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【第323回】 時差出勤してCOVID-19の情報を整理してから原稿を書き,事務仕事をして,夜にはミーティング(2020年2月27日)
- 7:30起床。鶏胸肉とカット野菜をごま油で炒め,レトルト発芽玄米を電子レンジ加熱して,冷や奴を添えて朝食。メールの返事を打ってから名谷キャンパスへ時差出勤。
- いったん陰性になっていた大阪の女性や中国の初期の退院患者の14%で2019-nCoVが再度検出されたという話について,再感染と再燃の可能性があるという報道について。おそらく再感染の可能性は低いから再燃だろうという方が多いが,そうとも限らない。ヘルペスウイルスにはリンパ節に潜んで再燃するものがある(帯状疱疹とか)が,コロナウイルスではそういう性質をもつものは知られていない。もちろん,陰性になったというのが,リアルタイムRT-PCRの検出限界以下になったことを意味するだけで,そこから再び増える可能性はあるので,そういう意味での再燃はありうる。ただ,治ったら免疫がついているはずだから再感染はないだろうというのは早計である。自然治癒力で治ったからといって,液性免疫ができている保証はなく,細胞性免疫や非特異的免疫によって治っただけかもしれない。例えば,治療薬ができる前の熱帯熱マラリアはそういう病気だった。熱帯熱マラリア原虫は煙幕抗原を作ってホストの血中にばらまくことと,いくつかの異なる抗原性をもつ原虫が同時に流行していることから,一度治っても何度でも罹る(それを凌いで原虫本体を攻撃する抗体を作らなくてはいけないので,ワクチン開発がきわめて難しい)。また,B型肝炎ウイルスのように慢性化するウイルスには免疫寛容が成り立っているわけで,これもたぶんこれまでコロナウイルスでは知られていないが,ないとも限らない。もしそうだとしたら,あまりに最悪すぎるウイルスと言える。まあ,たぶん再燃なのだろうが……で,調べていたら,Zhang W et al. "Molecular and serological investigation of 2019-nCoV infected patients: implication of multiple shedding routes"という論文が2月17日に出ていた。鼻腔スワブで2度陰性でも,腸や血液には残っていて便中排出継続の可能性があるので,血清抗体検査の併用を勧めている。これが正しいなら,再発例は,腸や血液に残っていたウイルスが再燃したものと考えられる。テレビでコメントしている人たちは,この論文を踏まえて欲しいし,退院の基準を考え直さなくてはいけない。
- 2019-nCoVの検査施設は,感染研のマニュアルではBSL2+(BSL2施設の安全キャビネット内)となっているが,WHOはBSL3推奨。一つ興味深いことは,WHOのreferral laboratoryのリストを見ると,日本のreferral labは感染研ではなく長崎大の熱研になっているのだな。BSL3施設を備えたラボは多くはないだろうが,ウイルス学の研究をしているラボならどこでもBSL2施設はあっても不思議はないから,物理的には検査ができるラボはいくらでもあると思う。本当に感染研や地方衛生研究所の検査能力が足りないのに大学に依頼しないでいるのだとしたら,やはり守秘義務とか責任の所在とかいう話なのだろう。
- BioScience TrendsというジャーナルがSong P, Karako T "COVID-19: Real-time dissemination of scientific information to fight a public health emergency of international concern"というEditorialで,PHEICに対しては科学的情報のリアルタイムの拡散が重要なので,本誌は重要な論文を公開していく,と宣言している。クロロキンがvitroで有効性を示し中国で治験中という論文もこのジャーナルだったが,Wang Z et al. "Clinical characteristics and therapeutic procedure for four cases with 2019 novel coronavirus pneumonia receiving combined Chinese and Western medicine treatment"(2020年2月9日公開)も,4人の患者について新薬と漢方薬を併用した臨床報告のようだ。最悪シナリオを考えた場合,治療薬の開発は急務なので頑張って欲しい。
- クロ現プラスは2月18日にもCOVID-19をテーマにしていたのか。この回は見逃したが、リンク先に詳しい内容が載っているのは素晴らしい。1/28の回も詳しい内容紹介をウェブで見ることができる。ただ,できれば、この2つは動画で丸ごと公開してもらえないものか? 2/9のNスぺも併せて。
- クラスター対策,西浦さんのフェイスブックへの書き込みによると,既に1か所目のミッションは終わったらしい。そこでRt<1にする局所封じ込めに成功していれば今後に期待を持ち続けることができる。逆に失敗していたらProf. Lipsitchの読みの方が正しかったことになり、かなり悲観せざるを得ない。
- エコヘルス研究会,国際保健医療学会西日本地方会(厳密に言えば,集会が中止になっただけで,既に抄録集はできているので,誌上発表とのことだが)に続き,オセアニア学会も中止になってしまった。3月のスケジュールに余裕ができたともいえる。
- しかし,数千人以上の不特定多数が集まり,閉鎖空間で唾を飛ばす可能性があるマスギャザリングイベントと,100人未満の,知り合いに限定された,注意深い運営が可能な講演のようなものを一緒に扱うのは,まったく乱暴な話で,これはたんに自粛ムードに抗えないということだよなあ。まあ出張禁止する大学もあるし,仕方ないのだろう。自分が責任者だったら数十人の会議は実行するんだが。いま,人口学会の関西部会を実施するかどうかの相談をしていて,部会長宛に以下の提案をしてみたのだが,さてどうなるか。
- 不特定の人が参加するのではないイベントであり,
- 体調が悪い人やハイリスクな人や感染者と濃厚接触をした可能性がある方(病院に行ったとか)には参加をご遠慮いただくことを徹底でき,
- 密集して唾を飛ばし合うような状況でなく,
- 席間を広くとって十分に換気し,アルコールクリーナーなども用意する
といった配慮をした上で,懇親会なしなら,数十人規模の研究会を実施しても,そこでの感染リスクはほぼゼロと考えます。
- ミーティングが終わって研究室に戻った後,情報をチェックしたら,驚愕のニュースが流れていた。地域クラスターを早期発見して集中的に対策するという手法と相容れないと思う。子供が広げているという論文もないし,学校だけ休みにしても成人が広げたら意味ないし,全国一律の休校は専門家が関与していない政治の暴走なのでは? あまりに乱暴すぎる。はっきり言って,安倍内閣が「やってる感」を出すためのパフォーマンスに過ぎない。政治が専門家会議やクラスター対策班の足を引っ張らないで欲しい。
- 北海道では小学生の兄弟とか,学校関係で感染が広まっているデータがあったので,即時休校はクラスターへの介入として意味がある。たぶん,冬季の北海道は暖房を利かせるため,校舎や乗り物の密閉性が高いといった,特殊事情もあるのではなかろうか。2009年のパンデミックインフルエンザのとき,H5N1新型インフルエンザ対策として決まっていた,都道府県ごとに1例でも患者が出たらその都道府県の学校は全校休校という措置(CFRがめちゃくちゃ低かったので,結局兵庫と大阪でしか実施されなかった)は,フランスのデータに基づいた数理モデルで,患者を最小限にするために有効という根拠があったが,COVID-19はインフルエンザとはまったく性状が違い(インフルエンザは学童への集団予防接種を事業としてやっていて,herd immunityをつけていた頃は,それによって流行を抑えることができていた証拠もある),休校が有効という根拠はない。例えば,R0の分散が大きくなくて,期待値が10とかあるような感染症だったら,ライフラインを除いて全部休業とするなら意味はあるが,その場合でも高校までの学校教育機関だけ休みにするのでは意味がない。COVID-19はR0の分散が大きいから地域クラスターへの介入で抑え込もうとしているのに,全国一斉休校は真逆の愚策だ。取り下げるべき。
- 病院などライフラインは,災害時に人員が減っても運営できるようなシフトを組めるマニュアルができているはずで,帯広の病院のように,休校によって子供の面倒を見るために仕事を休まねばならない医療関係者が2割いてシフトを組み替えねばならないとしても,たぶん回るだろう。もっと問題なのは,そういうライフラインそのもの,とくに病院で感染が広まっているという状況が検出された場合,どうするかだ。COVID-19による死者の減少よりも他の死因による死者が増えては意味がないので,休業しなくてもRtを下げるような策があるか。仮に休業しかRtを下げる手がないときに,数理モデルでRtを下げるため必要という予測が出たらどうするべきか。これには簡単に答えは出ないので,今から考えておく必要があるだろう。
- 終電を逃してしまったので,妙法寺まで歩いて板宿までタクシーに乗り,そこから歩いて帰宅したら1:00を過ぎていた。
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