というくだりなど,実に示唆に富んでいる。市町村レベルでみたときの道路舗装率と老人医療費に正の相関がある(先週の公衆衛生学会での発表に含めた)のは,こういうことを意味しているのかもしれない。山口の道路の良さと長野(とくに長野市)の道路のひどさは,たぶん誰が見ても一目瞭然だと思うし,それが一人当たりにして長野より10万円も高い山口の老人医療費につながっていることの説明としては,道路がいいほどちょっとしたことでも医療機関にかかりやすいのではないかと推論したのだけれど,道路に金をかけることが総じて箱モノに公共投資を集中させることを代表しているなら,そのせいで安心できる保健医療システム作りになってこなくて,高齢になって無駄に高額の医療費を払わねばならないケースが出てきているという説明も可能かもしれない(もちろん,これは論理の飛躍というか,思いつきに過ぎないが)。もっとも,今の日本を覆っている不安感や閉塞感の原因の一端がそこにあるという鎌田氏の指摘自体は正しいと思うけれど,貯金が市場に流れて景気が良くなったとしても,人口増加しないのだから,それはいつか頭打ちになるに違いないと思う。問題は景気が良くなるかどうかではなくて,国民が安心して豊かに暮らしていけるかどうかだからいいのだけれど。病気に対する不安と老後の不安があるために,世界で一番預金をもっているといわれている日本の国民が,お金を貯めたまま使わないのでは,いつまでたっても経済などよくなりっこない。現在,株式投資や保険も含めた国民の資産は,総額千三百八十兆円近くといわれている。国の年間予算が八十一兆円,国の借金は六百八十兆円,国民医療費は三十一兆円。
日本の医療費は,世界的に見ても決して高くない。いらないダムや,走行車両の少ない高速道路建設を見直して,ここに国のお金を投入して,国民が安心できる医療システムや福祉システムをつくりあげることで,老後のために貯めてきた巨額のお金は,市場に流れだすのではないだろうか。