最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
整形美女 | 新潮社 |
著者 | 出版年 |
姫野カオルコ | 1999/01 |
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『整形美女』姫野 カオルコ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄もっと目がぱっちりだったら、ドンと座った鼻がもうちょっとスッキリしていたら、
お腹の脂肪が胸にいってたら…。私だって女である。「美人になって変身したいなん
て思ったこともない」と言ったら嘘になる。そんなことを考えている時、ちょうど目
の前に「どうしてきれいになるのをためらうの?」と問い掛ける魔法の扉があったら、
その扉を開いてしまったかもしれない。そして、さらに声がするだろう。「お化粧や
ダイエットだってきれいへの手段。<美容整形>も同じだよ」と――。ここに、同じ地方出身の二人の若い女性がいる。繭村甲斐子と望月阿部子。彼女ら
は高校の同級生、卒業後別々の進路を歩み、二十歳を過ぎた今は顔を合わすこともな
い。そんな二人に共通することは、自らをブスだと思い込み、他人の美を我がものと
して幸せを掴もうとする悲しいまでに貪欲な変身願望だった。甲斐子は、身長169,バスト98,ウエスト54,ヒップ94、王城の貴婦人らが我争って手
に入れようとした装飾品のような顔をもつ。つまり絶世の美女だ。そして、阿部子も
また、堀辰雄の小説に出てくるような、かわいらしい清潔な色気のある美人だと評さ
れる。二人ともタイプが違う。コクのあるルノワールを好む人もいれば、サッパリと
した歌麿を好む人がいるように、美の基準は個々人の審美眼、それと時代が左右する。
他人から見ればじゅうぶん美しい二人は、なぜ変身を望んだのか?「神に復讐するために整形をするのだ」と甲斐子言う。男性は彼女の立ち居姿に圧倒
され、そこに完璧さを見る。このようなイメージは彼女に甘えること戸惑わさせ、ま
た相手もそれを望まない。そして彼女は思う「自分が醜いから、もてないのだ」と。
やがて彼女はある<計画>に取り憑かれるようになる。それは、自分を完全に変える
ための計画。アイデンティティを抹殺して別のそれを培養する計画であった。豆粒のような目、わずかに上向きぎみな低い鼻、小さな口にボテっとした頬、バス
トは小さく、ウエストはくびれず、ヒップは平らで、O脚で、肌は透明感がなく厚ぼ
ったい。これが甲斐子の計画が打ち出した美人だった。この美を具現化した対象が、
昔同級生だった阿部子なのだ。たしかに、阿部子はもてた。男性が気安く声をかけられる一歩ひいたかわいらしさ
があったからである。だが、両思いだと思い込んでいた男性には、妹のような女友達
に過ぎなかったのだ。そして阿部子は思う、彼が憧れるような美人になりたい。甲斐
子のように強烈な光を放つ美人に。そう思っていた時、以前もらったままにしていた、
美容整形のPR本「どうしてきれいになるのをためらうの?」が妖しく誘いかける。こうして二人は、虚構の扉を開いてしまう。扉の向こうには何があったか?テレビ
で微笑みかけ、何も心配なことはありません。お化粧と同じですよと説く優しい医師
はいたのか?じゅうぶんなカウンセリングは受けられたのか?様々な手術を受け、自
らが思う美を手に入れた甲斐子と阿部子。はたして、望んでいたような愛や幸せも手
に入れることができたのか。美容整形という言葉につきまとう暗いイメージ、いつば
れるかという終わりのない呪縛と脅迫感を払拭できるほどの幸福感は得られたのか?ラスト近くに阿部子は言う、「もとに戻るか戻らないか、とか、芸能界で生きるか
生きないかとか、そういうことが美容整形の不倫なのではありません。それを隠した
ときから不倫になるのです。整形は、整形の行為自体よりも、隠すというところに、
人は不正と狡猾を嗅ぎつけるのです」と……。面白かった!! 作中、著者も書いているように、マスコミと美容整形業界との広告
を介した切れない関係からだろうか、この手の話が話題になることはそう多くない。
このような何処か後ろめたい触れづらい話題に、真っ向から挑んだ作者の意気込みが
フツフツと感じられる意欲作だった。整形がすべて悪いとは思わない。たしかに、人生を変え、再出発する転機にもなる
だろう。だが、それを隠さないという強さを身につけてからでないと後悔するという
ことを痛切に感じさせられた。整形し美人になった時、周囲から聞こえてくる賛美の
声を自分は果して素直に聞けるのか。しょせん私は<整形美女>と、かえって卑屈に
身を屈めてしまいそうな気がするのだ。やはり、アイシャドウをひと刷毛彩るのとは
違うのだ。気丈にも自らを振り返り、自己を取り戻した阿部子に幸あれと願う。もっと美しくなりたいと思っている女性の方、もっとカッコよくなりたいと思って
いる男性の方、美容業界に関係する方、美を追求するすべての方々にオススメです♪○著者/姫野カオルコ ○出版/新潮社 ○発刊年月/99/01 ○価格/1500円
○ページ数/243P ○ジャンル/小説 ○判型/単行本 ○ISBN/4-10-427701-0
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