrogate measureと思う),学歴(大学以上が低リスク)が有意に影響していたという結果。出生年は有意差無し(ピリオド効果無し)。
- 「出産後の性機能回復と追加出産意欲」:今は立ち会い出産が半数以上。男性のホルモン変化の研究も最近は海外ではされている(唾液などで)が,今回は質問紙(女性FSFI,男性IIEF)。カップルでデータが取れたのは127組。回収率は23%だが,わりとどぎつい質問紙なので仕方ないか。結果として,男女とも産後1ヶ月,3ヶ月で低く,男性も6ヶ月,12ヶ月が妊娠初期と同じくらいの水準。経時的比較(中央時点との比較?→1ヶ月時点との比較とのこと 多重性の調整は? と尋ねたらしていないようだった)はWilcoxonでなくFriedmanかRepeated Measures ANOVAでやるべきだろう。立ち会いしない男性で性機能が有意に低かった(たぶん立ち会いが要因なのではなく,selection biasというか,surrogate measureだろうが)。FSFI26未満,IIEF15未満を性機能低下群と定義し,時点ごとに男女の組合せでLL〜NNの4群に分けた結果では男性Normalの結果は女性のLNに左右される。
- 「日本における夫婦間の性交渉の頻度と親密性の文化的脈絡」:妊孕力の決定要因でf=P1xP2xP3xP4でP2は性交頻度で文化が強く関わる。P1は0.95,P3は0.95,P4は0.5で,概ねbiological。1月経サイクルにおける性交回数は4-11回(1.25-2.9回/週)。子供が欲しい人の性交渉の頻度は? Moriki et al., 2014発表済のデータでは,子供が欲しいカップルでも週1回以上の頻度でしているのは20代の36%,30代の20%しかない。WHOと日大人口研の2007年の全国調査仕事と家族。20-59歳の男女計9000人。層化二段抽出。週1の壁? なぜ夫婦間の性交渉が不活発なのか? 長時間労働? 労働形態? 婚前交渉の解禁? デート期間の長さ? 等々。Fricke (1997)に準拠し,夫婦間であまり性交渉をもたないという行動の背後にあるものを探る。データはフォーカスグループディスカッションからの書き起こしテキスト(2009セッション男女各24名,2013セッション男性12名女性13名)と半構造化インタビューからの書き起こしテキスト。3歳未満児について川の字就寝賛成が9割というのは日本の特徴。Moriki, 2017では面倒くさい,年齢的に必要ない,という語りが得られている。添い寝は部屋が足りないのではなく,添い寝という価値観は積極的な選択。米国では添い寝は異常な扱い,下手をするとDV案件。日本では幸福感の源。妊孕力の計算は,ランダムに(自然発生的に)夫婦間の性交渉が発生することを前提にしているが,日本では成り立たないかも。
- 「就業二極化と性行動:無業と長時間労働の影響」:若い人が長時間労働と無業に二極化している問題。性交頻度は正の,避妊具使用は負の影響を出生に与えていたという地域相関研究あり。今回分析するのはJGSSデータ。2000年と2001年に過去一年間の性交頻度を週4回以上からまったくなしの多段階選択項目として設問。この項目は評判悪くて2年間で終わった。半数近くは「回答したくない」。様々な社会的要因のデータが同時に取れているのが利点。働いている人は無業の人より性交頻度が上がるという。就業者に限ると長時間労働は性交頻度を下げることもクリアに出た。職務内容を操作変数とした解析をしても,労働時間が長い方が性交頻度は下がることがわかった。このデータ自体は2000年と2001年のものだが,現在でも状況は変わっていないので同じ結果になると思われる。自営部門の縮小の影響もありそう。なるほど。
- 「妊娠確率と性交のタイミングに関する予備的解析」:背景としては近年の日本における不妊の増加。年齢が上がると受胎待ち時間が延びる。たぶん性交頻度が影響している。では逆に性交頻度とタイミングを変えたら年齢上昇に伴う低下を軽減できるのか? 20-34歳の出産歴が無く避妊をしていない女性が対象。排卵日検査はLHサージを調べる試薬で(排卵日の6日前から翌日までの1週間を受胎可能期間として解析)。妊娠チェックはEPFとかhCGじゃないのか? 自覚したか否かだけ? それとも妊娠検査薬? 膣内射精ありなし別に性交頻度を聞き取った。ロジスティック回帰分析で目的変数は妊娠の有無。N=80。うち半年以内に妊娠したのは35名。説明変数はBMIとか調査開始時点での避妊を止めてからの経過時間とか。BMIは18.5未満で妊娠した人が多かった。排卵日の1日前の膣内射精ありの性交と,膣内射精無しの性交ありが妊娠の有無に有意に効いていた(N=367月経周期)。男性の年齢は調整していない(が,全員45歳未満であった)。
- 「生殖補助医療と出生率」:資料はいまならwebからダウンロード可能。ARTによる出生は急上昇中。4.7%は世界でもかなり高い方。年齢別ART出生割合(2014年)はinformative。30歳代後半がART総治療率のピーク。総出生に占めるART出生の割合は40-44歳がピーク。2008年から2014年のTFRの増加分のうち63%がARTによる出生による(その計算でそう言っていいのか? 分母と分子はあっているが,重みなしでよいのか?)。ART出生はどこまで延びるのか? ニーズがあるケースにすべて適用するとTFRが2.7まで行くという試算。
- 討論1:南山大学水落さん。LBWについて学歴の影響のロジックが不明(身長の方がもっと不明だと思うが)。同類婚による経済状態おsurrogate measure? 喫煙についてはやはり健康意識のsurrogate measureではないかというご意見(たぶん,止めた人に何故止めたかを聴いておけば良かったのだと思う→返答としては,行動変容できるということ)。小さく産む進化? 労働時間の影響について枠組みがどうなのか? 最適労働時間がありうるのか? AIなんてなくても,その程度ならORでできると思うが。
- 討論2:静岡大学白井さん。養子縁組を含む生み育てにかかわる問題を研究している。今回は出生につながる妊娠を扱っているが,中絶を考えるべき。今回のデータに入ってこない海外での卵子提供によるARTは50代の人が多く,それを考えると今回のデータとは違うことがみえそう。日本のこれまでの経過をみると,未成年の養子を迎える数は減少。同じ分だけARTでの出生が増えた。児童養護施設にいる子供の数は増加。他人の子供は育てなくなったともいえる。不妊治療中の性交について医師に管理されるので意欲が減退するという声は多い。ジレンマ。昭和期のセクソロジー調査では都市部も農村部もほぼ毎日性交していた。Tsipy I (2009) Stu. Med. Anthropol.日本の妊婦の「体重管理」傾向で喫煙を止めた人が妊娠確率が上がったことが説明できる?
- 現代における時間感覚の変化はとても重要,と玄田さんが言ったが,同感。家族は経済的合理性なんか考えてないというのも同感。
- 欧米に比べて日本は男性の自慰行為に罪の意識がないという視点はそうかも。佐藤さんのいう生身が嫌いなのかも? というのは,養老孟司さんの脳化社会論で説明できるかも。横にいる人(近くにいる他人)の存在の変化の影響。産婦人科医はART中の性交を控えるように指導する人が多い。
- 以上メモ終わり。地下鉄東西線で仙台駅へ着いたのは17:30頃だった。ちょうど仙台空港行きの電車が出てしまったところで30分近く待ったが,JRで仙台空港へ。ANAで伊丹への空路は今日も順調で5分早く着いた。蛍池と十三と高速神戸で乗り換えて帰宅。大変スムーズな乗り継ぎだったが,家に着いたのは22:00を過ぎていてサンデースポーツの途中だった。ドラゴンズが勝って,今週も3勝3敗で乗り切れたのは良かった。
- Twitterから2つめも。WIREDの人工子宮の記事は,今日の午後のセッションでディスカッションされていたことと合わせて考えると非常に重要。テクノロジーはhumanityを変えることがある,というのは当たり前のことだが,人類はいったいどこに進もうとしているのだろう。
- 古い記事だがLisa Winterさんがtweetしていたので知ったList of useful packages (libraries) for Data Analysis in R。
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