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【第313回】 成績評価完了させたい(2020年2月15-16日)
- オセアニア学会の年次大会を予定通り開催して良いかどうかというメール相談が来たのでコメントしたら,理事会の議論に加わることになった。小規模だし,ほぼ顔見知りしか参加しないので,現時点での判断としては,十分な注意を払えば開催しても良いと思う。
- 官邸の新型コロナウイルス感染症対策本部で,2月14日に開催された第9回会議(議事次第と資料)で,漸く専門家会議の招集が承認された。構成員は決まったが,まだ会議自体は行われていない(Skypeなどオンラインでいいので迅速にやった方が良いと思う)。東北大学の押谷先生がメンバーに入っているので,専門家として必要なことを主張してくださるだろう。政府は専門家の発言を正しく受け止めて必要な対策をとってほしい。できれば,C型肝炎を専門とするウイルス学者である脇田先生よりも,尾身先生か押谷先生が座長をされた方が良かったと思うが。
- 土曜も日曜も寝坊してメールの返事を打ちながらブランチを食べ,午後は名谷キャンパスに出勤して成績評価の続き。土曜は終電で帰ったが,日曜はもう少し早く帰りたいと思っている。
- ハーバードSPHの感染症疫学のMarc Lipsitch教授が,パンデミックの結果,世界の人口の40-70%が感染するという予測(このtweetから始まる連ツイで理由を説明している)を出している。パンデミックが起こると予測する理由として挙げているのは,(1)既に中国の多くの場所と世界の多くの国で二次感染がかなり起こっている,(2)例えばSARSよりも感染規模は遥かに大きい,の2点で,まあそれはたぶんそうだろう。それどころか,既に(未検査の人も含めた確定診断がついていない感染者も含めれば)パンデミックになっていると言えるだろう。40-70%の根拠としては,単純すぎる数理モデルでR0が2-3という条件で推定される80-90%という範囲は現実的でなく,より現実的なミキシング(人々の混ざり方)を想定し,おそらく季節性の助けも借りれば,もう少し下がるだろうが,CDCが2007年に出したパンデミックインフルエンザの影響緩和のためにコミュニティがとるべき戦略についての文書(このFigure 1に挙げられている,コミュニティの緩和目標は重要。なぜ完全にはできなくても封じ込め努力も続けるべきかわかるはず)によると,1968年のパンデミックインフルエンザは世界人口の40%が発症し,1918年のパンデミックインフルエンザ(スペインかぜ)は30%と推定されているが,これらのR0は2019-nCoVより低いと思われる,という点を挙げている【注:Lipsitch教授は書いていないが,IFRが西浦さんたちが示した0.3-0.6%,あるいは有効な治療が見つかるか,他地域では武漢よりうまく全身管理ができると期待して0.2%まで下がるとしても(途上国では逆に全身管理がうまくできず救命可能性が下がってIFRが高くなる可能性もあるが),世界の人口の半分が感染したら,35億人×0.2%=700万人の命がCOVID-19で失われることになる。仮にインペリの第4報で示されているIFRが1%(0.5-4%)という値が正しいとすると,CDCの分類でカテゴリー4であり,死者3,500万人となってスペインかぜを超えることになる。それは絶対に避けねばならない】。Lipsitch教授は,続けて,40-70%が感染するシナリオを起こらなくするのは何か? についてもtweetしている。(1) 武漢の状況が他の場所の状況とはいくつかの点で本質的に違っている場合(その可能性があると信じる理由はないが)。(2) R0の分散が大きくスーパースプレッダーが存在した場合,武漢以外の場所では運良くR0が1未満になるかもしれない(Grantz K, Metcalf CJE, Lessler J (15th Feb 2020) Dispersion vs. Control.参照),もしそうならパンデミックは避けられる可能性が高い。Lipsitchのグループの論文に示したように,輸入症例が出ていてもおかしくないはずなのに未報告の国もある。(3) 準備期間が十分にあった国々で,対策手段がきわめて効果的に働く場合。そういう国は少しはあるかもしれないが,すべての国で可能とは思われない。(4) 現在予測しているよりも季節性要因が強力に伝播を減らす場合。しかし南半球の国には意味が無いし,中国の現状と合わない。以上4点の可能性が低いことから,Lipsitch教授は40-70%という予測を出している。同時に,予測は間違っているかもしれないし,そうなることを強く望んでいるが,準備はしておいた方がいい(Predictions can be wrong and I very much hope this is, but better to be prepared.),とも書いている。次のステップとしてできることは,患者追跡,さらなる伝播を防ぐための介入などの緩和方策(人道的な方法で安全になされなくてはいけないが,旅行制限なども含む)を通して時間を稼ぎ,治療法やワクチンが開発されるのを待つことだとも言っている。概ねその通りと思う。
- それにしても,厚労省も対策本部も動きが遅すぎる。青梅マラソン,京都マラソン,北九州マラソンのようなものもそうだが,岡山で行われた「はだか祭」のような伝統行事は,運営者の中に中止すべきと思う人がいても声を上げにくい空気があるだろうし,これまで開催のための準備を多方面で進めてきた努力を無駄にするなといったことを含めたさまざまな開催圧力があるので,何か強力な根拠がないと中止しにくい。当局が迅速に市中感染が起こっている状況を認め,少しでも感染拡大を遅くするために,マスギャザリングイベントはできる限り中止または半年くらいの延期をするように提言すべきだろう。専門家会議を16日夕方に開いてから状況判断するというのは,いくら何でも遅い。ビデオ会議くらいできるだろうに。
- Facebookに高山先生が書かれた記事と図は見やすいと思う。専門家会議の構成員名簿に名前は載っていないが,高山先生も招集されているようだ。
- インペリグループ第5報(2020年2月15日)は,SARS-CoV-2(2019-nCoV)の既発表53サンプルの遺伝子配列データを系統解析した結果から,これらのウイルスの共通祖先は2019年12月8日(95%CIが11月21日~12月20日)に発生したと推定されたと書いている。さらに,系統解析の結果と指数成長を仮定した集団遺伝学的モデルと整合性があり,さらにSEIRモデルを当てはめる際のIにおいて感染力に大きなばらつきがあるとすれば,2月3日時点までの感染者数は,R0の過分散の水準がどれくらいかによって大きく変わる,とも書かれていた。もしR0のばらつきが大きいなら,Lipsitchのtweetで40-70%のパンデミックが起こらない条件の(2)が満たされる可能性があるという意味で,多少希望がもてる報告と思う。
- 今日行われた対策本部の第10回会議資料(15分しかされていないので,厚労省提出資料のブリーフィングがされただけのようだ)。専門家会議の資料や議事録が出てくるのを待ちたい。
- 厚労大臣と専門家会議座長の会見動画を見たが,意思疎通が不十分だし,座長がC型肝炎ウイルスの専門家であるせいか,各専門家から出た話を未整理なままに羅列しただけであるために,会見内容が内部矛盾を含んでいてリスコミとしてダメダメな感じ。やはり座長は尾身先生か押谷先生がされるべきだった。
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