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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『風車祭』

書名出版社
風車祭文藝春秋
著者出版年
池上永一1997



Jan 20 (wed), 1999, 20:29

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 なんといっても九十七歳を迎えようとしている仲村渠フジの存在感がすさまじい。沖縄の高校生である武志と、二百年以上も霊として存在しつづけている少女ピシャーマ、このふたりが物語全体のカギを握る主要人物であることに間違いはないのだが、彼らを含めた物語そのものが、仲村渠フジの強烈なキャラクターに飲み込まれてしまっているのだ。
 何がすごいって、神職階級の最高権力者であるホールザーマイを手玉にとって顎でこきつかったり、寝小便をたれてそれを他人のせいにしたり、大洪水のあとの町をボートに乗ってスーパーへ強奪に出かけたり、ピシャーマにとり入って長生きの秘訣を聞き出そうとしたりと、およそ長生きして風車祭を迎えるまでは、どんな手段を使っても、他人にどんな迷惑をかけようと、おもしろおかしく生き抜こうとするのだ。

 もちろん、この作品は文句なしに面白い。六本足の化け豚ギーギーが美女に変身して武志を誘惑しようとしたり、武志の落とした魂(マブイ)が勝手に同級生の睦子を口説いたり、といった不思議な出来事や、残飯で占いをする婆さんや、歌声だけの存在である慶田盛のオジィといったキャラクター、突然カウントダウンをはじめるピッチンヤマ御嶽や、ウチマーや海神祭などの、数々の祭り……。およそ現実にはありえないような要素を多く抱えこみながら、不思議と違和感なく受け入れることができる。また、そのような非現実的な要素がそれぞれ、物語をクライマックスという一点へと収束させるための役割をはたしており、その構築力も見事だと言える。
 それでも、やはり仲村渠フジの存在感にはたぶん誰も勝てない。私には、これから何年か経ってこの『風車祭』がどんな物語だったかを忘れることはあっても、おそらくこのパワー全開婆さんのことだけは忘れられそうにないだろう。

 でも、たぶんそれでいいのだろう。なんといっても『風車祭』は、九十七歳の長寿を祝う祭り、つまり本書『風車祭』は、仲村渠フジの物語だとも言えるのだから。

 余談だが、同じく池上永一の第六回ファンタジー大賞受賞作品である『バガージマヌパナス』に興味のある人は、下記のURLをクリック。


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