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- 1. Nakazawa M "Global situation and epimiology of malaria"
まず,Knellの本など基本文献からマラリアとはどんな病気か,原虫と媒介蚊は何かについて説明した。
次に,WHOのWorld Malaria Report 2019,Weiss DJ et al. 2019のLancet論文で,世界のPfの有病割合,罹患率,死亡率の時空間分布を示したもの,Battle KE et al. 2019のLancet論文で,同期間のPvの時空間分布を示したものに基づいて患者数と死亡数の近年の傾向を説明し(最後の論文のKatherine E. Battleという筆頭著者名を見て,「オンブラ・マイ・フ」を大ヒットさせたKathleen Battleを思い出した。たぶん何の関係もないが),防御方法にはどういうものがあるのかを紹介した。ここで十数年前まで増えていたのはクロロキン耐性が増えていたことや,そこからの減少傾向はACTの普及(と,たぶん殺虫剤を練り込んだ樹脂で作られ殺虫剤が徐々に放出されるタイプの蚊帳の普及)によることも説明しておくべきだったが,入子先生がプレゼンの中で説明してくださって良かった。
最後に,20年以上前にソロモン諸島でやった研究でヒトが確率的に蚊の刺咬を避ける行動を取ると原虫陽性割合はどうなるかというシミュレーションを紹介した。
- 2. Dr. Saiwichai T "Malaria studies using bird model"
ヒトに感染するマラリア原虫5種とは違う,鳥類に感染するマラリア原虫が4種(P. gallnaceum [以下Pg],P. relictum,P. elongatum,P. juxtanucleare)いて,主にPgであること,タイでは池の上に鶏舎を作って,こぼれた餌や鶏糞が池に落ちてナマズやティラピアの餌になるという,養鶏と養魚の複合型の施設が多く,トリマラリアの流行は鶏に貧血を起こしたり,肝臓や脳にも感染すること,ハマダラカしか媒介しないヒトマラリア原虫と違ってイエカやヤブカも媒介すること,といった基礎知識がまず説明された。
次いで,5カ所で集めたPgの研究について具体的に紹介された。鶏に皮下注することでゆっくり増殖させられるのだが,生殖体が接合して有性生殖をするのは蚊の体内なので,感染した鶏をネッタイシマカに吸血させ,蚊を解剖してPCRで原虫DNAを増やし感染確認するということや,鶏の血液から原虫を分離するには4段階も遠心が必要とか,Multiplex PCRでPgが感染した蚊,感染していない蚊,感染した鶏の血液,感染していない鶏の血液,ヒトに感染するPfを混ぜたサンプルでDNAを増やすとPgが感染しているサンプルでだけバンドが確認されること,などラボのテクニックが説明された。
最後に,この鶏マラリア系で,ヒトのマラリア治療薬の影響をみた話が紹介された。鶏を実験に使う利点は,ヒトと違って実験的に原虫に感染させられることで,そのおかげで治療効果の研究の効率が良い。artesunateやtaefnoquineは低濃度でも有効だが,濃度を上げると生殖母体ができなくなるらしいことが説明された。ビタミンCサプリとか伝統的な薬草から作られた錠剤を与えると,Pgが増えたり長く生存したりするというのは興味深かった。たぶん抗酸化作用が原虫の生存に好都合なのだろうという説明であった。
- 3. Dr. Iriko H "Malaria vaccine"
ACTによってマラリア患者は減少傾向だが,2008年にはカンボジアで4種のACTをやっても治療に失敗するケースが出ていることから,ワクチンが必要,という導入。現在の対策の主流はITN,IRS,スクリーニングとACTだが,ワクチンはそれらのアクションから取り残された人にも届けることができる,というのも重要な点。
これまで長い間ワクチン開発しようとして失敗続きだったが? という懸念に対して,PNGのマラリア常在地では10歳以上ではマラリアで死亡することがなくなるし成人は滅多に掛からないから獲得免疫があるはずだし,スポロゾイトに放射線を当てて弱毒化したワクチンを26人に投与してから感染実験をしたら24人では感染しなかったという実験もあるので,ワクチンは夢ではない,という話。
ワクチンへのアプローチは3つあって,(1)赤血球に入る前に叩くものとして,Mosquirixというものが第3相試験され,efficacyは乳児で26%,幼児で36%だったが,マラウイなどでパイロット試験中,(2)赤内型を叩くことで発病抑制することを意図したワクチン候補はAMA1という原虫が赤血球に侵入するときに必要な分子を標的とするものが試されたが抗原多型のため無効だったのと,阪大の堀井先生が開発したBK-SE36がウガンダで第2相試験計画中,(3)血液とともに蚊の体内に吸い込ませることで生殖体や接合体を標的に作用する伝播阻止ワクチンとしてPfs25があるが,どれも欠点もあるという話。
最後に入子先生が参加しているプロジェクトで開発中のワクチン候補の話。この辺の話はまったくフォローしていないところだったので,大変興味深かった。
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