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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『御手洗潔のメロディ』

書名出版社
御手洗潔のメロディ講談社
著者出版年
島田荘司1998



Jan 15 (fri), 1999, 17:39

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

発行当初,どこの書店でも品切れで入手困難だった作品。「御手洗潔の…」シリーズの例に漏れず,中編4つからなる作品集。

全部既発表なのだが,ぼくはEQの1991年5月号で「IgE」を読んだことがあるだけで,ほかの「SIVAD SELIM」と「ボストン幽霊絵画事件」と「さらば遠い輝き」は初めて読んだ。正直なところ,これで1700円の価値があるかというと,難しい。

「IgE」は,EQ発表当時は面白く感じたのだが,今になってみると,大きな欠陥に気づかずにはいられない。最大の問題は,この話を無理矢理「IgE」に結びつけたところにある。このつなげ方は失敗と思う。トリックにもオリジナリティはほとんどない。まあ,御手洗シリーズにトリックのオリジナリティなんか求める方が間違っているので,1991年の時点でIgEに着目したところが偉いなあと思って読めばそれでいいのかもしれない。

「SIVAD SELIM」は推理小説ではない。でも,なかなか心温まる小品である。「ボストン幽霊絵画事件」は,若き日の御手洗潔が解決した事件の話である。名探偵物の王道といってよい作品であり,無難にまとめられている。ふつうに楽しめる。

「さらば遠い輝き」は,評価に困る作品である。推理小説ではなく,レオナ松崎番外編なのだ。何が書きたかったのかよくわからない。例によって社会批判とか先端生命科学紹介(今回は脳科学)とかは冴えているのだが,レオナ松崎というキャラへの思い入れが強すぎて普通の読者としてはついてゆけないのだけれど,愛読者には受けるのかもしれない。


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