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【第306回】 研究デザインの相談に乗ったり追試問題を作ったり(2020年2月7日)
- レトルトカレーとレトルトご飯とトマト1個とはるみ1個で朝食を済ませ,名谷キャンパスに出勤。他研究室の院生の質問紙調査のデザインについて,指導教員とともに来室されたので40分ほどディスカッション。知りたいことが複雑なので,構造方程式モデルかマルチレベルモデルでないとダメそう。かつ,その内容と対象者であったら郵送法ではたぶんダメなので,数が減っても訪問して留置回収する必要と,場合によっては対象の限定をしたら良いのではないかと説明したが,正しく伝わっただろうか。
- クルーズ船の乗客中,新たに検査結果が判明した171名のうち41名が2019-nCoV陽性だったという厚労省のリリース。クルーズ船で検査を受けた合計273名のうち,61名が陽性だったということで,濃厚接触がなくてもかなりの確率で感染が広がる(追記:または,これまでの推定よりR0が高い場合がある)ことは明らかになったといえるだろう。封じ込めの難しさが明らかになった。
- 今夜から長野に帰って,土日は庭木を切り倒さないといけないのだが,追試問題作りは長野で夜の間にやるしかなかろうなあ。
- 沖縄での検疫強化というニュース。日本国際保健医療学会西日本地方会の共同世話人の一人である垣本先生の写真が出ていた。検疫官を含め現場の人は大変なので,メディアは,こういう人たちが雑音に邪魔されず仕事しやすい環境を作ることに気を遣って欲しい。
(変異してさらに感染力が強いウイルスが広まること)それ自体はありうることです。一度感染すれば免疫ができ,かつ変異前のウイルスに対してもその免疫が有効ならば(cross immunityがあるならば),感染力が強い(おそらく患者の症状が軽くて動き回るからと考えられるため弱毒な)ウイルスの方が早く広まる可能性もあります。
ただし,2019-nCoVについて,感染後免疫がどれほどか,まだはっきりわかっていません。もし治癒後も再感染するなら,感染力が強い変異が起こっても,そちらが広まることと,現在の2019-nCoVの広がり方はほぼ無関係です。ましてやcross immunityについては変異が起こってみないとわかりません。この両方の条件を満たす可能性はあまり高くないと思います。
(…中略…)今回,感染力としてR0は1.4-2.5くらいで(人の集団の中で感染が継続するには1よりは十分に大きく),これが例えば4とか5であるような変異ウイルスが出現するとしたら感染拡大速度は高まりますが,そのメカニズムとしては,不顕性で排出するウイルスの量が多くなることによる可能性が高いと思われます。が,単位時間内にたくさんのウイルスが出るとしたら宿主に負荷がかかるので症状も出やすくなるはずなので,それはありそうになく,不顕性の時間が長くなるか割合が増える可能性しかないので,定義により弱毒化していることになりますから,感染力が高まることについては,あまり警戒しなくても良いのではないかと思います。
むしろ,現在メカニズムは未知ですが,不顕性感染者のうち重症化する確率が増えるような変異が起こる方が,IFRが上がるので被害は大きくなる可能性があって恐ろしいと思います。
とメールには書いたのだが,この記事の最後の2行のようにまとめられてしまうのか……。最初の「どういう人が肺炎へと移行し重症化するのかまだわかっていない」は,確かにそう伝えたが。
- 速水融『歴史人口学事始め――記録と記憶の九十年』ちくま新書,ISBN 978-4-480-07299-3(Amazon | honto | e-hon)が届いた。自叙伝にして遺作。斎藤修先生の解説が泣ける。鈴木継美先生の『人類生態学の方法』もそうだが,新しい学問を拓くパイオニアワークはメチャクチャに面白い。読んで損はない。というか必読書。
- こんな状況でネットワーク管理の書類仕事を催促されたって対応できるわけがなかろう。ただ放置では気が引けるので,多忙のため当面できませんという返事を打っておいた。
- ソロモン諸島の研究者仲間からの情報によると,1例でも新型コロナウイルス陽性者が出た国から,PNG経由でソロモン諸島へ入国することができなくなったそうだ(ここの情報によると,ヴァヌアツの方がまだ若干規制が緩そうだ)。ブリスベン経由なら今のところOKらしいが,今後どうなるかわからない。ミクロネシア連邦は緊急事態宣言を出していて,ここに書かれているように,日本から行こうと思うと,入国前に非汚染国で14日以上滞在する必要がある。SIDS(外務省の説明)に含まれている太平洋島嶼国は,全身管理ができるような医療資源が整っているところは少ないので,本気で侵入防止するためには,症状の有無を問わず潜伏期間が過ぎるまで安全なところで待機,というのは合理的な対策のような気もするが,ハワイとかグアムがいつまで患者ゼロを保てるかは不明だし,保てなくなったとき安い米やラーメンの輸入が止まっても食糧不足に陥らないのか,という対策を各国が考えておく必要があるだろう。WHO西太平洋地域事務局(WPRO)の公式ジャーナルWPSARが2019-nCoVのSpecial Issueを出すということで,Call for Papersが出ていたが,たぶんこういう視点での論文も必要なはず。
- Lancet Infectious DiseasesへのCorrespondenceで,Rが2.2という推定なら半分より少し多くの感染を防げばRを1未満にでき,もし症状が出る前に感染力があるのが本当ならそれは困難だけれども,その証拠はあまりなくて,仮に感染の20%が発症前の患者から起こっているとしても,80%の症状がある人を素早く隔離すればRを1未満にするのは可能だろうから,早期発見と隔離を効果的にやればパンデミックは防げるだろう,という意見が出ている。西浦さんたちの第2報では
感染の半分が発症前の患者から起こっていて(20200229削除),不顕性の患者は発症した患者の10倍いてもおかしくないとされているのだが,読まれていないようで触れられていなかった。NEJMとScienceとProNASしか引用されておらず,JCMは(IFは5以上あるのだが)publicityが不十分なのだろう。しかしクルーズ船での陽性者数を見ると,このCorrespondenceは甘いと思う。
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