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【第311回】 成績評価の続き(2020年2月13日)
- 生パスタを茹で,鶏ささみとオリーブを炒めてトマトバジルソースで和え,粉チーズを振りかけた朝食をとって出勤。今日は成績評価を進める。飽きたら原稿を書く。急ぎの仕事が入らなければ,だが。
- De Salazar PM et al. "Using predicted imports of 2019-nCoV cases to determine locations that may not be identifying all imported cases."(2020年2月11日掲載)は,中国以外での2019-nCoVによるCOVID-19症例が中国からの一日当たり旅客数の線型モデルで表せるという仮定と症例報告数がポアソン分布に従うという仮定に基づいたモデルを当てはめた結果,タイの症例数とインドネシアの症例ゼロという値が回帰モデルの予測区間より下に外れることを示し,タイを除いた当てはめ結果でもインドネシアは下に外れることから,未発見の症例があるのではないか(推定患者数は5人)と論じている。この研究グループのリーダーは,インペリアルカレッジのProf. Neil M. Ferguson,北大の西浦博教授と並んで活発に感染症疫学研究を展開している,ハーバード大学SPHのProf. Marc Lipsitchで,1月28日に,感染症疫学における鍵となる課題と用語についてQ&A形式で提供した連ツイがtweetorialとしてハーバードSPHのサイトにまとめられていて参考になると思う。とりあえずざっと訳しておく(訳が変だなと思ったら原文をご覧ください)。
- このアウトブレイクは,いつ,どうやって始まったのか?
- nCoVのウイルス自体の解析から,2019年11月か12月に人に感染し始めたことが示唆される。ウイルス間の相同性から,動物から人に感染するようになったウイルスが1つかごく少数であることが示唆される。
- 人々の旅行歴と曝露のデータと組み合わせると,ゲノムデータは輸入症例と国内感染例を区別する助けになる。中国以外の症例の大半は輸入症例だが,国内感染が報告され始めている。
- 患者数はどうやったらわかる?
- 鍵となる情報源は医療施設と政府当局からの報告だが,アウトブレイク当初はたとえ診断が迅速に利用できても(nCoVについてのように),総患者数ははっきりしない。
- アウトブレイクの流行中心地(武漢)で多くの患者が見逃されているけれども,海外旅行者ではほぼ100%検出されていると仮定すると,旅行者の症例発生率を一日当たり旅行確率と検出までの平均時間の組み合わせが,流行中心地における総患者数の推定に使える。
- 症状を呈している集団の(理想的な代表的な)サンプルの検査を含む積極的サーベイランスは,総患者数の推定に使える。
- R0は何を意味していて,それで何がわかるのか?
- R0即ち基本再生産率または基本再生産数(訳注:かつては率としている教科書や論文が多かったが,最近の理論疫学では,数とするのが普通)とは,ある病原体がどれくらいの感染力をもっているかをまとめて示す値である。
- R0は,全員が感受性である集団に1人の患者が入ったときに,その患者から感染が起こる平均人数である。もしR0>1なら感染者それぞれから1人より多い人への感染が起こるので,流行が起こる可能性がある。
- R0は,現在感染している人々の総数については何の情報ももたない。病気の重症度の尺度でもない。たんに平均して1人から何人に感染が起こるかを教えてくれるだけで,その感染がどれほど重症化するかについては教えてくれない。
- アウトブレイクの開始時点では,限られたデータに基づいて推定するので,推定が難しい。
- どうやってアウトブレイクを封じ込める? 封じ込めを難しくしたり容易にしたりするのは何?
- ワクチンや治療が利用可能になるまでは,薬剤によらない介入に頼るしかない。それには,症状のモニタリング,隔離,検疫のような,(患者と非患者の)接触を減らすための方法が含まれる。
- 発症前あるいは症状がない状態で感染力があると,制圧は難しくなる。伝播が起こる前に同定されていなかったり,あるいは完全に見逃されている患者からでも感染が起こるかもしれないからである。接触者の検疫によってこの影響は減らせるかもしれないが,実現可能性と社会的自由という対価を払わねばならない。
- 新しい感染性病原体の重症例から軽症あるいは無症状の患者まで多様な臨床像全体を理解することが,なぜアウトブレイクへの公衆衛生対応に関連しているのか?
- 入院や潜在的な致死につながるかもしれない重症例は,もっとも見つかりやすいし報告されやすい。無症状あるいは軽い症状の感染者は知られないままになりやすい。もしこれらの人(訳注:無症状や軽症の患者)が伝播に寄与しているなら,アウトブレイクの制圧は,より難しくなる。
- 他方,もし軽症や無症状の患者が多くても,伝播にあまり寄与していないなら,ケアを要する患者数が減るし,感染したことによって少なくとも暫くの間は再感染に対する免疫が与えられるので,軽症や無症状の人は制圧の助けになるだろう。
- 昼は簡易炊飯器で十六穀米を炊き,混ぜご飯の素を入れて混ぜて食べた。思ったより時間が掛かったが,美味しく炊けた。
- 元町のONE'Sで買ってきたトラジャを挽いて淹れたが,美味いなあ。やはり焙煎後の日数が短いと香りが違う。
- 成績評価はあと3科目。国際保健と公衆衛生実習と環境保健学特講。
- moraで購入したハイレゾ版『Bright New World』をリピート再生しているのだが,「Symphony」は最高である。とくにアサヒが「一輪の花」と入るところ。何度繰り返して聴いても飽きない。2番頭のmanakaの裏で「ハァッ」とか「ウッ」とか低音を響かせているのは男性コーラス? いくらかれんでもあの低さは出ないよなあ。また,ワイヤレスイヤホンでは聞こえない音が多いということが,激安なんだがUSB-C接続のイヤホンで聴いたらわかった。しかし何といっても,ハイレゾ版には通常盤2枚目CDに入っているライブ音源4曲も入っていて,これが絶品過ぎて新曲が霞むくらいだったことが印象的で,やはりリトグリはライブアーティストなんだよなあと思った。
- ミーティングはまだわりと茫漠とした研究計画の発表。疫学的なセンスから,もっとフォーカスを絞って計画を整理した方が良いとコメントしてしまったが,もしかすると絞らない方が面白い結果につながるかもしれないので,言い過ぎたかも。研究として成立するかどうか,というか,論文書けるかという縛りを強くしすぎると,もしかしたら遠い将来には面白い研究になるかもしれない芽を摘んでしまうリスクもある。
- ただの風邪という臨床医の言うことを信じる一般人が,手洗いなどできる防御への熱意を失うことで感染速度が上がることがまずいので,矢原さんがtweetされたことは的外れと思う。そう反論しておいた。
- 岩田健太郎先生のブログ? 記事だが,リンクが辿れているという前提でしか検査していなかったことによる報告漏れと潜伏期間の長さを無視しているのであまり意味のない計算と思う。
- 今日の散発的な報告例(厚労省のサイトにはまだない)から考えると,既に市中感染が起こっていてリンクが辿れなくなっている可能性は高いが,それでもなお,人混みを避けることや手洗いを励行することの継続によってRをできる限り下げ,ピークの高さを下げ時期を遅らせることが重要。
- 日付が変わる頃帰宅し,録音してあったミューズノートを聴いた。今日は予想通りmanakaが一人で担当。お題は「夜に聴きたい女性アーティスト」で,日本の女性シンガー縛りの選曲。
- AAAMYYY『MABOROSI WEEKEND』から「MABOROSI」(AAAMYYYさんがCAを目指していたカナダ留学中に急に音楽に目覚めてSSWになったという経歴を知って,自分も今からでもできるかもと思ったというmanakaだが,Liveのソロコーナーでループマシンを使って音をリアルタイムで重ねていくという離れ業をやっていたので,たぶん頭の中に音像空間ができていると思うし,作曲や編曲もできると思う。高校で英語の先生をやっていたのに歌手となってからDTMに目覚めて,いまではプロデュースもたくさんやっているSAWAみたいな人もいるのだし)
- 佐井好子『胎児の夢』から「遍路」(1975年の作品。このアルバムはルパン3世で有名な大野雄二のプロデュースによる)
- いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー「バレンタイン・デー」
- 青葉市子「ココロノセカイ」
- 中納良恵「あのねほんとうは」(YouTubeのLive動画)
- Little Glee Monster「Classic」
- ぼくは医師でも放射線技師でもないから画像の見方は知らないし,この件はあまり自信はないが,武漢での病院の検査データから,肺炎を検出できるのは高解像度なCTでも半分強,普通のレントゲンでは1割ちょっとという報告も出ているので(流行初期に出た論文でもX-rayでは陰性だったという症例は多数あった),患者との接触の心当たりがあって38℃以上の発熱が続いているのに普通のレントゲンで肺炎の所見がないから2019-nCoVの検査をしないという医療機関(に対応した保健所?)の判断は不合理と思う。せめてCTを撮るべきではないのか。
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