最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
邪馬台国はどこですか? | 創元推理文庫 |
著者 | 出版年 |
鯨 統一郎 | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
5月29日の初版から1999年1月8日ですでに10版というすごい売れ行きの本である。「このミス'99」の国内部門ベスト10にも選ばれている。本書は歴史ミステリという形で新説を展開したものであり,たぶん学説として発表するには裏付けがとれない(または弱い)のだろうが,ユニークな説が展開されていて,それ自体面白い。著者自身,「この作品がフィクションであるという保証はどこにもありません」と断り書きを入れていて,執筆意図がそこにあることは明らかである。
ぼくは歴史ミステリというと,ジョセフィン・テイの「時の娘」くらいしか思い浮かばないし,日本史にも暗いのだが,そういう人間でも楽しめる程度に背景が説明されていると思う。しかも,早乙女静香という狂言回しを配したのが功を奏し,ひどく説明調にはなっていない。著者の意図にそってみれば,成功した佳作と言ってよい。
ただ,懸念が一つ。本書がデビュー作なのだが,この調子で歴史の定説を覆したり謎への仮説を提唱するパタンを続けるような題材を入手できるかどうかが,著者の最大の問題であろう。表題作に比べると,「奇蹟はどのようになされたのですか?」や「謀叛の動機はなんですか?」の問題は,やや無理矢理探してきたような印象が拭えない。この懸念を裏切って,面白い作品を続けて書いてくれることを期待したいのだけれど。