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【第328回】 クラスター発生を予防できる可能性(2020年3月3日)
- 何だか軽く受け止められているが,「主な参加者が10代から30代である」(←注:この点は専門家会議の発表に基づいた推測で,詳細は論文待ち)「風通しの悪い空間」「人と人が至近距離で会話する場所」というクラスターに共通する特徴を見つけ,それを避けるように,と呼びかけることの意味は,クラスター発生を予防することにある。人々がこれを守ってくれないと効果は出ないし,守ってくれても,潜伏期間があるので,新規感染者数の減少という形で効果が見えるまでには1~2週間かかる。もちろん,クラスター発生を見つけて積極的疫学調査で接触者追跡し,感染者を隔離していくことも,感染拡大防止のためには重要だし,それも必死になされている。しかし,クラスター対策班の真骨頂は,クラスターに共通する特徴を見つけることにあったのだ。クラスターの連鎖でR0が高まるからクラスター対策すればR0<1にできるかも,という可能性は2月15日に発表された論文で示されていたし,パンデミック予測をしたProf. Lipsitchもわかっていたが,それでもパンデミックを防ぐのは難しいだろうとしていたのは,クラスターに共通する特徴を見つけてクラスター発生を予防するという発想がなかったからだと思う。ぼくもこの発表があるまで気づかなかったが,最初からそこまで読んでやっていたなら,前から天才だとは思っていたが,西浦さんは本当に凄い。メディアに数字が入っていないグラフだけ紹介されている研究は,それを考えたシミュレーションだと思う。NEJMとかJAMAとかLancetに投稿中なのではないだろうか。JCMもIFが5以上はあるが,あの結果が出たなら,ぼくだってトップジャーナルに投稿したくなるし,海外の多くの理論疫学研究者が無視できない成果となるためには,トップジャーナルに載せなくてはいけない。たぶん欧米もこのやり方に追従することを検討し始めるはずだし,本当に2週間後に北海道のエピデミックカーブが終息に向かっていたら,COVID-19に対して大きな希望となる。
- このことを対策班が強く言っていないように見えるのは,やったとしても成功するとは限らないので,失敗したときの反動が怖いからだろう。モデルは完璧では無いし,ヒトの行動も理屈に合わない場合も多々あるので,仮に失敗してもクラスター対策班への信頼は失わないで欲しい。川端君の『エピデミック』に出てきたフィールド疫学者グループのように,彼らは確率の雲の中で踏みとどまりながら最善手を探して対策を取り続けているのだから。
- 首相周辺の暴走に過ぎない全国一斉休校を,やらないよりは感染防御になるだろうとか,他国はやっているとか,社会へのインパクトがあったので価値があったと賞賛するコメントを見かけるが,すべて間違っている。まず,インフルエンザとは違い,小学生が広げている可能性は低い。行動範囲がほぼ近隣に限られている小学生集団では,仮に1人の感染者が入ったとしても,他校に広がる可能性はほぼないので,感染者が出た時点でその学校だけ休校する方が感染拡大防止には合理的である。また,小学生は風通しの悪い場所で至近距離での会話を好まないのでクラスターを形成しにくいと思われる。さらに,ある程度席間が開いていて,授業していれば勝手に隣同士で喋ったりすることはある程度抑制できるが,自由登校で自習とか,学童保育に朝から行けるとかしてしまったら,感染者が1人いた場合に感染拡大するリスクはむしろ上がってしまう可能性がある。やるなら完全に休校して人と人の接触を減らさないと逆効果である。COVID-19で休校が感染拡大防止に役立つなどという研究は,ぼくの知る限り存在しない。インフルエンザとCOVID-19は感染症としての特性がまったく違うので,インフルエンザの知見を利用可能と思い込んでしまうのは大きな誤解である。次に,全国で1ヶ月も休校を続けているのは中国と香港だけだし,他の社会活動制限も強化されているので,流行が終息に向かっているように見えても,休校が感染制御に役立っているという証拠はない。イタリアでもアウトブレイク中の場所だけ休校だし,台湾の新しい休校基準でも,アウトブレイクになるまでは休校の判断は学校単位でなされる。社会へのインパクトは,間接効果として在宅勤務しやすい環境がもたらされたというプラスもあるが,それができる職種や規模は限られているし,全国一斉休校しなくても,在宅勤務を推奨してそれをした企業に補助金を出すことでも可能なはずだ。有給休暇以外の休業補償を100%(ただし日額上限8000円ちょっと)出すという今のやり方だと,安倍政権下で増え続けた非正規労働者が救われない。それに,根拠がなく結果の評価もないアクションが賞賛されてしまうと,首相周辺が余計に調子に乗って暴挙を重ね,緊急事態宣言ができるような立法とか改憲とか言い出す(既に言い出している)。さらに,この暴挙を専門家委員会やクラスター対策班や感染研の活動と結びつけた誤解やデマを広げる人が存在し,それに煽られた市井の人々が,この件とはまったく関係がない専門家委員会やクラスター対策班や感染研への信頼を失うという事態が起こりつつあるので,その意味でも首相の暴挙はマイナスでしかない。専門家委員会が何もしていないという誤解も見かけるが,専門家委員会はちゃんと活動している(第1回会議後の座長発表は失礼ながら酷かったが,それ以後は尾身先生や押谷先生が説明するようになって,情報発信面でも改善された)。専門家委員会の意見を求めすらせず,首相の独断で全国一斉休校要請を出したという暴挙でもわかるように,政策実施権力をもつ首相周辺が専門家委員会の提言を聞く耳をもっていないことこそが問題なのだ。今回やっと厚労省が専門家の意見を聞いてアクションをとってくれたのは,その意味でも大きい。
- マスクが品薄という問題だが,クラスター発生中以外は,症状がなければ,どうしても至近距離での会話をしなくてはいけない時や,近くに咳をしている人がいるような場合を除き,する必要はないのだ,ということが共通認識になれば,品薄は解決するのではないか。トイレットペーパーすら店頭から消えるのは,たんなる群集心理で,マスクが品薄になる原因としては,必要ないときまでするから,という側面があると思う。ぼくは今のところ普段はしていない。
- 7:00起床,豚肉と原木椎茸とナスとほうれん草をオリーブオイルで炒めて適当に味付けし,納豆ご飯と合わせて朝食。可燃ゴミを出してきた。今日も仕事は昨日の続きで,時差出勤する。
- 北大の学生への通知。専門家会議の北海道在住者宛のメッセージと同様だが,地域クラスターが発生したら,たぶんどこの大学でもこれをやらなければならないだろう。
- 神戸大も全学の学位記授与式は中止という通知が来た。学部ごと,研究科ごとの対応は未定。
- クロ現プラスは,西浦さんのところまでは良かったが(アナウンサーがオッズ比11の出し方を尋ねてくれたらもっと良かった),大阪でCOVID-19だとしたら市中感染したらしい若い女性が,38℃以上が6日続き肺炎で医師が鑑別のため検査を依頼しても断られた映像は,2月29日の「かんさい熱視線」の使い回しだった。そのときも書いたが,これは当然検査すべきだし,こういう事例がどれくらいあるのか,医師会ごとにデータをとって公表すると,未検査のため見逃されているケースがどれくらいあるのか見積もれるはず。次の和歌山の例はクラスター対策のための接触者追跡をしての検査だからまったく意味が違っているのに,そこに触れず,偽陰性の話もせず,優先順位をつけて広く検査すべきという筋にもっていった賀来先生には失望した。
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