最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
夏の災厄 | 文春文庫 |
著者 | 出版年 |
篠田節子 | 1998年(単行本は1995年) |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
埼玉県のある市に致死率が異様に高い奇妙な感染症が流行する。この病気とインドネシアのある島民を全滅させた病気との関係は何なのか。
これは,その病気自体の謎解きを縦糸に,対策を巡る医療界や市の行政当局の内部で起こる問題を横糸にして,災厄の現場における人々の行動の異常性を織り込みながら,丹念に紡がれた叙事詩である。もちろんフィクションなのだが,いつでも現実に起こりうることであり,緊迫感がある。感染症についても,よく取材していると思う。お薦めである。例によって瀬名秀明さんの解説は優れているので,迷ったらまず解説を立ち読みしたらいいと思う。(以下,ネタばれのため改行)
ただ,今なら,遺伝子組み替えでワクチンをつくるならプラスミドDNAを使うだろうから,小児麻痺のSabinがときどき感染を起こすようなことは起こりにくいと思われる。現実の進行が速いから,こういう医学的なミステリ書きにとっては難しい時代だと思う。